多くの企業で、従業員のエンゲージメントを高める試みとして、「ワークプレイスラーニング」の整備が行われているようです。
仕事のやりがいや給料を満たすだけでなく、従業員の仕事上のスキルアップを積極的に会社が支援することによって、モチベーションが上がり、高い生産性を上げ、人も会社もハッピーになると認知が進んだという感じでしょうか。ワークプレイスラーニングは、従業員のエンゲージメントを高める手段としても重要な意味を持つようになりました。
今回はこの「ワークプレイスラーニング」について簡単ではありますが、説明させていただきます。
目次
ワークプレイスラーニングとは
ワークプレイスラーニングとは、直訳すると「職場での学習」ですが、少し意味を足して「働く現場における学習」と呼ばれます。 簡単に言えば、「学習」と「実務」を連携させるタイプの企業内教育スタイルです。個人のスキル向上と組織パフォーマンスの改善を目的とした学習の仕組みを作り、日々の実務のプロセスに組み込むことによって高い学習効果を実現、人材の能力開発に有効な手段として注目されています。
「人間の能力開発の70%は、インフォーマルラーニングによって説明がつく」と言われています。これは座学による研修やeラーニングといった、いわゆるフォーマルラーニングによる学びは30%、残りの大部分70%は実際の仕事(現場の経験:インフォーマルラーニング)から学んでいるという意味です。ワークプレイスラーニングは、この70%の「現場の学び」に注目した概念です。これまで「現場の学び」は、現場の人間まかせにされ、多くの場合は、「放置OJTプレイ」などと呼ばれる実態のようです。 この正常に機能していない「現場の学び」にも会社が積極的に支援しようとする考え方がワークプレイスラーニング施策です。
ワークプレイスラーニングの歴史
社会人が仕事をするには、専門的知識や仕事に関連する情報、状況判断や知恵などを活かしながら行わなくてはいけません。そして現代は高度な情報化社会なので、必要な情報量も莫大になり、かつ変化も激しくなりました。現場では、こうした様々な知識や、問題の解決策を導き出す力が求められます。しかし、そのような能力を上げるには座学研修やセミナーだけでは限界があり、現場の実経験なくしてこれらを身に着けることはできないでしょう。つまり人材の能力向上を促進するには、「学習」と「実務」を連携させた仕組みづくりが必要となります。
2000年位から、アメリカの先進企業では、「実務」と「学習」を連携させた新しい学習環境「ワークプレイスラーニング」の試験的導入がはじまりました。2007年にアメリカのラーニング・デザインの専門家であるマークJ.ローゼンバーグが著書”Beyond e-Learning”を発表したことにより、ワークプレイスラーニングのコンセプトが広く認知されました。この本の中でローゼンバーグは、集合研修やOJTはもちろん、学習支援となるツールや職場、コミュニケーションまで、ワークプレイス全体の学習環境を連動させて、効果的に設計することを提唱しています。
“ユニパート社の事例”
「企業内での学習環境の整備」は実は、欧米の先進企業では既に90年代から整備されてきました。有名な事例としては、イギリスの物流・ロジスティック企業ユニパート社では、各事業所の中に学習室があり、仕事に必要な能力開発ツールや eラーニングコンテンツが24時間いつでも使えるようになっていました。
さらに驚くべきは、全事業所からオンラインで集められる問題解決事例のデータベースがあり、現場で問題が見つかるとグループで集まって情報を調べ、ヒントを得るとすぐまた現場へ、という具合に従業員が日常的に現場と学習室を行ったり来たりして仕事を勧められていたことです。こうして解決した事例や新たに発見された問題は一定のフォーマットで即時に登録され、新しい学習リソースとなります。
このノウハウ・ナレッジをもとに、ユニパート社はネット通販会社の物流を支援する会社や学習システム構築を支援する会社を立ち上げ、新たなビジネスへと展開させてることに成功しました。
課題
これまでは、「現場の学び」と言えば、「OJT(オンザジョブトレーニング)」でしたが、現実は、OJTという名のついた「放置OJTプレイ」になっているケースが多いと言えます。職場の上司や先輩が、部下や後輩に具体的な仕事を与えて、意図的・計画的・継続的に指導し育成していく活動が本来のOJTですが、実態は見よう見まねで仕事をさせ、指導する立場の上司や先輩自身は教育意識が低く、無計画で一時的な対応になっているケースが多いのではないでしょうか。
一方、職場を離れて教育研修やワークショップ、セミナーなどを受講するOff-JT( オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)は、。職場ではなかなか感じ得ない、きっかけづくりとしてや、気づきを得るという意味でとても重要な学習機会ですが、実際の仕事の現場に戻ると現実とのギャップに苦しみ、活かしきれないという声もあります。
具体的な方法
例えば、コーチングやメンタリング(メンター制)を取り入れたやり方でOJTを実施するなどです。また、OJTだけではなく、eラーニングコンテンツを使ってICT環境で知識を学ぶことも、導入していなければすべきかと思います。
最近よくある事例では従来のeラーニングに加え、社員同士がネットワークで情報交換をするSNSや、社員が業務で得た個別の知識やノウハウを一元で管理・共有できるナレッジマネジメントシステムを構築し、必要に応じ実務情報を検索して入手できるよう情報共有機能に力を入れているケースが多いです。
これらを導入することで、現場での学習効果も高められますし、問題解決の手段が増えたり、新商品の開発や新たな事業展開などの成果にもつなげることができます。
ワークプレイスラーニング環境構築の具体例
OJTは、ガイドラインを整え、コーチングやメンター制、ブラザー・シスター制度などを取り入れて支援を受けられる状態で実施する。
指導するマネージャーや職員のコミュニケーション能力の向上などの支援(コーチング研修、コミュニケーションスキルアップ研修)
従業員自身が日々の業務の中で学んだことを積極的にコミュニティ上で同僚に教えることができる社内SNSを用意
社員が業務で得た個別の知識やノウハウを一元で管理・共有できるナレッジマネジメントシステムの構築
e-ラーニング教材等や各種情報データベースへ容易にアクセスできる環境の整備(マニュアル、ジョブエイド)
上司や同僚からフィードバックもらえ、貢献したものを評価できるシステム
希望や適性や成果などに応じて柔軟に対応できる配置転換ルールの整備
これらのワークプレイスラーニングを促進する制度を取り入れる上で大切なのは、社員が自発的に学べる環境を整備してあげることす。社員が自ら課題を設定して、学習の機会をさまざまなツールから選択できる、その仕組みを組織のなかでどのように定着させていけるかが成功のカギと言えます。
最後に
企業のワークプレイスラーニング導入の狙いは、個人や組織のパフォーマンス改善であり、結果として業績に結びつく知的生産性向上が求められます。そして、仕事の経験値の少ない人だけでなく、その職場で働くすべての人を対象に、「業務改善プロセス」と「学習プロセス」を現場で同時に起こすことが期待されるのです。
こうして業務のクオリティが上がっていくことは言うまでもなく、所属している組織内で成長を実感できることや周囲との人間関係づくりをできることで社員の「エンゲージメント」も向上します。
程度の差はあれ、人は誰でも「成長したい」という願望があると思います。成長し、認められ、自分の価値を上げたいと思ったときに、自分の置かれている環境を考察し、会社が自分の価値を上げてくれると思えれば、仕事に熱も入るのではないでしょうか。こうした取り組みに熱心な職場環境は、人材が流動的になった近年でも魅力があり、良い人材が集まり、長く従事してもらうことができています。
会社での人員の定着率が思わしくないときに、給与などの待遇面の改善だけでなく、ワークプレイスラーニングの整備にも目を向けてもらいたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。