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  • ノウフー(Know Who)とは

    「ノウフー(know who)」は、ナレッジマネジメントの機能の一つで、文字通り「誰が知っているのか」つまり、組織の中で誰がどのような知識を持っているのかを知る仕組みの事を指します。 今回はこのノウフーについて、詳しくご説明したいと思います。 目次 ノウフー(know who)とは ノウフーの導入 ノウフーの事例 最後に ノウフー(know who)とは 業務に必要な専門知識や問題解決の知恵を「ノウハウ(暗黙知)」と呼びます。企業において、社員のノウハウの習得や蓄積を促すことが人材育成の目的の一つです。しかし、日ごろの業務の中では、各自が身につけられるノウハウの量やカテゴリーに限界があるのも事実です。では業務の中で、自分の知らないことや専門性の高いスキルが必要となった時どうすればいいでしょうか? そんな時、各自のノウハウを共有化できるライブラリやマニュアル等があれば、それを検索して使えばいいという発想からナレッジマネジメント・システムが生み出されました。しかし、ナレッジマネジメント・システムにすべての企業のノウハウ(暗黙知)を格納する(見える化)するのは容易ではありません。 ノウハウを持つ人の協力が必要だったり、マニュアル化が難しかったり、そもそも文書では伝わりにくかったりするノウハウもあるでしょう。このように「見える化できないノウハウ」が企業にはたくさん隠れています。 ナレッジマネジメントシステムに集約することは大切だがすべて行うのは難しい、ならばそのシステム化の手間を別の角度から考えて楽に行おうというのがノウフーのきっかけです。 つまり、問題解決のノウハウがライブラリになければ、その道のエキスパートや、かつて同じ経験をしたベテランを探し出して、ノウハウを直接教えてもらう、アドバイスしてもらう、その方がスピーディーだし、しっかり伝わるのではないか?というのが「ノウフー発想」です。探し出すものを「Know How」から「Know Who」へ発想を変えたんですね。 そのために、「どこにどんな業務の経験者やエキスパートがいるのか」といった組織内の人的資源情報を蓄積し、検索できるしくみが必要となります。 組織内に眠るノウハウを利用するために、ノウハウ自体をマニュアルなどで「見える化」するのではなく、誰がノウハウを持っているのかという在りかを見える化するのがノウフーなのです。 ノウフーの導入 ノウフーの導入は、特に数百人・数千人など大規模な組織で有効です。大規模な組織では、個人が全ての知識を管理する事は不可能に近く、非効率でもあります。 ノウフーのやり方として、「人材の情報を管理し可視化する」データベース化と、「知りたいこと質問して回答をもらう」掲示板方式があります。 まず、人材の情報を管理し可視化する方法として、まず社内イントラネットの利用が考えられます。社員や従業員が自分自身で業務の経歴や得意分野、スキルや資格等について社内イントラネット登録し、人的資源のデータベースを作ります。そして、カテゴリやキーワードなどで検索できるようにします。 知りたいこと質問して回答をもらう掲示板方式には、社内イントラの社内掲示板、グループウェア、社内SNSなどを利用します。 社内掲示板にその時に知りたい情報を書き込むと、それについて知っている人が回答を書き込んだり、あるいは「それについて知っている人物」を知っている人が、「あの人に聞くと解決できる」などのアドバイスを書き込み、ノウフーを共有するというのが基本的な流れです。社内版のOK Web、Yahoo知恵袋といった感じですね。 グループウェアは、組織の業務効率化を目的とした組織内のコミュニケーションツールですが、本来の機能はメンバーのスケジュールやTODO、プロジェクト管理などの組織内での業務上の情報共有や進行管理を主な機能としたツールです。グループウェアならほとんどの製品が掲示板作成機能を持っていますので、スピーディに始めることができます。 最近人気なのが社内SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)を使うやり方です。ビジネスSNSは、各社員が所属部署や役職などの関係性を超えて情報共有やコミュニケーションを計るためのツールです。 SNSを使ってつながりを深めることで、組織を活性化する事が目的ですが、このコミュニケーション機能を使ってノウフー検索をすることが可能です。具体的には知りたいことをタグ検索したり、知りたいことでタグをつけて発言し、そのことについてのフォローを求めます。 SNSによるノウフー機能は人気があり、話題になっています。人気の理由はやはりSNS独特の「気軽さ」ではないでしょうか。掲示板やグループウェアよりもカジュアルで、心理的ハードルも低いので、「教えて!」感で質問や解答のやり取りができます。些細なことでもヒントとして投稿することに躊躇しないので、回答数が伸びる傾向にあります。また、その場でアイデアを出し合い解決策を模索するといった使い方にも向いてます。 ノウフーの事例 NTT東日本では、2005年秋から社内SNSを開始。2年後の07年には、7,500人以上の社員(グループ全体の約15%)、3年後の2009年には8,300人(80%)が参加。2013年にはグループ企業を含む14,000名が参加する国内最大規模の社内ネットワークに成長したそうです。機能としてよく使われるは「Q&Aコーナー」で、「誰に聞けばよいのか」的な質問が多く、まさにノウフーとして利用されているようです。 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社では、2001年にナレッジ・ポータルを立ち上げ、2005年以降にSNSを使った個人ブログと社内ブログを情報共有の強化策として、機能追加しています。ブログと検索機能によって「誰が何を知っているのか」を知ることができますし、「個人ブログ」で人柄もわかりやすく、聞きやすい環境ができたおかげで、組織内でのコミュニケーションの活発化したそうです。 損害保険ジャパン日本興亜株式会社では、企業情報ポータル「損保ジャパンの窓」というポータルがノウフー機能を担っています。もともとこのポータルは、「現場の状況が経営層に届かない」「社内の情報収取が電話では限界がある」「組織内の情報共有が不十分」などの課題を解決するために作られたという経緯があり、その機能も情報共有とコミュニケーションに重点が置かれています。具体的には「Q&A」、「個人ブログ」そして直球で「ノウフー」というコミュニケーションツールが導入されました。 仕事に関する相談の見える化や、失敗事例などのリアルタイムでの共有、社員自身の新たな気づきなどの発見に役立っているそうです。 最後に ノウフーの目的は、ノウハウを持っている人と必要としている人をスピーディーに結びつけ、結果的に組織力を向上させる事にあります。 ノウフーは「誰が何を知っているのか」を可視化する仕組みなので、その「誰」が退職したりすると、その組織内にノウハウが存在しなくなってしまいます。 したがって、人材が企業内にいるうちに、ノウフーを何らかの形で残す施策を行う必要があります。方法としては、ノウハウのドキュメント化は非常に時間がかかるため、AIを使って掲示板やSNSなどのやり取りの記録を分析・見える化し、ナレッジマネジメント・システムから呼び出せるようにするなどの開発が行われています。 団塊世代の大量退職など、高度な技術やノウハウを蓄積してきた世代が職場を離れると、「誰に何を聞けばいいのかわからない」という状況に陥りかねません。多くの企業にとって、ノウフーの構築と同時にノウハウの蓄積はまったなしの課題となっています。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • モチベーション3.0とは(Part2)

    前回は、人間を動かす「やる気の素(DRIVE)」をコンピューターのOSに例え、より高次な段階に入った現在では、管理や強制といったマネジメントベースのOSは機能不全に陥りつつあり、個人の自主性を尊重するOSにバージョンアップが不可欠と説明されていました。 また、過去のOSであるモチベーション2.0と、その動機づけの方法である「アメとムチ」による「外発的動機づけ」が、実験の結果、本来の意図とは反対の影響を生み出すことについて説明しました。 今回はモチベーション3.0についての説明が中心になります。 アメとムチのような外発的動機ではなく、「自律性」「成長性(マスタリー、熟達)」「目的」の3つ、内発的動機付けで行動するのがモチベーション3.0ということを詳しく説明します。 目次 「タイプ I」と「タイプX」の補足 1.モチベーション3.0 3つの要素「自律性(オートノミー)」 2.モチベーション3.0 3つの要素「成長性(マスタリー、熟達)」 最後に 「タイプ I」と「タイプX」の補足 モチベーション3.0の説明の前に、前回少し説明した「タイプ I」と「タイプX」について、もう少し説明させていただきたいと思います。 タイプX(extrinsic)の人の行動は、内発的な欲求よりも、外発的な欲求をエネルギー源とする行動で、活動によって生まれる満足感よりも、その活動によって得られる外的な報酬と結びついています。モチベーション2.0は、タイプX の行動パターンを前提として発展してきました。 タイプI (intrinsic)の人の行動は、外発的動機づけではなく、内発的動機づけを中心にした考え方と人生に対するアプローチをします。自分の人生を自ら監督したい、新しいことを学び創造したい、世界に貢献したいという人間に本来備わる欲求が力の源になっています。活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろ活動そのものから生じる満足感と結びついています。したがって、モチベーション3.0は、タイプIの行動パターンを前提にしています。 もちろん人はどちらかにはっきり分かれるものではないので、タイプ別の行動パターンは、固定的な特徴ではなく、状況や経験、背景から現れる傾向と見ます。しかし、あなたの組織が、過去10年の実績に満足していなかったり、2.0的マネジメントが「どうも違う」と考えるのであれば、社員にタイプXからタイプIの行動に移行することを考えるべきでしょう。 そこで、タイプXの人材をタイプIにすることは可能かという疑問ですが、それは可能だと言われています。 なぜなら、タイプIの特徴は生まれながらに備わっているのではなく、後天的に作ることができるからです。タイプIの行動は、人間の普遍的な要求から生じる部分があるので、基本的な特徴を学び、実践を繰り返すことによって、実力もモチベーションも格段に向上します。タイプXからタイプIに変化することも可能なのです。 タイプIは長期的には、ほとんどの場合タイプXをしのぐ成果を上げると言われています。内発的に動機づけられた人は、報酬を求めて行動する人よりも目的を達することが多いと調査結果に出ています。ただし、短期的には必ずしもそうではありません。 しかし、外的な報酬を求める行動パターンは結局は「長続きしない」のです。さらにマスタリーの面でも役立ちません。「マスタリー(熟達)」とは長期にわたって成果を生み出す力の源です。内発的な動機、つまり「自分の人生をコントロールしたい」、「世界を知りたい」、「試練に耐えることを成し遂げたい」という、自らの内側から湧き上がる欲求を満たすために猛烈に取り組むから、困難を乗り切れるからです。 誤解して欲しくないのですが、タイプIが金銭や他社からの評価を軽視しているというわけではありません。タイプXもIも、基本的な報酬ラインに満たなければ、モチベーションは著しく低下するのは一緒です。ところが、基本レベルに達していれば、タイプIは金銭をフィードバックの1つとして喜びますが、決してタイプXのような行動の動機づけではなく、それ自体が目的でもないということです。 基本的な報酬ライン “給与、給付金などを含め、基本報酬ラインが不適切だったり、公平でなかったりすると、非雇用者は自分の置かれた状況の不公平さや不安にばかり気を取られるので、意欲の喚起が極めて難しくなります。 しかし、一度この基本的な報酬ラインが満たされてくると、アメとムチは意図した目的と反対の効果を生み出す場合が多く、これがモチベーション2.0のバグなのです。” ダニエル・ピンクは、「タイプXの行動は石炭で、タイプIの行動は太陽だといえる」と表現しています。石炭は安く簡単に入手できる効率的な資源ですが、欠点が2つあります。 1つは大気汚染など環境への悪影響、もう1つは埋蔵量に限りがあり、少なくなれば値段が上がるということです。タイプXの行動はこれと同じで、報酬と罰は思わぬ悪影響を生み出し、交換条件付きの報酬による動機づけは間違いなく徐々に高くつくようなります。 対して、タイプIの行動は内発的に動機づけに基づいて行われるので、容易に補充できて無害、安価、安全で無限に再生できます。 タイプI型の自律性や内発的動機づけを重視する人は、外発的に動機づけられた人よりも自尊心が高く、良好な人間関係を築き、総じて大きな幸福感をいだいています。 一方タイプXは、金銭や名声・美などが欲求の中心になり、比較して心的健康状態が良好ではないようです。これはタイプIの行動が、根本的に「自律性」「マスタリー」「目的」という三つの要素をよりどころとしてるので、自らの意思で行動を決めたり、熟達に打ち込んだりするので、幸福感を抱けるからだと言われています。 このようなタイプIを伸ばして、自律性・成長性・目的性を伴う「モチベーション3.0」を実現するには、どういったことに気を配るべきなのでしょうか。 1つ1つ見ていきたいと思います。 1.モチベーション3.0 3つの要素「自律性(オートノミー)」 「自律性(オートノミー)」とは、「自ら方向を決定したいという欲求」です。 対して組織では、マネジメントの概念があります。マネジメントの中心となるものは、以前として「コントロール」で、主な手段は相変わらず外発的動機づけです。つまり、現在の先進国経済で主となる非ルーチンの右脳的能力が必要な環境とズレが生じています。 さらに、このマネージメントは人間の本性と一致していません。