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コラム

ナッジ(nudge)とは

2021.08.06

eラーニングコンテンツやシステム企画を立てていると、「ゲーミフィケーション」や「ナッジ」といった、ユーザーの行動やモチベーションを操作・誘導する仕掛けを仕掛けることがよくあります。
今回は、そういった仕掛けの中から、行動経済学の手法である「ナッジ」について、簡単ではありますがご紹介したいと思い ます。

目次

  • ナッジとは
  • ナッジの手法例
  • 政府もナッジに真剣に取り組む
  • 最後に

ナッジとは

「ナッジ(nudge)」とは、直訳すると「(注意や合図のために)ひじで軽く突く」という意味になります。行動経済学などで使われる用語で、「ちょっとしたきっかけを与えることで消費者に行動を促す手法」と定義されています。

ナッジは、2003年にシカゴ大学経営大学院に所属するリチャード・セイラー教授とハーバード大学のキャス・サンスティーン教授の論文「リバタリアン・パターナリズム」で提唱されました。
その後、リチャード・セイラー教授は行動経済学としての研究を進め、2017年にノーベル経済学賞し、それがきっかけでナッジの知名度はさらに上がっています。

伝統的な経済学と行動経済学の違いはどこにあるのでしょうか。
伝統的な経済学では、議論を分かりやすくするため、人間は「自分が得するように必ず合理的に判断する」と想定されています。ところが現実の人間は、さほど欲しくない物を衝動買いしたり、ギャンブルにはまったりとあまり合理的とは言えない行動を取ってしまいます。

リチャード・セイラー教授は、人間は「非合理的」な生き物として、人間は間違いをしでかす存在だという前提に立ち、その行動を科学する目的で「行動経済学」を研究しています。
セイラー教授は、相田みつをの大ファンだそうで、「『つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの』。私は相田みつをのこの言葉が大好きなんだよ」とインタビューで答えています。

セイラー教授は、心理学と経済学を組み合わせて人間のリアルな活動を経済理論に取り込み、実際の現場で役立つ画期的なアイデアを次々と生み出したことが高く評価され、ノーベル賞受賞につながりました。

ナッジの効果を示す例として有名なのは、やはり「便器のハエ」かと思います。
時は1999年、オランダはアムステルダムのスキポール空港では、トイレの清掃員の人件費削減に頭を悩ませていました。特に男子トイレの小便器は、便器からそれた小便を清掃する手間が問題でした。そこで担当者は、低コストで実行できる一計を講じます。
男性トイレの便器に、小さなハエのイラストのシールを貼ったのです。こうすることにより、利用者が「的を当てる」感覚でハエを狙うからです。策は当たり、見事に他人の小便のコントロールをしたのです。なんと清掃費は8割(1億円以上!)も減少したそうです。
こうして、アムステルダムの小便器のハエは「ナッジ」の最も有名な成功例となりました。

このように、科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略が「ナッジ」です。スキポール空港の場合、「人間は的があると、そこに狙いを定める」という心理分析に基づいて、他人の小用をコントロールし、小便器を正しく利用させたわけですね。

ナッジの手法例

私たち人間の行動は、合理的な行動から一定のパターンで「偏り(バイアス)」があります。この特性を見つけて、それを体系的に経済学に取り入れるのが行動経済学です。その手法は、ビジネスの現場でもよく使われています。ここでは、ナッジの例を使われた手法別にご紹介しましょう。身近なものでも「あれもナッジか!」と思い当たるものも多数あるかと思います。

①Default(デフォルト:初期設定)

「デフォルト(初期設定)」とは、とってほしい選択を最初から設定しておくことで、異なる選択をとる可能性を低くするテクニックです。「選んで欲しい選択肢をあらかじめ初期設定として用意する」ことで、その選択肢を選んでもらいやすくする技です。

Amazonでは、プライム会員の加入を促すために無料期間を設けています。無料期間中に加入した人はいつでも解約できますが、解約手続きが面倒で、そのまま継続してしまう人もいるかと思います。
このように会員となっている状態がデフォルトになってしまうと、解約するには手間がかかるので、なんとなく続けてしまうという手法です。

楽天などでショッピングをする際に、メールマガジンの登録チェックボックスに「あらかじめがチェック入っており、不要な人はチェックボックスを外す」というのも同様です。

②Incentive(インセンティブ:動機)

「インセンティブ」では、「何らかの報酬を用意することで、行動を促す」というものです。

例えば、飲食店のポイントカードもインセンティブの1つでしょう。購入すると引けるくじやプレゼント、先ほどのメルマガの例で言えば、「メルマガ登録で10%割引」と言う感じですね。

③Feedback(フィードバック:帰還、反応)

「フィードバック」とは、特定の行動を起こしたらすぐに反応が返ってくるギミックを組み込むことで、自発的に行動を起こすよう誘導するテクニックです。

例えばネットショップの会員登録を行う際に、入力フォーム上で、電話番号を全角で入力していたら画面上に「半角で入力してください」と出てきたとします。その結果から学んで、住所を入力する時は最初から半角数字で入力を行ってくれるようになります。仕組みにフィードバックを組み込むことで、ユーザーを自然に誘導できます。

④Structure(ストラクチャー:構造化)

