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コラム

エビデンス・ベースト・エデュケーションとは

2021.11.02

「○○ベースド」という言い方をよく見るようになりました。やり方のベースとなるものを明示して、それに沿った方法に付けられる言い回しです。「アカウント・ベースド・マーケティング」とか「ピープル・ベースド・マーケティング」とかマーケティング分野でよく使われ、方法論のベースとなるものを明示することにより、コンセプトが明確になります。

今回のキーワードは、教育分野でも比較的新しいキーワードである「エビデンス・ベースト・エデュケーション」です。

目次

  • エビデンス・ベースト・エデュケーションとは
  • 教育政策とエビデンス
  • 医療の分野ではエビデンスは主流
  • 最後に

エビデンス・ベースト・エデュケーションとは

「エビデンス」は英語の「Evidence」を指し、最近はビジネスの会話の中でも普通に耳にするようになった言葉ではないでしょうか。意味は「(立証するための)証拠(物件)、物証、証言、証拠」です。IT業界などでは「効果測定のエビデンスを出してください」なんて言い回しがよく聞かれますが、統計データなどの科学的根拠に基づいて判断などを行うことを指すのが「エビデンス・ベースト(evidence based)」です。つまり、「Evidence Baced Education」は「エビデンスに基づく教育」ということです。

教育で統計データや科学的根拠といってもあまりピンとこないかもしれませんが、要は、「教える人の勘や経験上からではなく、数字や質的調査、研究に基づいて教育の内容や方法を作り出す」ということだと私は認識しています。

エビデンスに基づいた教育の必要性は、90年代のイギリスで主張され始めました。時代背景として、イギリスではブレア政権が「エビデンスに基づく政策」を推進したこともあり、教育研究でもエビデンスに基づく教育政策や、それを支えるための教育研究が広まったようです。

エビデンス・ベースト・エデュケーションの定義の一例として、2012年にEvidence Based Education研究会によって定義されたものが下記になります。

「入手可能な最良の研究調査・実践結果をもとにして、実践者の専門性と児童生徒及び保護者の価値観を統合させることによって、臨床現場における実践方法に関する意思決定の最善化をはかるための行動様式」

また、教育経済学者で・慶應義塾大学の中室牧子准教授による説明では、

”エビデンス・ベースト・エデュケーションとは、科学的根拠(エビデンス)に基づく教育政策のことであり、データに基づいて教育を分析し、そこから得られた知見を政策に生かすという考え方である。端的にいってしまえば「どういう教育が成功する人を育てるのか」ということを、科学的に明らかにしようとしているのである。”

と説明されています。

米国で実施されている具体例を見てみたいと思います。

教育政策とエビデンス

教育は、国や地域によってさまざまの方法があります。

細かく見れば、教師一人ひとりの考え方や、教え方にもよるでしょう。そこには各自の「主観」が大きく働いています。
その「主観」をもとに教育は行われますが、果たしてそれは本当に正しいのでしょうか?
その教育による成功者は、他の方法より多かったのでしょうか?
人間の成功には、あまりにも多くの要因が影響しているため、一般化することはとても難しいです。たまたま、その生徒にマッチした教育だっただけかもしれませんが、それを証明することは教育の比較実験に消極的でデータの乏しい日本では難しいと思われます。

アメリカでは、教育経済学が活用されており、教育にかける予算などは行政府に厳しく管理されています。州などが新しい教育政策をやろうと思ったら、実験対処の一部の学校で社会実験を行い、そのデータから成果が出たら場合は、その方法に投資をしてスケールアップしていく方法がとられます。つまり科学的な裏付けがないと教育政策に予算はつけないというはっきりとした方針があります。

以前、米国で幼稚園と小学校で最適なクラスの規模を探る実験が行われました。
生徒数を10名以下の小クラス、13~17名の中クラス、22~25名の大クラスに無作為に分け、クラス分けの前と後で、テストを行い、その偏差を調べるといったものです。

この実験では、中クラス(13~17名)のクラスが一番良い成績でした。
教育学の常識的に考えると、少人数指導の小クラスが一番良さそうな気もしますが、実験の結果は中クラスが一番良かったんです。
そこで全米で、最適なクラスサイズは中クラスという基準ができました。もし、これが教育委員会や教育者の主観で提唱されていたら、小クラスになったかもしれせん。もっとも、小クラスは教員の人件費がかかりますので、費用的に中クラスになる結果だったのかもしれませんが。

ちょっと古い実験ですが、最近の実験では、iPodなどデジタル教育ツールの効果について実験した例があります。
実験では、iPadなどのタブレット端末を教科書にした児童と、本の教科書を使った児童のどちらが成績が良かったかを調べました。実験結果としては、両者に成績の差はなかったようですが、コスト的に数万かかるタブレット端末と、数百円の書籍と効果が一緒であれば、書籍のままになるでしょう。