なぜなら、マネジメントは前提として「人は報酬や罰がなければ働かないし、都度指示しなければ間違ったことをする可能性がある」という仮定の下に成り立つからです。 しかし、その姿は人のデフォルトではないはずです。人は誕生してから、受動的で自力で行動できないようにプログラミングされているわけではなく、人の基本的な性質は、好奇心に満ちて自発的であるはずです。もしそうでない人がいるのであれば、それは本質のせいではなく、何かが原因で後天的に設定が変わっただけです。そうなってしまったのは、学校や職場のマネジメントのせいかもしれません。そうした「他人を管理する」という状況に屈せず、自主決定性という人間に備わった生来の能力が、3.0とタイプIの行動の中心となっています。 この「自律性(オートノミー)」の事例として、いくつかご紹介します。 事例① メディウス社、ジェフ・ガンサーCEOの自律性を重視する試み “ROWE(ロウ)” メディウス社は、病院の情報システム統合のためのソフト&ハードウェアを開発する会社です。CEOのジェフ・ガンサーはその会社に「ROWE」※という就業ルールを取り入れました。 「ROWE(Results Only Work Environment」とは、米家電量販店大手ベスト・バイの人事部門で役員を務めていた、カーリー・レスラーとジョディ・トンプソンによって考えられた就業ルールです。「完全結果指向の職場環境」とでも言いましょうか。 従業員には出勤時間など時間的スケジュールはありません。好きな時間に出社でき、完全に自由に自分の時間の使い方を選べるのです。極端なことを言えば、会社に行かなくてもいいのです。ただ仕事をしっかり成し遂げればいいのです。どのように仕事をするかは、社員の自主性に完全に任せるというシステムです。 「どのようにやろうと、いつやろうと、どこでやろうと自由」 結果は、ほとんどの場合生産性は上がり、社員満足度が上がり、離職率が下がって雇用期間も長くなったそうです。 話をメディウス社に戻します。 ガンサーCEOは、当初90日間を試行期間としてROWEを導入しました。当初はみんな慣れず、9時には社員の大半が今まで通り出勤し、夕方に退社していました。しかし、それから数週間もすると、ほとんどの者が自分なりのやり方を見つけるようになっていたそうです。ROWE導入後は、生産性は向上し、ストレスが軽減されました。どうしてもなじめずに辞めた人は二人だったそうです(当時全部で22人の会社です)。 ジェフ・ガンサーはこう言っています、「マネジメントとは、オフィスを歩き回って、社員の出社や仕事しているかのチェックをすることではない。社員が最高の仕事をできる状況を作り出すことが、マネジメントの本質である」と。 ROWEの導入で効率が上がった理由の1つは、仕事そのものに集中できるようになった点でしょう。 例えば、娘のサッカーの試合の応援のために午後3時に職場を離れても、周りの同僚に後ろめたくならず、その分仕事に集中できます。 自由ばかりが目立ちますが、達成すべき目標はもちろんあり、これをクリアするのが条件です。ただガンサーは、こうした目標を報酬と結びつけないことに決めていました。「それではとにかくお金が重要で、仕事は二の次という風土を生み出してしまう」からです。 金銭は「発端となる動機づけ」に過ぎず、基本的な報酬ラインを満たしていれば、金銭は業績やモチベーションにそれほど影響を与えないのです。たとえ他社から良いお金で誘われても、ROWEの環境下で、自分の好きなように仕事をする自由のほうが、昇給より価値があり、得がたいものだとみなしている人が多いからです。何よりも、社員のパートナーや家族がROWEを何よりも喜ぶとガンサーは言っています。 また、「私と同じ世代の若い経営者が増えれば、多くの企業がこの方法を取り入れると思う。父の世代は、人を資源と見ている。つまり、従業員は家を建築するときに必要なtwo-by-four(一律の規格材)なのだ。私にとっては、人はパートナーであって経営資源ではない」と。 パートナーなら、誰も皆自律的に人生を管理する必要があるのです。 事例② アトラシアンの「EedexDay」 アトラシアン (Atlassian)は、オーストラリアのシドニーに本社を置く企業で、法人向けソフトウェアを開発している会社です。 エンジニア達がモチベーションを持って新しいことにチャレンジできるように、1年に何回かこう言います。 「今から24時間何をやってもいい。普段の仕事の一部でさえなければ何でもいい。何でも好きなことをやれ」 この通常勤務と無関係でかまわないので、「何かを解決したい問題があれば、一日中自発的に取り組んでも良い」という特別な日「Eedex Days」を設けました。 その日各社員は自分のアイディアを実現するために熱中し、夜が明けて朝の4時になると、ビールとケーキが用意された全員参加のミーティングで、その成果を披露するのです。 お察しのとおり、「Eedex Days」の意味は「翌日に持ってくる」からきているのですね。 その結果ですが、その日にはたくさんの新製品のアイデアが生まれ、既存のプロダクトの新機能や改修、不具合の解消などが効率的にできたそうです。しかも、普段は見つからないような欠陥が数多く修正される傾向にあったそうです。これこそモチベーション3.0の効果と言えると思います。 社長のマイク・キャノンブルックスは、「お金はいくらかかっても惜しくない。十分な給与を払わなければ、社員は会社から離れていきます。しかし、それにもまして金銭は人に意欲を与える要因ではないのです。お金よりも重要なのは、クリエイティブな人を引きつける仕組みなのです。」と言っています。 事例③「20%ルール」の先駆け アメリカのスリーエム社 1930年から40年代にかけて、スリーエム社の社長兼会長だったウィリアム・マックナイトは、「優秀な人を雇ったら、後は好きにさせること」と自律性を重視していました。 「我々が権限と責任を委ねる人たちが優秀なら、彼らは自分のやり方で仕事をしたいと望むだろう」として、勤務時間の15%を自由に新しいことについて当てても良いとしました。 このことは、モチベーション2.0の道徳観と相反し、一見違法行為だとさえ思われたので、社内では「密造酒作り」と言われたそうです。しかし、結果これが正規のイノベーション「ポストイット」を生むことになります。同社の発明した主力商品の大半は、この15%の時間から生まれています。 事例④ Googleの「20 Percent Time」 スリーエム社の事例だけでなく、Googleの「勤務時間の20%を自分のやりたいプロジェクトに当てていい」という制度は有名なので、ご存知の方も多いかもしれません。 この制度では、時間、タスク、チーム、使う技術などすごく大きな裁量が認められています。そしてこの20%の時間から、新製品の半分近くが生み出されたのです。我々が使っているGmail、Google Map、Slackなどのメジャーなプロダクトもモチベーション3.0の効果の結果として世に送り出されてます。 では、自律性はどのように伸ばせばよいのでしょうか? ダニエル・ピンク氏はザッポスの例を出して説明しています。 事例⑤ザッポスの「モチベーション3.0のスタイルに合わない人を排除する方法」 コールセンターでは、離職率100%なんてところもあようですが、Amazonに買収されたザッポスはちょっと違いました。 新卒は、まず会社を知るための研修を一週間受けます。この研修終了後に、CEOのトニー・シェイは彼らにある提案をすのです。 「ザッポスが自分に合わないと感じ、入社を思いとどまりたい(退社したい)と考えている人には、200ドルを支払います」 「交換条件付き」報酬を利用して、フィルターを掛けることで、ザッポスが信じるモチベーション3.0のスタイルに合わない人を早期に排除することができます。 また、ザッポスではカスタマーサービスをモニタリングして監視するようなことはなく、担当者は各自のやり方で対応させます。これも「自律性(オートノミー)」を大切にしているからです。 自律性で言えば、オフィスでなく、ホームで電話の応対をする「ホームショアリング」という仕事の仕方も認めています。子育て中であったり、学生であったり、身体にハンデのある人でも働くことができ、快適な家での仕事はモチベーション3.0的効果を発揮できるといいます。 こうした自律性を信じて任せるのは心配だという経営者もいるかもしれません。 モチベーション2.0では、自由を与えてしまうと人間は怠けるものだ。だから、自律的にやらせれば責任回避をしてしまうと考えました。 しかし、モチベーション3.0では、「人は本来責任を果たすことを望んでいる」と考えます。つまり、課題も含め、働き方、やり方などを確実に任せることが、効率よく目的に達する早道であると考えるのです。 ザッポスのトニー・シェイCEOはこう言ってます。 「人の幸福にとって、認知制御は重要な要素であると、複数の研究から明らかにされています。しかし、ひとが何をコントロールしたいと感じるのかは、本当に人それぞれです。ですから、自律の中で一番重要な側面は、誰にとっても同じではないということです。 人によって異なる欲求があるので、雇用主にとって最も有効な戦略は、従業員一人ひとりにとって何が大切なのかを理解することなのではないでしょうか。」 人はそれぞれ大切なポイントが違い、自由を使って成し遂げたいと思っているはず。それを尊重して働いてもらうのがベストという考えはモチベーション3.0の根幹にあたる思想でもあります。 ザッポスの離職は極めて低く、設立間もないにもかかわらず、CSに優れた会社だと評価されています。具体的にはキャデラック、BMW、アップルなどより上位で、ジャガーやリッツカールトンと同じ順位になっているそうです。 いくつか事例を見ていただきましたが、どれも従業員を尊重し、理想的な成果を出しているように見えます。はたして、自律的な就業ルールを作っただけで、ここまでかわるものでしょうか? 私たちは、誰もが自律的に仕事したいと思いますが、責任を持たなくてはいけません。繰り返しになりますが、モチベーション2.0では、自由を与えれば人間は怠ける、だから、自律的にやらせれば責任回避するという仮説を設定していました。 モチベーション3.0では、それと異なり、人は本来責任を果たすことを望んでいると仮定しています。つまり、課題や時間、方法、チームを確実に任せれば目的に至る仕事をするはずだということです。 確かに、いままでモチベーション2.0環境下で働いていた人を、いきなり3.0のROWE環境で働かせてもすぐには慣れないでしょう。だから、企業は、移行のステップを欠く従業員が見つけられるように、「足場」を組む必要があります。 そして、人によって「何を自律的にやりたいか」という重んじる面は異なります。あるものは課題設定についての自律を願い、あるものはチーム編成に対する自律を望むかもしれません。 ザッポスのシェイが言うように、「人が何をコントロールしたいと感じるかは、本当に人それぞれ。人によってそれぞれ異なる欲求があるので、雇用主にとって最も有効な戦略は、従業員一人一人にとって何が大切なのかを理解することではないか」ということは大切だと思います。 「私たちはゲームのコマではなく、プレーヤーになるために生まれてきた。本来は自律的な個人であって、機械仕掛けの人形ではない。私たちは生来、タイプIなのだ。ところが管理という外部の圧力によって、タイプXにと変えようとする。」とダニエル・ピンクは言っています。そして、リチャード・ライアンのこの言葉を最後に紹介しています。 「人間の歴史の流れはこれまで、大きな自由を手に入れる方向へと進んできた。それには理由がある。自由の切望は人間の性分だからだ」 2.モチベーション3.0 3つの要素「成長性(マスタリー、熟達)」 前項の「自律(オートノミー)」の反対は「統制(コントロール)」でした。行動という羅針盤において、この2つは対極に位置しており、両者は異なる目的地を指し示します。つまり、コントロールは「従順」へと、自律は「関与(エンゲージメント)・絆」へと導きます。この相違からタイプIの行動の2番目の要素である「マスタリー(熟達)」の概念が出てきます。 「成長性(マスタリー、熟達)」とは、何か価値あることを上達させたいという欲求により発生するモチベーションを意味しています。 現代の職場で最も顕著な特徴は、社員の「エンゲージメントの欠如」と「マスタリーへの無関心である」と言われています。例えば、アメリカの世論調査及びコンサルティングを行うギャラップ社の調査では、アメリカでは、従業員の50%以上が仕事にエンゲージしておらず、約20%が意識的にエンゲージしていないという調査結果が発表されています。これは年間3000億ドル(30兆円)の生産性の喪失に相当(ポルトガル、シンガポール、イスラエルのGDPよりも大きい)するそうです。 ここで、ダニエル・ピンクの考えに大きな影響を与えている、ハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイの「自己目的的経験」と「フロー」についてご紹介します。 “ミハイ・チクセントミハイの「自己目的的経験」と「フロー」” 子供の時、ナチスの残虐行為と、ソビエトによる祖国支配を目の当たりにしたチクセントミハイは、運命に甘んじることに嫌気がさし、積極的に関与する生き方を模索しました。高校を中退し、西ヨーロッパは放浪する中で、スイスでカール・ユングの講義を聞いて心理学に目覚めます。その後アメリカにわたり、高校卒業資格を取得、イリノイ大学シカゴ校に入学、博士号を取得し、本格的に心理学の研究を始めました。 しかしチクセントミハイは、心理学の主流には乗らず、人生に対するポジティブで、革新的、創造的アプローチを探求します。クリエイティビティについて研究するうちに、遊びについて研究し、人は遊びの中で、「自己目的的経験(autotelic)」という心理状態になっていることを発見しました。autoは「自己」、telicのギリシア語telosは「目標や目的」を表す言葉です。 自己目的的経験では、目標は自己充足的、つまりその活動自体が報酬にあたります。 例えば、画家が制作に夢中になるあまり、トランス状態になり、あっという間に時間が過ぎて、自意識も消え去るような状態です。ミハイは他にもさまざまな職業にインタビューし、活動を自己目的的にしているものが何かという本質と突き止めようとししましたが、人の言葉からは中々わかりませんでした。 