この場合の「構造化」とは、「選択肢の構造化」を指します。選択肢の構造化は、複雑な選択肢をわかりやすくすることで、特定の選択肢に導くテクニックです。

レストランで、「本日のオススメ」「シェフおすすめ」と書かれているのも、たくさんの中から選ぶ際の誘導をしています。こういった案内があることで、大量にあるメニューから選ぶべきメニューが絞られ、消費者にとって選択しやすくなります。

人は選択肢を与えられることにより、自分で選んだという意識が芽生えます。ルールで強制されるのではなく、望ましい行動をするよう、誘導する際に有効な手法です。

例えば、レストランのメニューで価格別に「松竹梅」があった場合などです。松が3,500円、竹が2,000円、梅が1,000円、懐具合が寂しくても、つい「松竹梅」の「竹」をつい選んでしまうのもナッジなんですね。行動経済学によればメニューが3種類あると、5割以上の客が「真ん中の価格」を選ぶそうです。

行動経済学では、こうした人間の心理を「極端回避性」言います。この行動にはもう一つ伏線の作用があって、最初に3,500円の松が目についたため、ふだんなら予算オーバーの竹を安く感じてしまう「アンカリング効果」も働いているのです。通販で、「ここからさらに1万円引きます!」と言った「最初の提示額よりも値引きされると、よりお得感を感じる」のも「アンカリング効果」です。

⑤その他

テレビ通販などでよく見る「売り切れ続出」や「有名人の○○が愛用」といったコピーは、商品の機能を自分で吟味せず、利用しやすい情報だけで判断してしまいがちな「利用可能性ヒューリスティック」という人間の性質を突く手法です。

「返品無料」には、商品が届いて「一度自分のものになると価値が上がったように感じる」という「保有効果」があるそうです。こうした効果があるので、売り手側は「返品無料」をうたっても、返品されるケースはあまりなく、そのリスクは微々たるもので商売に影響は少ないみたいです。

「ツケ払いOK」や「ローン支払い」には、「今すぐ払わなくていい」と、負担が軽くなったような錯覚に陥りがちになる「現在バイアス」が効いています。

政府もナッジに真剣に取り組む

最近では、政府や自治体などの取り組みでも使われ始めています。
アメリカにおいても、2015年にナッジを活用するようオバマ元大統領による大統領令が発令されました。

「ナッジ」の最大の成功例と言われるのが、アメリカで企業年金(確定拠出年金:401k)の加入率を大幅にアップさせたケースです。「401k」は、企業が掛け金の一部を負担するので、従業員にとっては有益な年金プランのはずです。しかし、多くの人が進んで加入しようとしませんでした。その理由は、加入手続きをする際に、たくさんの書類に貯蓄額や、希望する投資先などを細かく記入する必要があったからです。

その結果、定年後生活に困る人が続出し問題になっていました。そこでセイラー教授はナッジで解決します。方式を180度転換し、年金に入りたくない人が申込書に記入し、書かない人は自動的に加入するという「年金脱退申込書」を従業員に書かせることにしました。するとこの方式を導入した企業の年金加入率はおよそ90%に急上昇したそうです。めんどくさいことはしたくない、そんな人間心理を巧みについたのです。

アメリカだけでなく、英国でも、2010年に内閣府の下に、ナッジを政策に応用するための専門チーム「BIT(the Behavioural Insights Team)」が設立され、公共政策での活用を推進しています。

彼らはまず、納税率の改善に取り組みました。テストとして、ある地域では行政が送る納税通知書に、「同じ地域に住む住民の納税率」を記載しました。すると、その納税率を見た滞納者の義務履行意識が高まり、地域全体の滞納率が減少したそうです。この結果を踏まえ、全国的にナッジを用いたメッセージを納税通知書に記載することが2012年に決定し、年間およそ2億ポンドの税収の増加を実現しました。

日本も、2017年4月低炭素型社会の実現のため、国民一人一人が自発的に行動を起こすよう促すことを目的としたナッジ活用の特別チームが環境省内に設立されました。

国は省エネ促進のため、近所で家族構成などがよく似た家庭と比較して、どれくらい電気を使っているかがグラフで示されるというレポートを請求書と一緒に毎月送りました。他人と比べて多いとか少ないとかいわれると、気になるのが人間というもので、これがナッジとなって各家庭が電気の使用を2%減らせば、年間3兆円もの電気料金を節約できるというプロジェクトです。

最後に

ナッジのポイントは、低コストで人の行動を変えられることです。あくまで選択の余地を残しながらも、少し表現を変えたり、やり方を変えたりするだけで大きな効果を生み出し、人々の行動をいい方向に後押しするのです。対象者にとっては自発的に選択した感覚があるため、商品やサービスの体験を損ねません。そのため、マーケティングや営業においても、顧客を満足させつつ自社の誘導したい選択肢へと導く方法として知っておきたいところでしょう。

行動経済学の手法、ナッジを使うことで、学習者を誘導することが可能になります。ただ、あまりにやり過ぎると無意識のうちに先入観を与え、反対の行動を起こさなくなり、偏ってしまい、弊害もあるかもしれません。ナッジは魔法のような効果がありますが、そこに正常な判断を邪魔するために使うことは良くないと思います。倫理や社会利益に反しない用途に限るよう、設計側の配慮も求められるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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