この実験がなければ、時代の流れもあり、教育業者が進めるタブレット教材が購入されていたかと思います。結局タブレット教材のICT関係者はその後、改良と実験を繰り返し、タブレットの教育効果のエビデンスを証明していかなければならなくなりました。

このように米国では、生徒の偏差値を1ポイント上げるためにいくらコストがかかるのかを、教育経済学を使って分析し、それに基づいて教育が決められていくのです。

医療の分野ではエビデンスは主流

「エビデンス」とは、もともと90年代に医療分野で使われ始めた言葉です。そのため、エビデンス・ベースト・エデュケーションの説明では、似た方法論として医療の分野で使われる「エビデンスに基づく医療(Evidence Baced Medicine :EBM)」がよく紹介されています。エビデンス・ベースト・エデュケーション同様の訳で、「科学的に証明された根拠に基づいて医療を行う」と訳されます。

EBMには、「Evidence Baced Medicine :EBM の5ステップ」というプロセスが取られます。以下はその5ステップのプロセスを箇条書きにしたものです。

★Evidence Baced Medicine :EBM の5ステップ

  • Step1 問題の定式化

    • 患者の問題をカテゴリに分類
    • 患者の問題を「どんな患者が(Patient)」、「ある治療/検査をすると (Intervention / Exposure)」、「どうなるか Outcome」の3要素に定式化
    • 患者中心のOutcomeの設定
  • Step2 情報収集

    • 情報源の種類と特徴
    • 適切な情報の検索
  • Step3 批判的吟味

    • 治療の論文の批判的吟味
    • 治療効果を表す指標と特徴
  • Step4 患者への適応

    • 論文と実際の医療環境の違いを指摘できる
    • 論文の内容を患者に説明できる
  • Step5 中止と継続

    • うまくいかない場合は、そのプロセスを一旦中止
    • 中止して、次の問題に取り組む

5ステップを整理するとこのようになります。

  • step 1:疑問(問題)の定式化

    step 2:情報収集

    step 3:情報の批判的吟味

    step 4:情報の生徒への適用

    step 5:step 1~step 4のフィードバック

ここで大切なのは、根拠があれば何でも「エビデンス・ベースド」で効果があるわけではなく、自然科学の手法にのっとった研究手続きをどの程度踏んでいるかで、質の高い/低いというエビデンスの階層があります。エビデンスの質はとても重要なのです。

また、なんでもそうですが、実践だけでなく、理論だけでもなく、実践と理論の両方が連携していくことが重要です。エビデンスが証明されたからと言って、それが教育上正しいわけでもないので、そこには慎重な議論が大切です。

例えば、子供の教育効果の実験では、「親の経済力が子供の教育効果に影響がある」という実験結果が報告されています。しかしながら、経済力の低い親から子供を引き離して、エビデンスで証明された理想的な環境で育てることが、教育効果が高いからと言って「正しい」ことではありません。
また、先にあったイギリスのエビデンスによる教育改革では、教師の裁量が減ったことによる偏りや、テスト漬けによる悪影響などが問題となってもいます。やはり状況に応じて、実践と理論の両方がうまく連携していくことが大切なんですね。

最後に

とは言え、データを正しいプロセスで取得・分析し、そこから導き出されたエビデンスによって施策を行うことは、一部の人間の勘や経験に頼るよりは信頼性は高いと私は思います。

それゆえに、今後の教育行政には「少人数学級」「タブレット端末教科書などのICT化」などはしっかりとしたエビデンスを取って実施してもらいたいと思います。私の経験上、様々な社会環境の変化に対応していくには、古い人間の勘や経験が追い付いていかないような気がします。
今注目されている統計学ブームに乗るわけではありませんが、結果が証明する事実に目を向けるのも大切だと思います。

企業における人材教育でも、こうした動きは顕著です。

e-Learningのシステム上のデータを利用した効果測定は常に行われています。このデータは科学的な実験ではないのでどこまで信用できるかはなんとも言えませんが、そういったデータ上の動きをトレースして、新たな教育手法がどんどん生まれてきています。

例えば、グループを2つに分けて、研修とe-Learningのブレンド具合を変えて、その効果を測定するなどです。これもその企業の業種やカルチャーにもよりますが、こうした実証実験をもとにした取り組みがもっと増えてくると、人材教育はどんどん面白くなってくるような気がします。

最後に米国の実証実験によりわかったエビデンスの一つに、「どの高校や大学にいっても、将来の年収に影響しない」というのがあるそうです。
なので、私もあきらめずに頑張りたいと思っております(笑)。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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