そこで「経験抽出法」を考え出します。これは1日に8回、無作為の感覚でポケベルを鳴らし、被験者がその時に何をしていたか、誰とどこにいたか、どんな精神状態かを記録してもらうというものでした。 チクセントミハイは、この記録から、この被験者たちの最高の瞬間「autorelic」を「フロー(flow)」と名付けました。フローの状態では、山頂へ到達することや粘土で思うように造形するなど、目標がはっきりしていて、そのフィードバックはすぐに返ってきます。もっとも重要なのは、フローにおいては、やらなくてはならないことと、できる事の相関性がぴったりと一致する点です。課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも1,2段高く、努力という行為がなければとても到達できないレベルのことをほぼ無意識にやっている状態です。これが心身を成長させ、このバランスが、そのほかの月並みな体験とは全く異なるレベルの集中と満足感を生み出すとミハイは説明しています。 子供の時、ナチスの残虐行為と、ソビエトによる祖国支配を目の当たりにしたチクセントミハイは、運命に甘んじることに嫌気がさし、積極的に関与する生き方を模索しました。高校を中退し、西ヨーロッパは放浪する中で、スイスでカール・ユングの講義を聞いて心理学に目覚めます。その後アメリカにわたり、高校卒業資格を取得、イリノイ大学シカゴ校に入学、博士号を取得し、本格的に心理学の研究を始めました。 しかしチクセントミハイは、心理学の主流には乗らず、人生に対するポジティブで、革新的、創造的アプローチを探求します。クリエイティビティについて研究するうちに、遊びについて研究し、人は遊びの中で、「自己目的的経験(autotelic)」という心理状態になっていることを発見しました。autoは「自己」、telicのギリシア語telosは「目標や目的」を表す言葉です。 自己目的的経験では、目標は自己充足的、つまりその活動自体が報酬にあたります。 例えば、画家が制作に夢中になるあまり、トランス状態になり、あっという間に時間が過ぎて、自意識も消え去るような状態です。ミハイは他にもさまざまな職業にインタビューし、活動を自己目的的にしているものが何かという本質と突き止めようとししましたが、人の言葉からは中々わかりませんでした。 そこで「経験抽出法」を考え出します。これは1日に8回、無作為の感覚でポケベルを鳴らし、被験者がその時に何をしていたか、誰とどこにいたか、どんな精神状態かを記録してもらうというものでした。 チクセントミハイは、この記録から、この被験者たちの最高の瞬間「autorelic」を「フロー(flow)」と名付けました。フローの状態では、山頂へ到達することや粘土で思うように造形するなど、目標がはっきりしていて、そのフィードバックはすぐに返ってきます。もっとも重要なのは、フローにおいては、やらなくてはならないことと、できる事の相関性がぴったりと一致する点です。課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも1,2段高く、努力という行為がなければとても到達できないレベルのことをほぼ無意識にやっている状態です。これが心身を成長させ、このバランスが、そのほかの月並みな体験とは全く異なるレベルの集中と満足感を生み出すとミハイは説明しています。 この「フローの状態」では、その瞬間を極めて深く生きており、完全に思いのままになると感じ、時間や場所、自分自身でさえ存在を忘れるような感覚を抱きます。当然、フロー体験では人は自律的ですが、それすら感じさせないくらい没頭しています。 おそらくこのフローの精神状態こそが、チクセントミハイが求めていたものです。生きている証拠としてフローの状態に達すること、つまりマスタリーを達成するために集中している状態を得る事なのです。 このフローの状態は、ゴルフの石川遼選手が2010年の中日クラウンズで世界最小スコアを叩き出したときに、プレイ中の心理状態を「ゾーンに入ってる」と表現したことを思い出させます。 フローを考慮した環境の創造が、職場の生産性と満足度を上げるという事実は、マイクロソフトやトヨタ、パタゴニアなどの多数の企業が気付いています。アメリカの科学者やエンジニア1000人に行った「フロー体験」調査では、知的挑戦への欲求、つまり、何か新たなことや興味を引かれることをマスターしたいという衝動が、生産性向上を予測する上で、もっとも的確な判断材料だとわかりました。例えそれぞれが費やした労力を考慮に入れたとしても、内発的な欲求に動機づけれた科学者は、金銭が動機の科学者と比べて、驚くほど多くの特許を出願しているそうです。 フローの効果については面白い事例があります ゲームデザイナー、ジェノヴァ・チェンのフローゲーム “2006年にチクセントミハイの理論に基づいた論文で美術学博士号(MFA)を取得したゲームデザイナー、ジェノヴァ・チェンは、「ビデオゲームは本質的に、典型的なフロー体験をもたらす。だが、一方でそれが行き過ぎているゲームが多い」と懸念しました。 そこで、たまにゲームを楽しむ人のために、フローの感動をもたらすゲーム「フロー(Flow)」を作ろうとします。ゲームの内容はシンプルです。プレーヤーがマウスを使って、現実離れした海を背景に、アメーバのような生物をゴールへ導くゲームです。ゲームのテーマは、次第に難しくなるレベルをクリアしていくことですが、失敗してもゲームオーバーはなく、単に自分の能力に適したレベルへと移るだけです。 話だけ聞くと、いかにも飽きそうに聞こえるゲームですが、これが爆発的に売れ、無料のオンライン版だけで300万ダウンロードされ、有料版はプレステで35万ダウンロードされ、多くの賞を受賞しました。 その後、チェンはフロー理論とゲームのフローを中心としたザットゲームカンパニーを企業し、ソニーなどからゲーム作成の契約を取り付け、大成功しました。” フロー体験はマスタリーに必要不可欠です。しかし、フローがマスタリーを保証するわけではありません。これはこの2つの概念が、影響を与える時間のスパンが異なるからです。フローは一瞬の間に起こり、マスタリーは何カ月、何年もかかって築き上げられるものだからです。 ではマスタリーを目指すために、組織や実生活では何をすれば良いのでしょうか? スタンフォード大学の心理学教授キャロル・ドゥエックは、マスタリーのために、3つの法則にまとめました。ドゥエックは、子供とヤングアダルトのモチベーションと熟達について研究する行動科学の分野の第1人者です。 マスタリーの3つの法則 マスタリーはマインドセット次第である マスタリーは苦痛でもある マスタリーは漸近線 1. マスタリーはマインドセット次第である ドゥエックは「人の信念が熟達の内容を決定づける」とし、自分自身と自分の能力に対して抱く私たちの信念(自己理論)が、自らの経験に対する解釈を定め、熟達の限界をも定めてしまう可能性があることを指摘しています。 人には「固定知能感」の人と「拡張知能感」の人がいます。 「固定知能感」とは、「知能は存在する分しかない」と考える人です。もともと限られた量しか備わってないので、増やすことができない、つまり知能を身長のように考えてます。知能が定められた量しかないので、教育や仕事の経験はすべて、自分の知能がどのくらいあるかという測定手段というわけです。こういう人は努力ではなく、容易な正攻法を探ろうとする傾向にあり、困難に直面すると「お手上げ」状態になります。したがって、容易に達成できそうな目標を選ぶようになります。 「拡張知能感」とは、「知能は人により多少の差異はあるが、最終的には努力によって伸ばすことができる」と考える人です。知能を体力のように努力で増やせると考えてますので、教育や仕事上の経験は成長する機会となり、努力を向上の手段とみなして肯定的です。困難に直面すると「さらに熟達」するとポジティブにとらえます。 「固定知能感」の人はタイプXに見られ、「拡張知能感」はタイプIに見れれます。 この2つの説は全く違う道に通じています。「拡張知能感」はマスタリーに通じているますが、「固定知能感」は通じていません。 ここからマスタリーの第1の法則が生まれました。 つまり「マスタリーはマインドセット(心の持ち方次第)である」ということです。 具体的に言えば、「タイプ X」は自分には才能がないと諦めを勝手につけて、学習目標よりも達成目標※を好み、努力をしなくてはいけないのは自分が弱点を持っている証拠として、努力そのものを見下しがちです。 逆に「タイプ I」は、達成目標よりも学習目標を重んじ、人生にとって大切と思われる能力を向上させるためには努力をいとわない傾向にあります。したがって、成長性(マスタリー、熟達)には「タイプ I」が向いていると結論付けます。 ※達成目標と学習目標の違い 例えば、達成目標は「フランス語でAを取る」ということで、学習目標は「フランス語を話せるようになる」ということ。つまり、達成目標ではマスタリーには至らない。 2. マスタリーは苦痛でもある アメリカ陸軍士官学校で行われる「地獄の兵舎」と呼ばれる7週間の基礎訓練では、20人から1人は脱落します。この理由を解明しようとした実験です。 調査の結果、訓練をやり遂げるかどうか予測するもっとも的確な判断材料は、認識力とも身体的特性とも関係ない、「根性」という評価でした。これは言い換えて「長期目標を達成するための忍耐力と情熱」と定義されています。 地獄の兵舎の例が示す通り、「マスタリーは苦痛でもある」と言うのは、修練の辛さを乗り越えられるマインドが必要と言うことです。 熟達するためには一生懸命やっても見える成果は少しづつで、その数少ないフロー体験に励まされて少しづつ前進します。そして少しだけ高くなった新しいプラトー(一時的な停滞の状態)でもめげずに、再び根気よく励むという経験を繰り返さなければいけません。逆に言えば、その経験を繰り返せないとマスタリーの状態にはならないのです 3. マスタリーは漸近線 漸近線(ぜんきんせん)とは、曲線が近づいても決して完全に接することのない直線のことです。 「マスタリーは漸近線(ぜんきんせん)」と言うのは、マスタリーの完全な実現は不可能ということです。したがって欲求不満を引き起こします。なぜ、完全に到達できないものに求めるのか。それは、喜びは実現することよりも追求することにあるからです。 マスタリーはどうしても得られないからこそ、達人にとっては魅力的なのです。 最後に またまた少し長くなってしまったので、続きは次回に回したいと思います。 次回は、モチベーション3.0の「3つの要素」の最後の一つ「目的」についてご説明します。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ナッジ(nudge)とは

    eラーニングコンテンツやシステム企画を立てていると、「ゲーミフィケーション」や「ナッジ」といった、ユーザーの行動やモチベーションを操作・誘導する仕掛けを仕掛けることがよくあります。 今回は、そういった仕掛けの中から、行動経済学の手法である「ナッジ」について、簡単ではありますがご紹介したいと思い ます。 目次 ナッジとは ナッジの手法例 政府もナッジに真剣に取り組む 最後に ナッジとは 「ナッジ(nudge)」とは、直訳すると「(注意や合図のために)ひじで軽く突く」という意味になります。行動経済学などで使われる用語で、「ちょっとしたきっかけを与えることで消費者に行動を促す手法」と定義されています。 ナッジは、2003年にシカゴ大学経営大学院に所属するリチャード・セイラー教授とハーバード大学のキャス・サンスティーン教授の論文「リバタリアン・パターナリズム」で提唱されました。 その後、リチャード・セイラー教授は行動経済学としての研究を進め、2017年にノーベル経済学賞し、それがきっかけでナッジの知名度はさらに上がっています。 伝統的な経済学と行動経済学の違いはどこにあるのでしょうか。 伝統的な経済学では、議論を分かりやすくするため、人間は「自分が得するように必ず合理的に判断する」と想定されています。ところが現実の人間は、さほど欲しくない物を衝動買いしたり、ギャンブルにはまったりとあまり合理的とは言えない行動を取ってしまいます。 リチャード・セイラー教授は、人間は「非合理的」な生き物として、人間は間違いをしでかす存在だという前提に立ち、その行動を科学する目的で「行動経済学」を研究しています。 セイラー教授は、相田みつをの大ファンだそうで、「『つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの』。私は相田みつをのこの言葉が大好きなんだよ」とインタビューで答えています。 セイラー教授は、心理学と経済学を組み合わせて人間のリアルな活動を経済理論に取り込み、実際の現場で役立つ画期的なアイデアを次々と生み出したことが高く評価され、ノーベル賞受賞につながりました。 ナッジの効果を示す例として有名なのは、やはり「便器のハエ」かと思います。 時は1999年、オランダはアムステルダムのスキポール空港では、トイレの清掃員の人件費削減に頭を悩ませていました。特に男子トイレの小便器は、便器からそれた小便を清掃する手間が問題でした。そこで担当者は、低コストで実行できる一計を講じます。 男性トイレの便器に、小さなハエのイラストのシールを貼ったのです。こうすることにより、利用者が「的を当てる」感覚でハエを狙うからです。策は当たり、見事に他人の小便のコントロールをしたのです。なんと清掃費は8割(1億円以上!)も減少したそうです。 こうして、アムステルダムの小便器のハエは「ナッジ」の最も有名な成功例となりました。 このように、科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略が「ナッジ」です。スキポール空港の場合、「人間は的があると、そこに狙いを定める」という心理分析に基づいて、他人の小用をコントロールし、小便器を正しく利用させたわけですね。 ナッジの手法例 私たち人間の行動は、合理的な行動から一定のパターンで「偏り(バイアス)」があります。この特性を見つけて、それを体系的に経済学に取り入れるのが行動経済学です。その手法は、ビジネスの現場でもよく使われています。ここでは、ナッジの例を使われた手法別にご紹介しましょう。身近なものでも「あれもナッジか!」と思い当たるものも多数あるかと思います。 ①Default(デフォルト:初期設定) 「デフォルト(初期設定)」とは、とってほしい選択を最初から設定しておくことで、異なる選択をとる可能性を低くするテクニックです。「選んで欲しい選択肢をあらかじめ初期設定として用意する」ことで、その選択肢を選んでもらいやすくする技です。 Amazonでは、プライム会員の加入を促すために無料期間を設けています。無料期間中に加入した人はいつでも解約できますが、解約手続きが面倒で、そのまま継続してしまう人もいるかと思います。 このように会員となっている状態がデフォルトになってしまうと、解約するには手間がかかるので、なんとなく続けてしまうという手法です。 楽天などでショッピングをする際に、メールマガジンの登録チェックボックスに「あらかじめがチェック入っており、不要な人はチェックボックスを外す」というのも同様です。 ②Incentive(インセンティブ:動機) 「インセンティブ」では、「何らかの報酬を用意することで、行動を促す」というものです。 例えば、飲食店のポイントカードもインセンティブの1つでしょう。購入すると引けるくじやプレゼント、先ほどのメルマガの例で言えば、「メルマガ登録で10%割引」と言う感じですね。 ③Feedback(フィードバック:帰還、反応) 「フィードバック」とは、特定の行動を起こしたらすぐに反応が返ってくるギミックを組み込むことで、自発的に行動を起こすよう誘導するテクニックです。 例えばネットショップの会員登録を行う際に、入力フォーム上で、電話番号を全角で入力していたら画面上に「半角で入力してください」と出てきたとします。その結果から学んで、住所を入力する時は最初から半角数字で入力を行ってくれるようになります。仕組みにフィードバックを組み込むことで、ユーザーを自然に誘導できます。 ④Structure(ストラクチャー:構造化) この場合の「構造化」とは、「選択肢の構造化」を指します。選択肢の構造化は、複雑な選択肢をわかりやすくすることで、特定の選択肢に導くテクニックです。 レストランで、「本日のオススメ」「シェフおすすめ」と書かれているのも、たくさんの中から選ぶ際の誘導をしています。こういった案内があることで、大量にあるメニューから選ぶべきメニューが絞られ、消費者にとって選択しやすくなります。 人は選択肢を与えられることにより、自分で選んだという意識が芽生えます。ルールで強制されるのではなく、望ましい行動をするよう、誘導する際に有効な手法です。 例えば、レストランのメニューで価格別に「松竹梅」があった場合などです。松が3,500円、竹が2,000円、梅が1,000円、懐具合が寂しくても、つい「松竹梅」の「竹」をつい選んでしまうのもナッジなんですね。行動経済学によればメニューが3種類あると、5割以上の客が「真ん中の価格」を選ぶそうです。 行動経済学では、こうした人間の心理を「極端回避性」言います。この行動にはもう一つ伏線の作用があって、最初に3,500円の松が目についたため、ふだんなら予算オーバーの竹を安く感じてしまう「アンカリング効果」も働いているのです。通販で、「ここからさらに1万円引きます!」と言った「最初の提示額よりも値引きされると、よりお得感を感じる」のも「アンカリング効果」です。 ⑤その他 テレビ通販などでよく見る「売り切れ続出」や「有名人の○○が愛用」といったコピーは、商品の機能を自分で吟味せず、利用しやすい情報だけで判断してしまいがちな「利用可能性ヒューリスティック」という人間の性質を突く手法です。 「返品無料」には、商品が届いて「一度自分のものになると価値が上がったように感じる」という「保有効果」があるそうです。こうした効果があるので、売り手側は「返品無料」をうたっても、返品されるケースはあまりなく、そのリスクは微々たるもので商売に影響は少ないみたいです。 「ツケ払いOK」や「ローン支払い」には、「今すぐ払わなくていい」と、負担が軽くなったような錯覚に陥りがちになる「現在バイアス」が効いています。 政府もナッジに真剣に取り組む 最近では、政府や自治体などの取り組みでも使われ始めています。 アメリカにおいても、2015年にナッジを活用するようオバマ元大統領による大統領令が発令されました。 「ナッジ」の最大の成功例と言われるのが、アメリカで企業年金(確定拠出年金:401k)の加入率を大幅にアップさせたケースです。「401k」は、企業が掛け金の一部を負担するので、従業員にとっては有益な年金プランのはずです。しかし、多くの人が進んで加入しようとしませんでした。その理由は、加入手続きをする際に、たくさんの書類に貯蓄額や、希望する投資先などを細かく記入する必要があったからです。 その結果、定年後生活に困る人が続出し問題になっていました。そこでセイラー教授はナッジで解決します。方式を180度転換し、年金に入りたくない人が申込書に記入し、書かない人は自動的に加入するという「年金脱退申込書」を従業員に書かせることにしました。するとこの方式を導入した企業の年金加入率はおよそ90%に急上昇したそうです。めんどくさいことはしたくない、そんな人間心理を巧みについたのです。 アメリカだけでなく、英国でも、2010年に内閣府の下に、ナッジを政策に応用するための専門チーム「BIT(the Behavioural Insights Team)」が設立され、公共政策での活用を推進しています。 彼らはまず、納税率の改善に取り組みました。テストとして、ある地域では行政が送る納税通知書に、「同じ地域に住む住民の納税率」を記載しました。すると、その納税率を見た滞納者の義務履行意識が高まり、地域全体の滞納率が減少したそうです。この結果を踏まえ、全国的にナッジを用いたメッセージを納税通知書に記載することが2012年に決定し、年間およそ2億ポンドの税収の増加を実現しました。 日本も、2017年4月低炭素型社会の実現のため、国民一人一人が自発的に行動を起こすよう促すことを目的としたナッジ活用の特別チームが環境省内に設立されました。 国は省エネ促進のため、近所で家族構成などがよく似た家庭と比較して、どれくらい電気を使っているかがグラフで示されるというレポートを請求書と一緒に毎月送りました。他人と比べて多いとか少ないとかいわれると、気になるのが人間というもので、これがナッジとなって各家庭が電気の使用を2%減らせば、年間3兆円もの電気料金を節約できるというプロジェクトです。 最後に ナッジのポイントは、低コストで人の行動を変えられることです。あくまで選択の余地を残しながらも、少し表現を変えたり、やり方を変えたりするだけで大きな効果を生み出し、人々の行動をいい方向に後押しするのです。対象者にとっては自発的に選択した感覚があるため、商品やサービスの体験を損ねません。そのため、マーケティングや営業においても、顧客を満足させつつ自社の誘導したい選択肢へと導く方法として知っておきたいところでしょう。 行動経済学の手法、ナッジを使うことで、学習者を誘導することが可能になります。ただ、あまりにやり過ぎると無意識のうちに先入観を与え、反対の行動を起こさなくなり、偏ってしまい、弊害もあるかもしれません。ナッジは魔法のような効果がありますが、そこに正常な判断を邪魔するために使うことは良くないと思います。倫理や社会利益に反しない用途に限るよう、設計側の配慮も求められるでしょう。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • コンプライアンス教育とは(その3)

    前回(その2)ではコンプライアンス教育の進め方のざっくりとした流れについてお話しいたしました。今回は個々の具体的な教育方法についてご説明したいと思います。 目次 具体的な教育方法について マニュアル・社内行動規範・ハンドブック等の配布 社内・社外の講師による研修 ビデオ・DVD教材の活用 ~ビデオ教材で行うコンプライアンス研修~ eラーニングによる一斉教育 ~e-ラーニングを使うメリット~ ビジネススクールで学ぶ/コンプライアンス検定を受ける 職場での周知・討論/テストの実施 ~認識差を埋める取り組み~ コンプライアンス教育の実施間隔 長期的な目線でコンプライアンス教育を考える コンプライアンス教育のチェック 最後に 具体的な教育方法について コンプライアンス教育の具体的な教育方法としては、以下のような取り組みがあります。 マニュアル・社内行動規範・ハンドブック等の配布 イントラネット等での情報発信 社内講師による研修・説明会 社外講師による研修・説明会 法令研修会・勉強会などの定期的な実施 ケーススタディー、ケースメソッド式の研修 ビデオ・DVDなど視聴教材の活用 eラーニングによる一斉教育 外部のビジネススクールに通って学ぶ コンプライアンス検定を受ける 職場での周知・討論の日常的な実施 テストの実施 具体的にいくつか見てみたいと思います。 マニュアル・社内行動規範・ハンドブック等の配布 マニュアルは、「何かあったときに、すぐ参照できること」が大切という話をしましたが、手に取ってわかりにくいものでは意味がありません。身近な事例を使ってマニュアルを作ることも、興味を持たせるという意味では非常に効果的です。したがって、外部のマニュアルを利用してもよいのですが、自社向けにマニュアルの内容をアレンジした方が、社員の意欲向上に繋がると思います。 基本的には、文献で作っておく必要はありますが、それらをもとに別途動画などで見やすくするなど工夫するのも手です。活字で読むのは大変ですが、イントラなどでマニュアルの内容を映像化して見せたいというご相談は弊社にも多く、たくさんの作例があります。具体的には、実際の現場を撮影しながら、行動の正解・不正解をいくつかのケースでドラマ形式にするスタイルが好評です。 社内・社外の講師による研修 コンプライアンス教育の内容は、事業や対象者によってかなり異なります。経営者・取締役クラスの研修は、外部から専門の講師を招いて行うことが多いかもしれませんが、一般的にはコンプライアンス担当(コンプライアンス専任部署)が事務局となって教育をおこないます。講師とは別に、コンプライアンス推進委員を置いて、普段から教育することも大切です。 仕事がら、他業種より重点的に教えたい内容もあるでしょうし、企業の社風や風土なども考慮しなければいけません。なので、本当はその企業の人が、自分たちにあった内容を考えて教育するのが理想です。 しかし、コンプライアンスについてきちんと学んだ人間が教えなければ意味がありません。そうした人材が社内にいない場合は、外注するのが1番手軽です。外注先としては、コンサルティング会社や弁護士事務所などです。 法律などの座学の研修に関しては、コンサルタント会社や研修会社に依頼して行い、仕事がら具体的な事例や経験談をベースに討論するような場合には、自社の従業員自身が講師として行うほうが、ケースが適切で効果的があります。 なので、スタートは社外の研修会社を使ってもよいですが、数年すれば「社内講師」が育つので、自社ケースにあった「社内のオリジナル研修」をメインにするのが良いのではないかと思います。 ビデオ・DVD教材の活用 ~ビデオ教材で行うコンプライアンス研修~ 集合研修などで、人を集めるのは結構大変です。業務の都合でどうしても参加できない人は出てくるかと思います。 その場合は、実際に実施された研修を録画し、そのビデオを使って参加できなかった人に学ばせるのも手です。ビデオならば、社員の予定の調整もしやすく、一斉に集める必要もなく、時間の削減になります。また、繰り返し使えるので、講師や会場のコストも節約できます(ただし、講師の方には許可をもらう必要はありますが)。 もう1歩進んだビデオの使い方としては、ケースドラマなどを作り、視覚的にわかりやすく教育するという手法もあります。弊社でもドラマ仕立てで、抵抗なく見れる形のケースドラマ教材の作成オーダーは多く、会社規模の大きいところほど費用対効果が大きいため、問い合わせが多くなっております。 また、こうしたドラマ映像の教材は、アルバイトやパートのスタッフの教育でも人気があり、「マニュアルだと読んでもらえなかったが、ビデオなら見てくれた」という担当者の声も聞かれます。コンプライアンスのドラマは市販もされていますが、自社の業務にそってドラマ化したほうが、見る側もわかりやすく、真剣に見てくれるというメリットがあります。最近は通勤途中なのでもスマホで見れるものが好評です。担当の方は、一度検討してみてはいかがでしょうか。 eラーニングによる一斉教育 ~e-ラーニングを使うメリット~ 最近では、e-ラーニングを利用したコンプライアンス教育の引き合いが多くなっております。講師を雇うと人件費や会場費もかかりますし、集合研修というシステム自体が、仕事への負荷が高いと言えます。そのため、e-ラーニングを利用したコンプライアンス教育には、時間やコストを削減できるというメリットがあります。 e-ラーニングを使う場合は、Webベースドトレーニングがメインになると思います。読み物の教材はHTMLでWebページとして表示するほか、PDFやWord、PowerPointなどで配布します。社員がちゃんと書類をダウンロードしたかはログでわかりますので、チェックは便利です。 しかし、こうした読み物中心のe-ラーニングは飽きやすく、なかなか続かないのがデメリットでしょう。そういった場合は、映像教材を使うのも効果的です。前項のドラマ仕立てなどのビデオ教材をストリーミングで視聴できるようにすることがe-ラーニングでは簡単にできます。遠隔地など、ビデオDVDの配布コストも節約できます。MP4形式などスマートフォンやタブレットで視聴できるようにすれば、場所を選ばず勉強できるのも大きなメリットです。 さらに、視聴させるだけでなく、ドラマを見た後にテストをすることで、内容が正しく理解できたかがチェックできます。テストの結果を見て、わかりにくくなかったか?内容のアップデートが追いついているか?など、定期的にドラマの内容を調整すると良いでしょう。 遠隔地の支店などでは、e-ラーニングを使ったライブミーティングによるバーチャルな集合研修・ディスカッションなども導入されています。特に社員数が多い企業ではe-ラーニングを使ったコンプライアンス教育は、効率的な方法として、多くの企業が採用しています。 ビジネススクールで学ぶ/コンプライアンス検定を受ける 企業以外で行われているコンプライアンス教育としては、ビジネススクールで行われているセミナーなどがあり、セミナーは定期的に行われています。受講料は大体1万~3万くらいが相場です。 こうしたコンプライアンス教育への関心の高まりを受け、2005年には、ビジネスコンプライアンス検定が設置されました。まだまだ歴史は浅いですが、累計受験者数は1万人を突破していて、近年の事件などの影響もあり、大企業を中心に受験者数は増加傾向にあるようです。企業のコンプライアンス教育や研修の一環として、検定に取り組むという方法も、効果的と言えるでしょう。 評価としてコンプライアンス検定を「資格」として評価してあげれば、社員のやる気もでます。初級と上級では難易度が大きく異なるので、上級を取得した社員には、それなりの評価をし、コンプライアンス体制の向上に貢献できる役回りをお願いするのがいいと思います。 職場での周知・討論/テストの実施 ~認識差を埋める取り組み~ ある程度教育が進んでも、コンプライアンス意識は各人によってまちまちな状態です。新人や中途採用などでも差が出てきます。定期的に社員のコンプライアンス意識をチェックし、意識が足りない社員を見つけて意識を上げるようにしなくてはいけません。鉢に穴が開いていては、いつまでたっても水が溜まらないように、会社のコンプライアンスも、たった一人の意識欠如が大事故につながるのです。 意識の低い社員を見つけるのには、テストが手っ取り早いチェック方法です。問題を解くタイプのテストはどちらかというと、知識レベルのチェックになるので、実務のチェックにはロープレなどを行う必要があります。どちらも、コンプライアンス意識を継続的にキープするために、定期的にやりたいところです。 コンプライアンス教育の実施間隔 コンプライアンスの意識は話題にならなくなると軽視してしまう傾向があるので、基本的には定期的に行うのが望ましいです。現実問題として頻繁に行うのは支障がある場合は、その間隔が大きくなるのはやむを得ないですが、イレギュラーでも、効果的なタイミングで行うことができれば効果は高いです。 効果的なタイミングとは例えば、同業他社の事件などでニュースとして関心がある時や、業界で大きな規制緩和、法律やルール変更などがあり、今後は認識を強める必要がある場合などです。このような場合、社員の関心も高く、教育効果が高いので、ぜひ行うべきです。 長期的な目線でコンプライアンス教育を考える どんなに良い教育をしても急激には浸透しないものです。社員がしっかりと行動できるまでには、大体5年~10年かかると言われています。それだけ、社内全体に浸透させる事は、難しいと言えるでしょう。 また、社員にもいろいろなタイプがいますから、いろいろなやり方を試してみるのが大切だと思います。忙しい人を無理矢理集合研修に呼ぶのではなく、自分の時間でできるように、e-ラーニングでも同程度の内容が習得できるようにしてあげるなどです。 人事評価に組み込んでも効果があります。 コンプライアンス教育のチェック 行動指針やコンプライアンス・マニュアルなどに示された指針が日常的に守られているかどうかをチェックすることも大切です。 こうしたチェックは一般的には、職場ごとにチェックリストやアンケートを配布して、気がついたことなどを記入してもらうやり方が多いです。こうしたアンケートについては、内容を精査し、相談やモニタリングなどをしてサポートし、記録に残すことが重要です。万が一何かあった場合に、ここをちゃんとやっているかどうかで、組織の対応の評価が変わってきます。 コンプライアンス体制を構築した後、そのシステムが機能しているかどうかを定期的にチェックする必要があります。こうしたモニタリングや監査のポイントとしては、 就業規則や行動指針、問題が起こった際のマニュアルなどがすぐに見れるかどうか?場所を知っているか? 組織として用意した「相談窓口」がきちんと利用されているかどうか、その際に相談者のプライバシーが守られているか? 相談が記録され、保管されているか? 現場スタッフから身近のコンプライアンス委員への報告がスムーズにできるか? 「上司に法令違反の行為を命じられた」といったケースはないか? 相談者への報復行為などを禁じ、それに違反した場合の処罰ができる体制があるか? などをチェックされます。 こうした相談窓口の健全な機能を維持するために、「外部の弁護士事務所などと提携して相談窓口業務を委託する」、または「専門の通報バイパスサービスと契約して相談窓口とする」などがあります。 最後に コンプライアンス教育には、多大な時間とコストが必要です。コンプライアンス教育は投資として考え、必要であれば、それなりに費用をかけることを経営者・トップの方には意識していただきたいと思います。コンプライアンス教育を全社で行うことにより、危機管理能力が身に付き、業務管理能力の意識の醸成、実践遂行能力の向上が見込まれます。つまり、事故などのリスク回避の意味だけでなく、自社社員の質の向上、結果として会社ブランドの向上へとつながるのであれば、かかったコストは惜しくはないですよね? 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ワーク・ライフ・バランスとは

    「働き方改革」「ワーク・ライフ・バランス」といった言葉は、ここ数年頻繁にメディアに登場するようになってきました。「働き方改革」や「ワーク・ライフ・バランス」は、日本企業が少子高齢化に対応し、生産性・企業イメージを高めるための有効な戦略として、政府も積極的に推進している政策です。またその推進のために、企業側も研修の実施や、学習コンテンツの企画・制作などに取り組んでいます。 今回はワーク・ライフ・バランスの定義と考え方、導入するための具体的な取り組みを簡単にご説明させていただきます。 目次 ワーク・ライフ・バランスとは? ファミリーフレンドリー(両立支援)と男女均等推進 なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのか? ワーク・ライフ・バランスによって企業が得られるメリット ワーク・ライフ・バランス実践のための取り組み ワーク・ライフ・バランス推進のポイントはリーダーの意識改革 最後に ワーク・ライフ・バランスとは? 「ワーク・ライフ・バランス(work-life balance)」とは、「仕事と生活の調和」と訳されます。意味的には、「一人ひとりが、やりがいや充実感を持ちながら働いて、仕事上の責任を果たすとともに、自分の人生のシーン、例えば子育て期、介護期といった各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」ことを指します。 もともとワーク・ライフ・バランスの取り組みが求められている背景にあるのは、少子高齢化といった労働者の環境変化にあります。 グローバル化が急速に進展する中で、日本の企業が競争力を維持し、成長していくためには、一人ひとりの働き方を見直し、従業員の能力や意欲を高め、優秀な人材の確保することで生産性を向上させることが、これからの企業経営のあり方として必要になったのです。 日本では2000年代後半から、「次世代育成支援対策推進法」や「育児・介護休業法」などが施行されていますが、政府関係省庁などが発表する「ワーク・ライフ・バランスの定義」は、必ずしも統一的な見解があるわけではありません。 厚生労働省が2004年に実施した「仕事と生活の調和に関する検討会議」では、「個々の働く者が、職業生涯の各段階において自らの選択により「仕事活動」と家庭・地域・学習などの「仕事以外の活動」をさまざまに組み合わせ、バランスの取れた働き方を安心・納得して選択していけるようにすること。」と説明しています。 内閣府が2007年12月に発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域社会などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて、多様な生き方が選択・実現できる社会。」と定義されています。 上記以外にも様々な定義がありますが、要点は大きく2つ、「すべての人にとって、仕事と仕事以外の諸活動のバランスが取れた状態にあること」と、「企業とそこで働く者は、協調して生産性の向上に努めつつ、職場の意識や風土改革と合わせ、働き方改革に自主的に取り組むこと」が述べられています。 ワーク・ライフ・バランスが「生活と仕事の調和・調整」であって、「生活」と「仕事」どちらを重視するか、という取捨選択のようなものではないという点に注意なくてはいけません。生活と仕事は、互いに相反するものではなく、生活と仕事の「相乗効果」によって、人生を豊かにしていこうという主旨なのです。 つまり、ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活の最適な「比率」を表すものではないということです。比率として考えてしまうと、一方を増やせばもう一方が減ってしいます。仕事が充実すると、生活や睡眠の時間が減るといった具合に不具合が生じます。 生活の充実によって仕事がはかどり、仕事がうまくいけば、また私生活も潤うというサイクルを実現し、個人と企業双方にとって、Win-Winの関係を築くのが目的です。 ファミリーフレンドリー(両立支援)と男女均等推進 ワーク・ライフ・バランスには、大切な2つの概念があります。 1つは「ファミリーフレンドリー(両立支援)」、もう一つは「男女均等推進度」です。ラークライフバランスの実現には、これらの2つの考え方が不可欠です。 この2つの意味を確認してみたいと思います。 ファミリーフレンドリー(両立支援)とは ファミリーフレンドリーは「両立支援」と訳されることが多いです。政府や企業が、働きながら育児・介護をするための制度・環境を整えることを意味しています。「働き方改革」の中心政策として進められています。厚生労働省が定義する、「ファミリーフレンドリー企業」の基準はこんな感じです。 厚生労働省が定義するファミリーフレンドリー企業の基準 法を上回る基準の育児・介護休業制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること 仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度を持っており、かつ、実際に利用されていること 仕事と家庭の両立を可能にするその他の制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること 仕事と家庭の両立がしやすい企業文化を持っていること 男女均等推進 1985年に策定された「男女雇用機会均等法」が、日本における男女均等推進の明確なはじまりです。 以下の2つが骨子です。 男女の性別にかかわらず、能力を発揮するための均等な機会が与えられる 男女の性別にかかわらず、評価や待遇における差別を受けない 法律自体は、時代とともに随時改正され、今では「募集」「採用」「配置・昇進」の全てにおいて、性別を理由とした差別が禁止されています。 男女均等推進には、均等を維持し、差別を禁止する側面の他に、「今ある格差を解消していく」といった側面もあります。 厚生労働省では、女性の能力発揮を促進するポジティブな取り組みを実践する企業を「均等推進企業」と位置づけています。 「均等(差別の禁止)」「推進(格差の解消)」のどちらも含むものが男女均等推進という考え方です。 なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのか? 先に述べましたが、「少子高齢化」はワーク・ライフ・バランスを考えるうえで、ベースとなるキーワードです。 1990年代に政府による少子化対策として「育児休業制度の整備」「保育所の拡充」が進められましたが、それでも少子化は止まらず、2003年に「少子化対策基本法」「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」を成立させ、企業に出産・育児/仕事の両立を支援するための行動が義務づけられました。 これが、ワーク・ライフ・バランスの視点がクローズアップされるきっかけとなりました。 少子化と同様に深刻なのが高齢化問題です。 労働人口の推移をみると、「生産年齢人口」といわれる15歳から64歳までの人口が、1990年代を境に減少が始まりました。1998年には、0歳から14歳までの「年少人口」が、65歳以上の「老齢人口」を下回っています。あと10数年の後には、団塊世代の介護対策が問題になってくるでしょう。 こうなると、男女関係なく、親の介護が必要になる社員が急増します。そうなってくれば、企業価値として、「親の介護が必要な社員がちゃんと休みを取れる企業」や「休職後、復職後の待遇が、継続し、昇進の機会が与えられる企業」に優秀な社員が集まるようになると考えられます。 つまり、日本のワーク・ライフ・バランスは、「少子化問題に対する、出産・育児支援」と「高齢化問題に対する働き方改革」の2本柱で進められなくてはいけなくなるのです。 ワーク・ライフ・バランスによって企業が得られるメリット ワーク・ライフ・バランスを企業が進めるメリットはたくさんあるのですが、主なものを上げてみました。 1. 女性社員のモチベーションが上がり、優秀な人材が定着する(女性活用活性化、退職率の低下) 出産や育児に企業が積極的に支援し、柔軟な働き方を認めることにより、女性従業員の仕事に対するモチベーションが上がり、結果的に会社に対する貢献度が上がります。 古い体質の企業では、いわゆる「腰掛」的に「結婚後は退職するので、あまり仕事に身が入らない」「キャリア意識・向上心にかける」といった状態が見られましたが、ワーク・ライフ・バランスによって、復職後でのキャリアの継続が可能だったり、育児をしながらでも、成果を上げられる体制があれば、女性社員は仕事に対して希望を捨てずに、前向きに取り組むことができるようになります。 また、「女性リーダーの育成・成長」という面でも期待ができるようになります。 2. 優秀な人材を獲得できる(新規採用者の量・質の向上) ここ数年は、新卒採用・中途採用ともに売り手市場としての傾向が強まっており、企業が優秀な人材を確保することが難しくなりました。 ワーク・ライフ・バランスを推進することで、「社員を大切にする会社」「働き方が柔軟な先進企業」というイメージを作ることができ、「企業を選べる立場の優秀な人材」の獲得の大きなアドバンテージとなります。 また、ワーク・ライフ・バランスの良い企業は、採用・獲得だけでなく、優秀な優秀な人材が定着しやすいので、労働生産性が上がり、人材育成・研修コストの回収が容易になるという大きなメリットをもたらします。 3. 社員のモチベーションが上がる(従業員満足度の向上、メンタルヘルスの向上) 内閣府男女共同参画局の「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」の調査によると、ワーク・ライフ・バランスが良いことで、仕事に対する意欲が高まることが報告されています。 男性では「プライベートが充実している」ことが励みになり、女性では「女性登用が進んでいる」ことがポイントになっています。 社員のモチベーションが上がることで、職場全体の活性化・コミュニケーションの向上、労働生産性のアップが期待できます。 4. 業務改善により、労働生産性が改善される(効率アップ、時間外労働時間の減少) 政府の調査では、「日本は先進国の中では労働生産性が低い」という報告がなされています。 日本は昔から長時間労働が常態化している企業風土が多く、政府は「働き方改革」により、これを改善させたいという狙いがあるのです。 時短勤務やテレワークなどの多様な働き方を利用して、短時間で高い生産性を上げる企業体質に改善します。 5. 企業イメージのアップ(企業の社会的認知度の向上) ワーク・ライフ・バランスを実現することで、社員を大切にし、離職率が低く、優秀な社員がいる優れた企業、社員が安心して働ける企業というイメージを世間に持ってもらえるようになります。 かつて、自動車産業や電器産業の大手企業は、高い給与と、その厚い福利厚生でイメージアップしてきました。これからの企業は、規模にかかわらず、ワーク・ライフ・バランスの優位性をもって、企業のイメージを上げていくことができます。 ワーク・ライフ・バランスに取り組むことによって、「創造力アップ」「生産性向上」「業績アップ」が起こり、結果的に「組織力強化」「競争力強化」となり、企業の成長につながるのです。つまり、企業にとってワーク・ライフ・バランスは「コスト」ではなく、将来への「投資」であり、長期的な成長・発展へとつながるのです。 では、ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、どんなことをすれば良いのでしょうか? ワーク・ライフ・バランス実践のための取り組み では、ワーク・ライフ・バランスの実現のために何をすべきか?ここでは、いくつかの取り組みをご紹介します。 1. 育児休暇は男性にも手厚く、イクメンを育てる取り組みを 育児休暇は、どうしても女性中心で考えがちですが、実は女性からは「男性(夫)のサポート」が強く求められています。 「保育所に送り届ける」「お風呂に入れる」といったことだけでなく、「男性の育児参加の時間」の増加が必要なのです。母親が子供とだけいる時間が長いと、精神的な不調を起こしてしまうケースがあります。夫である男性と3人の時間を増やすだけでも、メンタルヘルス上のリスクを減らせるのです。 そのためには、男性が育児参加の時間を作るために、「育児休暇を活用しやすい状態にする」必要があり、加えて、男性の子育て参加を容易にするために、育児のハウツー教育を企業が行う「イクメン研修」などを行うことも求められています。 2. 短時間勤務制度を柔軟に設定する 育児や介護にたずさわる人にとって、現在の日本の就業時間はどうしても長いと言わざるを得ません。 欧米の例を参考に、育児や介護にたずさわる社員を対象として、勤務時間を1~3時間短縮する企業が増えています。 育児休暇から復帰した女性社員が対象となることが多いのですが、今後は「両親の介護を目的とした男性社員、管理職社員」の利用も視野に入れて取り組む必要があります。 大切なのは、時短の仕組みが、利用者である社員が利用しやすい時間であることが大切です。いくら時短をしても、保育所や介護施設の時間に間に合わなかったりしては効果がありません。各自の通勤時間も含め、時短短縮のパターンを複数用意してあげることが必要です。 また希望する日の勤務時間を短縮できる選択を可能にしたりして、総労働時間が増えないようにします。 これらの制度を、可能な限りフレキシブルに利用できるように、上司との面談や人事への申請の仕組みも必要でしょう。 3. 仕事の与え方を工夫して、組織生産性を下げずにモチベーションを維持する 育休や時短勤務を実現するにあたり、社員の業務に対する配慮も必要です。時短者に「配慮して工夫しろ」というと、飛び込みの仕事があると帰れなくなったりしますので、どうしても「定量」「単純」仕事を与えがちです。 しかし、単純な業務の繰り返しでは社員のモチベーションが低下してしまいますので、短時間勤務でも、コアな業務を担当できるようにするべきです。そのためには、一業務を複数担当制にしたり、現場での情報共有の仕組みを作って、引き継いでも問題なく遂行できるようにします。 こうしておけば、タイミング的に複数の社員が短時間勤務になった際に、組織生産性が一気に低下するのも防げます。 4. フレックスタイム制度を導入してみる フレックスタイム制度は、今の日本企業に比較的浸透している時間制度ではないでしょうか。「働き方改革」では、このフレックスタイム制度の普及を進めています。 フレックスタイム制度は、「1か月以内の期間で総労働時間を規定し、その枠内で始業・終業時間を自由に決定できる」システムです。フレックスタイム制度は、総勤務時間が変わらないので、「給与の調整」や「昇格・昇給」に影響が少ないので、ほかの時短勤務のシステムより導入がスムーズです。 組織生産性を損なわないように、「1日のうちで必ず勤務するコアタイム」を指定することもできます。外資系などでは、コアタイムすら必要ない、「フル・フレックスタイム制度」やほぼ裁量労働に近い制度を導入している企業も見られます。ただし、フル・フレックス制度の場合、、社員が揃う時間が限られるため、業務の設計に工夫が必要です。全社で難しい場合は、部署単位で採用するケースもありますが、別の問題を作ってしまう場合もありますので、自社の業務にマッチするかをよく検討する必要があります。 5. テレワークの導入を検討してみる テレワークは「在宅勤務」を含む、「会社外の場所でも仕事を可能とする」新しい働き方です。 日本テレワーク協会によれば「ITを利用した、場所・時間にとらわれない働き方」と定義されています。 トヨタが、自社の働き方改革として率先して導入し話題になりました。 企業側にとっては、「通勤、交通費の削減」「休業からのスムーズな復帰支援」「障がい者雇用」などのメリットがあります。 テレワーク導入のポイントは「リスク管理」「コミュニケーションの確保」「勤怠管理」の3点です。つまり、在宅という環境下で、情報漏洩リスクの防止、勤怠管理を適切に行える仕組みが求められます 6. 長時間労働を減らす工夫を 政府の調査では、規模にかかわらず、日本企業のほとんどが長時間労働の状態だそうです。したがって、長時間労働の削減は、「働き方改革」の柱として、企業に対して積極的な取り組みを促しています。 長時間労働を削減するには、いくつかの策があります。 例えば、残業、休日出勤を基本的に禁止にしたり、残業する場合は「事前の申請」を必須とするなどです。ノー残業デーを設けたり、定時が過ぎたら強制的にオフィスの消灯をするなど、かなり積極的に取り組まないと残業を減らすことが難しいのです。 また、残業を禁止・制限するだけでは、長時間労働は改善されません。結局は「間に合わない」ので、仕事を自宅に持って帰って続きをやったり、土日にやったりすることになります。 大切なのは「残業恒常化の要因分析と対策」をしっかり話し合い、「業務フローの見直し」など、根本的な解決が求められます。 少しでも効率的に生産性を上げる手段として、「短時間勤務制度」や「テレワークの導入」などで、社員が柔軟に働ける環境作りをすることで、長時間労働が解消されると期待されてます。 7. 福利厚生サービスの充実・導入で、人生の充実を手助けする ライフ・ワーク・バランスの取り組みとして、新たに様々な福利厚生サービスを導入する企業が増えています。就業形態や制度変更が難しくても、福利厚生サービスの導入は比較的簡単にできるといえます。 社員の健康面をサポートするために、フィットネスクラブなどと提携して、安く利用できるようにしたり、家族や友人との利用を前提に、レジャー施設や、宿泊施設と提携するなど、従来の福利厚生サービスの拡大を行います。 また、社員のスキルアップの意欲にこたえる支援として、資格取得やセミナーの参加などを援助する形の取り組みもあります。 最近では、福利厚生は担当者の負担も大きいため、福利厚生のアウトソーシングも盛んにおこなわれています。福利厚生のアウトソーシングとは、その名前のとおり福利厚生を自社で企画・運営するのではなく、外部業者に委託することで、スケールメリットのコストダウンだけでなく、充実した福利厚生サービスを企画・提供することが可能になります。アウトソーシング業者とだけの契約で済むので、自社担当者の負担も減り、導入が容易になります。これは大手だけでなく、中小・零細企業でも福利厚生を充実できることを意味しています。 福利厚生のアウトソーシング企業としては、ベネフィット・ステーション(株式会社ベネフィット・ワン)や、福利厚生倶楽部(株式会社リロクラブ)、えらべる倶楽部(JTBベネフィット株式会社)などが大手です。 福利厚生サービスの充実と利用推奨は、社員が活気を持って働けることにつながりますし、福利厚生サービスが競合よりも優れた会社であることにより、優秀な人材を集めることができます。 ワーク・ライフ・バランス推進のポイントはリーダーの意識改革 上記の施策を推進し、従業員のモチベーションを高め、生産性向上に結びつけていくためには、ワーク・ライフ・バランスを経営全体の課題として位置づけ、積極的に推進体制の整備を行う必要があります。その際に成功のカギを握るのが、現場のリーダーである管理職の意識です。 ワーク・ライフ・バランス施策である柔軟な勤務体系では、現場のマネジメントは複雑になり、管理職は「生産性向上は難しい」と考えてしまい、ワーク・ライフ・バランスに対する理解はなかなか深まらないケースも多いようです。しかし、現場の管理職がワーク・ライフ・バランスの重要性を理解せず、積極的に取り組まなければ、組織全体でワーク・ライフ・バランスを実現させることはさらに難しくなります。 そのためには、部下のみならず、管理職自身が、ワーク・ライフ・バランスを考えることが大切なのですが、そもそも管理職は労働時間・休憩・休日などに関する「労働基準法」の適用から除外されているので、自身が過重な労働環境下に置かれることが多くなってしまいます。 まずは、部下を信頼して、自身が率先して業務を効率化してワーク・ライフ・バランスを推進していく姿勢と行動を示す必要があります。 ワーク・ライフ・バランスの取り組みの企業事例によると、リーダーが率先して行動することが、職場のワーク・ライフ・バランスの活用・理解・啓蒙で効果があるという報告があります。仕事も生活も充実し、活き活きと働いているリーダーを見ることで、若手・新入社員も影響を受け、自分ももっと成長したい・活躍したいという意欲を掻き立てられるのでしょう。 首相もワーク・ライフ・バランス 首相と言っても、日本ではなくカナダの話です。カナダのジャスティン・トルドー首相が、「国家に仕えるためにはワーク・ライフ・バランスが必要である」と強調し、その一環として伊勢志摩サミットを前に来日していた際に、公務を1日休み、奥様とともに三重県の青峰山を登るなどして結婚記念日に合わせた休暇を楽しんだそうです。 首相は、若くして(43歳で!)首相になるなど、異色経歴やマッチョボディ、ファッションの話題も有名ですが、非常に強力なリーダーシップを発揮して、移民政策など思い切ったかじ取りをすることで話題ですね。 最後に ダイバシティ・マネジメントの項でも説明した通り、グローバル化が急速に進展する中で、日本の企業が競争力を維持し、成長していくためには、積極的に「多様性」や「働き方改革」といった経営改革に舵を切る必要があります。 ワーク・ライフ・バランスを推し進めることで、意欲をもって働ける環境を実現し、優秀な人材を獲得・定着できれば、業績アップや組織の競争力の向上が期待できます。つまり企業にとってワーク・ライフ・バランスは「コスト」ではなく、将来への「投資」であり、長期的な成長・発展へとつながることを忘れないでいただければと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ADDIEモデルとは

    前回は、インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)について、その歴史やメリットなどをご説明しました。 今回は、インストラクショナルデザインで使われる「IDプロセスモデル」で有名な「ADDIEモデル」について、もう少し詳しくご説明いたします。 目次 ADDIEモデルとは ① 分析(Analysis) ② 設計(Design) ③ 開発(Develop) ④ 実施(Implementation) ⑤ 評価(Evaluation) 最後に ADDIEモデルとは 前回のキーワード「インストラクショナルデザイン」で、IDが「学習理論(心理学)」「コミュニケーション学」「情報学」「メディア技術」などを利用した「インストラクショナルデザインの理論・モデル」に基づいて行われるという説明をしました。そして、学習後の学習者のゴールイメージを明確にして、そこにたどり着くためのプロセスを分析・研究して設計するために「インストラクショナルデザインの理論・モデル」を利用する、と説明したと思います。 ADDIEモデルはこの「インストラクショナルデザインの理論・モデル」の「IDプロセスモデル」の1例にあたります。「IDプロセスモデル」は、教育のシステム設計を5つのプロセスに分けて、それを繰り返しながら、より良い教育システムを作っていくというものです。 5つのプロセス(基本モデル)はこのようになってました。 分析(Analysis)・・・問題・課題の洗い出しと分析、対象者や解決策の検討 設計(Design)・・・具体的なゴール設定、成果に結びつく学習目標、そのための手段などをデザイン 開発(Develop)・・・教材、ツールの開発、教授プランの作成 実施(Implement)・・・教材を使って実施 評価(Evaluate)・・・システムの評価、問題点の洗い出し このように、ADDIEモデルは、「分析(Analysis)」「設計(Design)」「開発(Develop)」「実施(Implementation)」「評価(Evaluation)」の5つのステップに沿って研修を設計・推進します。このプロセスを繰り返しながら、受講者の評価や研修・教材の問題点をフィードバックから改善しつつ、より良い教材を作っていくわけです。 では各項目をもう少し詳しく見ていきましょう。 ① 分析(Analysis) 一番最初のステップである「分析」では、理想と現実とのギャップを認識し、ふさわしいゴール(最終効果)を決めていきます。 例として、企業の研修者を対象にするならば、この分析のフェーズで決めることとしては以下のような内容を決めます。 研修の対象の設定 研修の内容の検討 研修の目標の設定 1番目の「研修の対象の設定」では、教育システムを受講する対象者を明確にします。課題から問題となる人を見つける、もしくは、現実に課題がある人にどうなって欲しいかなどを分析します。 2番目の「研修の内容の検討」では、そのためには、どのようなスキル、知識がターゲットとなるか「課題」を明確にし、それを身につけるのに適切な学習メディアを選択します。 その際にコストや利益、投資に対する金額的な見返りを計算することも大切です。 「課題」に対して、受講修了後の効果が、現実の仕事に役立つかどうかをしっかりと判断して下さい。 また「課題」がリーダー育成などの長期的経営の視点を必要とするものなのか、方策的(短期的)ニーズで、今すぐ必要な人材を短期で仕上げるのか、などによっても方法のチョイスが変わってくるかと思います。 3番目の目標設定は、具体的に「どういうことができるようになるか」まで、具体的に設定します。 (例)「◯◯について説明できるようになる事」「自分の判断で、○○について、□□ができる事」 ここを具体的に設定しないと、「受講しただけ」で終わることになってしまうからです。 ② 設計(Design) 「設計」のフェーズでは、目標達成に向けた具体的なカリキュラムの設計を行ないます。①の分析を元に目標達成までのステップをより明確にしてゆきます。この作業が研修の「設計図」を描くプロセスになります。 具体的には下記のようなことを決めていきます。 スケジュール 制作チーム 教材の構成 インターフェースデザイン 教材に統一感を持たせるためのルール決め サポート体制 学習結果の評価法 できるだけスケジュールは、メンバーの仕事量から考えて、適した期間を想定したいものです。特に、テストなどは時間がかかるので、あらかじめ余裕を持った期間を押さえる必要があります。 制作チームやサポート体制なども、設計フェーズでしっかり準備しなくてはいけません。特にサポート体制は実施フェーズに入る前にアサインを済ませておく必要があります。サポートが足りないと、せっかくデザインして教育システムの効果が落ちてしまうからです。 研修をブレンドするケースがほとんどだと思いますが、講義形式なのか、ワークショップ形式なのか、アクションラーニングを行うのかなど、条件によって必要とされるスタッフの数も違ってきます。 インターフェースデザインは、同じデザインロジックで作ります。教材を作る各講師に任せてしまうと、ユーザーは教材ごとに使い方のルールを覚えなおさなければいけません。必ずテンプレートなどを先に作り、デザインルールに沿って作ってもらいます。 そのためには、教材開発ツールの開発なども必要とされることがあります。 「学習結果の評価法」は、①で考えた行動変容の目標を数値化します。評価方法をしっかりとシミュレーションして、その評価方法が正しいかを見極める必要があります。 ③ 開発(Develop) ②デザインの過程で決められた仕様に沿って、具体的な教材の開発や購入、そしてeラーニングなど学習環境の整備も実施します。プロトタイプを作り、関係者でその出来を確認しながら、教材の数を増やしていきます。 e-Learningにおいては、利用時に想定される環境できちっと学習できるかなどを、開発時にしっかり確認します。また、学習者の心理にも配慮し、飽きないように、映像や写真・イラストなどビジュアライズしたり長期記憶に残るような工夫が必要になります。 こうして開発した教材は、使う前にテスターとなる人を手配し、ヒューリスティックなチェックや、教材の感想などを集め、ブラッシュアップしてから量産しないと、せっかくの作業が無駄になりますので、じっくり時間をかけて開発したいところです。 教材以外にも準備することは多々あります。例えば、運用段階で「アクセスできない」などのトラブルが発生するケースに備え、FAQやフォーム、最近ではSNSを使ったサポート体制など、学習に関する様々な用意を行います。 ④ 実施(Implementation) 実際に研修を実施したり、実装済みの学習システムを稼働させます。eラーニングなどであれば、事前に教材や学習者のリストをシステムに登録していきます。このフェースでは様々なデータを取得できるので、あらかじめ設計段階で運用時のチェック項目を立てておくと良いでしょう。 受講期間中に受講状況の確認やお知らせなどの通知、トラブル対応などを行い、正しく教材が利用できてるかを確認サポートします。 運用が始まると、システムや教材の使い方についてのサポートが必要となるだけでなく、学習内容やモチベーションなどもサポートする必要があります。 最近は、FAQなどの静的なページを用意する以外に、SNSや掲示板などで、関係者からだけではなく、学習者同士で相互に協力して学習を進めるのも、大きな効果が認められています。 ⑤ 評価(Evaluation) 評価については、事前に決めた評価法で検証し、研修後の受講者の習得度や行動変容などの教育効果の測定を行い評価します。課題を解決できる研修であったかどうか、研修結果を評価できる体制は機能したかどうかなども検証する必要があります。 知識やスキルが想定目標値にどのくらいたっせたか、時間・期間は適切だったか、落ちこぼれた人はいなかったかなどです。 これら研修全体や教材などの問題点を洗い出し、取得したデータは次回のデザインに役立てます。 この評価ですが、数値的なデータだけでなく、学習者にアンケートを書いてもらうなどもすると良いかと思います。 学習教材の評価では、「内容が正しく理解される作りだったか」「テキスト、動画、音声など、利用したメディアの選択は適切だったか」「テストは内容を正しく評価できているか」などを調査します。 コスト面も評価対象とされます。研修の置き換えなどでeラーニングにスイッチした場合は、比較してどちらが良かったのかを検証してください。研修とeラーニングをミックスした場合は、比率の検証も面白いかと思います。 最後に 前回に引き続き、インストラクショナルデザインについてのキーワードをご説明しました。企業教育も仕事と同様にPDCAライクに回す必要があります。インストラクショナルデザインで設計したシステムを、A→D→D→I→E→Aと繰り返すことで質を上げ、既成の教材や散発的な研修の実施よりも高い教育効果が上げられます。何よりも「行動変容」を目標にしていることで、将来の業績や成果に結びつく人材を育てることができるのです。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • インストラクショナルデザインとは

    我々がeラーニングの学習教材の制作をする上で、意識している概念として「インストラクショナル・デザイン」があります。 インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)は、直訳すると「教育設計」ですが、単なるカリキュラム設計ではなく、様々なプロセスやロジックに基づいて、その環境で最適な教育効果をあげる設計方法です。 インストラクショナル・デザインは学校教育の現場だけではなく企業教育の分野でも、研修企画や人材育成プログラムの設計に使われたりします。特に企業における研修の動機付けや、人が知識やスキルを習得するプロセスに則った研修設計方法など、IDを使って行われるのが今やスタンダードになりつつあります。 今回はこの「インストラクショナル・デザイン」について、かなり大まかではありますが、ご説明したいと思います。 目次 インストラクショナルデザインとは インストラクショナルデザインの歴史 インストラクショナルデザインの設計モデル インストラクショナル・デザイナー 最後に インストラクショナルデザインとは 前述のとおり、「ID:Instructional Design」は、「Instructional」が「教育・教えること」、「Design」が「設計」という意味なので、「教育設計」と訳されてます。 定義としては決まった文言はありませんが、「学習者に対してより効果的・効率的で魅力的な学習環境を設計・開発するための、システム的な教授方法・ガイドライン」という感じでしょうか。細かく区切られた学習・教育の単位が「インストラクション」と呼ばれ、それを目標を実現するために効果的にデザインするのがインストラクショナルデザインです。 インストラクショナルデザインでは、「学習理論(心理学)」「コミュニケーション学」「情報学」「メディア技術」などを利用した「インストラクショナルデザインの理論・モデル」に基づいて行われます。 このデザインを行う人を「インストラクショナルデザイナー」といい、学習ニーズを分析し、それに合わせてシステマティックな授業の設計を行います。インストラクショナルデザイナーは、専門職として大学などの教育機関で育成が進められています。 インストラクショナルデザインの歴史 インストラクショナルデザインの考え方は、第二次世界大戦中の軍事訓練から生まれました。 第1次大戦開戦当初中立の立場を取っていたアメリカは、戦争のダメージが少なかった為、兵士の育成システムは旧態依然としたままでした。ところが第二次大戦がはじまると、戦争の規模がさらに大きくなり、軍のダメージも拡大していきます。そのため大勢の兵士や技術者の育成に早急に取り組まざるを得なくなりました。そこで、学習者である兵士の行動やニーズを細かく分析、訓練を効果的に行うための設計が考え出されました。この設計方法は、新兵の練度を短期間で高めるための効率的な教育技法として成功し、戦争が終わってからも生産現場や企業の人材教育などにそのメソッドが持ち込まれていきます。 このように、米国では1980年代から企業研修にインストラクショナルデザインが導入され始めました。 日本では2000年ぐらいから、企業教育の現場でもインストラクショナルデザインが取り入れられ始めます。これは「eラーニング」が人材教育の手段として普及し始め、それに伴い、海外のeラーニングシステムに付随する形でインストラクショナルデザインの概念が普及したようです。 「eラーニング」は学習者の自由度が高い反面、「やる気喚起」や「学習習慣」、そして「行動変容」などの面で、対面式の研修より不安が残ります。そこで、eラーニングで効率的に学習効果を上げるために、早くからインストラクショナルデザインが採用されたのです。 インストラクショナルデザインの設計モデル 従来の研修は、学校の試験と同じように、学習者の「理解度」に目標設定されていました。そのため、教材のわかりやすさや、講師の教授スキルばかりに関心が集中していました。そのため、学習者自身に対する評価や、研修自体の効果測定の基準があいまいで済まされてしまうという状態でした。 そこで、インストラクショナルデザインでは、学習者の「行動変容」を最終的な学習の目標として、効果測定を「学習後に学習者の行動がどのように変わったか」というポイントで評価します。そして、学習後の学習者のゴールイメージを明確にして、そこにたどり着くためのプロセスを分析・研究して設計します。 その推進の際に用いる理論は大きく2つに分けられます。 1つ目は、全体の流れを設計する「IDプロセスモデル」で、有名な「ADDIEモデル」を使われることが多いようです。 ADDIEモデル 「ADDIEモデル(ADDIEプロセス)」は5つの基本モデルから形成されます。 「1.分析(Analysis)」のフェーズでは、組織が抱える問題や課題を分析し、解決策として研修や教材をどう使えばいいか、またどのような人材を対象者として選べばよいかなどを考えます。 「2.設計(Design)」のフェーズでは、まず対象者は何ができず、受講後は何ができるようになっているべきかの具体的なゴールを設定します。そして、それを実現するために業績や成果に結びつく学習目標の設計や、eラーニングや研修参加など「手段」を決めるなど、内容をデザインしていきます。そして、効果の測定法や評価指標などを明確化します。 「3.開発(Develop)」フェーズは、教材、ツールの開発、教授プランの作成などです。自分たちで作るのか、業者に委託するのか判断し、開発します。 「4.実施(Implement)」フェーズでは、開発した教材を実施し、都度テストや履歴などのデータ収集し、アンケートなどで学習者からのフィードバックをもらいます。 「5.評価(Evaluate)」フェーズは実施後の評価のフェーズです。目標通りにできるようになったか、研修全体の方向性チェック、実施してみてわかった問題点の洗い出し、次の実施への解決策提示を行います。これを繰り返しながら、効果の高いインタラクションのシステムをデザインしていきます。 この「ADDIEモデル」については、次のキーワードの回にもう少し詳しくご説明いたします。 「ADDIEモデル」はインストラクショナルデザインのプロセス面のフレームワークですが、詳細な研修の内容や学習方法を具体的に検討する際に使われる「IDモデル」というのもあります。こちらは「ARCSモデル」が有名です。「ARCSモデル」はこのコラムの既出キーワードですので、こちらをご参照ください。 そして、IDモデルの特徴としてモチベーションに対する対策が組み込まれているのもポイントです。つまり、研修中や研修終了後もモチベーションが維持できるような研修を設計しなくてはいけません。学習者のモチベーションを常に喚起する「仕掛け」をデザインを施すことで、学習中のモチベーション維持だけでなく、そのコースが終わってから、さらに「もっと学びたい」という学習意欲を醸成する事も可能となります。 このようにインストラクショナルデザインは、「IDプロセスモデル」と「IDモデル」を用いながら、システマチックに段階を追って研修を設計します。そして、各ステップで研修を実践・評価する事で、より効率的な学びが実現できるのです。 以上がインストラクショナルデザインの特徴です。次は、このインストラクショナルデザインをデザインするキーマン、「インストラクショナル・デザイナー」についてです。 インストラクショナル・デザイナー 米国では1980年代からインストラクショナルデザインが企業研修に導入され、大手企業では専属のインストラクショナル・デザイナーを抱え、独自の研修デザインが行われていました。 インストラクショナルデザインでは、「学習目標」「教育内容」「評価方法」を首尾一貫したものとして計画し、成果の見える学習環境をデザインする必要があります。インストラクショナルデザインの理論・モデルを駆使して、学習環境の分析・評価・設計・開発などを行う専門職を「インストラクショナル・デザイナー(IDer)」と呼びます。 インストラクショナルデザインの概念を生み出したアメリカでは、 インストラクショナル・デザイナーが専門職としてしっかりした地位が確立されています。大学や大学院の教育分野を専攻することでインストラクショナルデザインを学ぶことができます。また、IDerの資格認定制度も存在します。教育機関だけでなく、企業のコンサルや企業内の教育担当者もこの資格を取得して、企業教育のインストラクショナルデザインに従事するようになりました。 日本においても、2005年に青山学院大学のeラーニング人材育成研究センター(eLPCO)で専門職養成課程を設置されました。 2006年には、熊本大学大学院に「教授システム学専攻」という専門課程が設置され、フロリダ州立大学でインストラクショナルデザインを研究した鈴木克明教授によるインストラクショナルデザインの理論・モデルを適用したeラーニング設計・開発専門家の養成が行われています。 最後に インストラクショナルデザインは、頭で理解したかどうかではなく、行動できるかどうかを目標にしていると説明しました。 「知る」「理解する」といった「頭で理解したかどうか」より、「行動できるかどうか」という目標が良い点は、「具体的に○○することができる」といった評価者が見て観察可能な評価方法であるという点です。目標を「理解」ではなく「行動」に設定することで、確実にスキルを評価できます。 また、デザイン時にプロセスの中にあらかじめ分析方法を決めて、それに必要なデータを取るので、次にIDをする際により精度の高い改良が可能になります。こうしたサイクルを繰り返して、より効果的な研修・学習システムを作り上げることができます。 これらインストラクショナルデザインの特徴は、eラーニングを使った企業教育、特に研修とミックスしたブレンデッド・ラーニングにマッチしています。 企業戦略を着実に遂行するには適切な能力を持った人材が必要です。インストラクショナルデザインを活用し、最適にデザインされた研修・学習システムを作成していくことで、将来の業績や成果に結びつく学習の効果と効率を最大限に伸ばすことができるのです。 次回は今回触れた「IDプロセスモデル」で有名な「ADDIEモデル」についてもう少し詳しくご説明する予定です。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • T型人材とは

    時代のニーズに合わせたキャリア形成の重要性が叫ばれています。人材育成をする上で、「こういうタイプの人材が欲しい」というイメージは各社お持ちだと思います。今回はその「理想タイプ」としてよく話題に上げられる「T型人材」と、それ以外の他のタイプについても、簡単ではありますが、ご説明したいと思います。 目次 T型人材とは T型人材の特徴 T型人材を育てていくには その他の「○型人材」を見てみる 最後に T型人材とは かつて日本経済は、専門分野に特化した人材によって支えられていた歴史があります。それら特定の領域に特化するスペシャリストは「I型人材」と呼ばれました。特に研究開発やものづくりの現場を中心に、スペシャリストであるI型人材を重要視する風潮があったと思います。 1970~90年代の欧米追従型の研究開発では、既存の技術の改良や製造手法の高度化、生産管理の洗練といった方向で日本人の良さが発揮されたため、これらの専門性を徹底的に深堀し、突き詰めることができるタイプの人材が求められたのです。 しかし時代は変わり21世紀を迎えると、グローバルな競争を勝ち抜くには、旧来の追従型とは異なる創造性の発揮が必要となります。つまり「自ら新しい価値を生み出す」ことができる人材です。言い換えれば、1つのジャンルの専門家である「I型人材」ではなく、より創造性のある人材が必要とされるようになりました。専門分野を持ちながらもグローバルな視点を持つ人材、その役割を期待して打ち出されたのが、「T型人材」という人材像です。 「T型人材」は、「専門分野 + 幅広い知見」を持ち合わせた人材で、「シングル・メジャー」と呼ばれることもあります。T型人材の前段階は、先ほど説明した専門分野の深い知識を持つ「I型人材」、つまり「スペシャリスト」です。 「I」とか「T」といったタイプのアルファベットは言葉の略称ではありません。I型人材の「I」は、専門性の高さが縦軸で表現されています。T型人材は、I型人材に横棒の「-」をプラスした人材のことです。「T」の形のように、下方向に深く知識を持ちつつ、横方向に広がる幅広い知見を持ち合わせている人材を表しています。つまり何かひとつの専門分野に精通して深い知識を持ちつつ、他の分野に対しても幅広い知識と知見をもつ人材が「T型人材」です。専門分野をひとつ持っているから「シングル・メジャー」なのです。後述しますが、これに対して2つ専門分野を持った「ダブル・メジャー」と呼ばれる人材もタイプもあります。 情報社会への変化とともに価値観が多様化する現代において、モノづくり現場だけでなく、ビジネスにイノベーションを起こすためには、ジャンルの異なる分野との融合によるシナジー効果やクロスファンクショナル、つまり分野横断的な発想が新しいイノベーションを生み出す鍵とされています。だからこそ、専門知識を活かして幅広い分野で活躍するT型人材の能力が、企業の成長に必要不可欠な要素として求められているのです。 T型人材の特徴 専門分野を持たず、幅広く薄い知識しか持たない人材は、ほかの人材との優位性を保つことが難しいのは言うまでもありません。また、いくら深くて膨大な専門知識を持っていても、その分野に固執し過ぎると他の分野に展開することができなくなります。 T型人材は、I型人材が進化した人材と言われます。I型人材は、専門分野に精通したスペシャリストのことでした。I専門分野に対しては高い知識や能力を有しているため、研究開発分野の開発者や技術職、職人などの専門職として活躍してきた人材です。しかし、IT技術やテクノロジーの劇的な進化とともに、専門領域で能力を発揮してきたI型人材の役割が薄れつつあると言われています。 T型人材の特徴は「スペシャリストであり、ゼネラリストでもある」と言うことにつきます。専門分野に特化したスペシャリストと、幅広い知見をもったゼネラリストが融合した人材なので、専門分野に関する知識を基本から応用まで深く理解する能力と、専門外の領域まで視野を拡大して柔軟に活用する能力を持ち合わせています。つまり、物事に対して2つの側面を併せ持った多様性がある人材なのです。 また、このタイプは「アナロジー思考に優れる」という特徴もあります。「アナロジー」とは、「類推」の意味で、「似ている事由を推し量る」ことです。つまり「アナロジー思考」とは、新しいアイディアをゼロから発想するのではなく、すでに存在しているものから発展させてアイディアを生み出すことを意味します。T型人材は、アナロジーな思考能力を有しており、専門知識に裏付けされた客観的な視野で、新しい価値を創造していくことができます。これこそまさにビジネスシーンで必要とされているイノベータータイプなのです。 T型人材の必要性 文部科学省の科学技術・学術審議会が、2002年夏に発表した「世界トップレベルの研究者の養成を目指して」という提言において、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」こそが、これからの時代の研究者に必要とされる「真の専門性」であると述べられています。まさにこれは「I型人材」から「T型人材」への転換が必要だというメッセージです。 世界的に有名なトップ企業でもT型人材が必要とされています。シャープの町田勝彦会長はかねてから「T型人間たれ」と提唱していました。町田氏は、「これからのものづくりに大切なのは技術の融合であり、それを実現するためにはT型人材の育成が不可欠だ」と強調しています。特に「技術者は放っておくと、I型人間の集団になってしまう。会社は意図して、ローテーションや研修制度の導入を行っていく必要がある。Tの横に広がったノリシロの部分が他の人とくっつくことで、化学反応が起こり、新たな製品や技術を生み出せる」と、開発の現場にありがちな狭い視野でもがくI型人材の変化を求めています。 アップルコンピューターのマウスをデザインしたことでも知られるデザインコンサルティングファームIDEOでは、T型人材を育てることでたくさんの革新的なプロダクトを生み出していきました。CEOのティム・ブラウンはT型人材について、「自分の核となる深い専門知識をもつ側面」と「コラボレーションによって専門外の技能を広げられる側面」を併せ持った人材だと評価しています。まさにT型人材を育てることで、IDEOはデザイン思考を可能にし、数々のイノベーションを成功させてきたのです。 特にデザイン思考を推進している企業では、いままでの専門家によるモノづくり手法に捉われずに、技術者も企画者もデザイナーも総出でモノづくりに関わることで、革新的な製品を生み出すことに成功しています。 T型人材を育てていくには では、T型人材を育てていくにはどういった人材育成をすればよいのでしょうか? 当然ですが、スペシャリストとして専門性をより深く進める教育と、ゼネラリストとして幅広い視野を身に着ける教育が必要です。 具体的に見ていきましょう。 専門性を高める教育 T型人材は、スペシャリストとして自分の専門分野に精通した知識と能力を持つことが必要です。専門性の高い知識やスキルを伸ばすためには、まずは業務に深く携わり仕事を進めます。そのうえで、さらに基礎知識をより深く専門的に学べる研修制度を導入します。 研修を通してT型の基本となる「I」の部分を伸ばす人材育成を行います。 幅広い視野を身に着ける教育 次に、「T」の「-」横棒の部分、つまり横方向に広がる幅広い知見を身につけるにはどうするかですが、よく使われるのが「ジョブローテーション」を取り入れて、それにより幅広い知見を養う手法です。 一つの分野のみに従事すると、なかなか他分野についての知識や知見を増やせません。ずっと同じ部署だとスペシャリストになることはできても、視野が狭く他の分野との協調性に欠ける存在になる危険性があります。 そこで制度として定期的に他部署へのジョブローテーションを実施し、他の分野で働く経験をすることで、複数の分野にたいする知見を養うことが可能です。固定観念に囚われない柔軟な思考を養う仕組みを整えることで、優秀なT型人材を育成することが出来るのです。 また、部署を横断するようなプロジェクトに参加することも有効です。プロジェクトを通じて他分野の社員と交流し、タッグを組んで進めていくことで、様々な意見を受け止め、固定観念にとらわれず柔軟に対応できる力を養うことができます。 経営者目線の視点も必要 T型人材にビジネスのイノベーターとしての役割を求めるのであれば、経営者目線で見渡せる視野を持つようにすることも有効です。具体的には、部署の枠を超えた全体会議や経営層に近いメンバーとの企画系会議に出席させます。ビジネスを考える上で、経営者目線から全体を見渡す視野は不可欠です。企画や営業会議に参加して、積極的な問題提起や議論を交わせる場を作ることで、T型人材はさらに成長します。 その他の「○型人材」を見てみる 「○型人材」という表現は他にもいくつかあります。最近では、リーダーに求められる理想の人材像として、T型をさらに進化させた「Π(パイ)型人材」にも注目が集まっています。その他の「○型人材」を見てみましょう。 一型人材 一型人材は、専門分野に関する知識は浅いですが、代わりに幅広い分野をこなす能力を有している人材のことを指します。ゼネラリストとも呼ばれ、広い分野にわたる知識やキャリアがあるものの、特定の専門性を持ち合わせていないのです。企業においては、管理職や総合職に多い人材型です。一型人材はどのようなキャリアを積んできたかにより、能力に大きな差が生じます。 I型人材 すでに説明した通り、専門性の高いスペシャリストを指します。かつて日本企業が重用した、1つの専門ジャンルを極めた人材、特に技術職に多く、営業や企画など異動の多い職種では少ないタイプです。 Π(パイ)型人材・π型人材 T型人材が、一つの専門性にたけているのに対し、π型人材はもうひとつ柱、つまり、異なる分野2つ以上の専門的な知識を極めた人材です。Π型人材の「Π」は、「T」に縦棒を一本追加することで、複数の専門性を表現しています。「ダブル・メジャー」とも呼ばれます。 Π型人材は、「T型人材をさらに進化させたタイプ」ともいわれ、複数の専門性の融合による新たな価値観を創造し、他の分野へ視野を拡大しながら能力を発揮するととができることから、ひとりでも独創的な発想をすることができるのが特徴です。まさにイノベータータイプです。 H型人材 「H型人材」は、縦に2本の柱がある点でΠ型と形が似ていますが、横軸の意味が少々異なります。H型人材の「H」は、強い専門性を誇る分野が1つあって、横軸の-で他人の専門性を繋げる能力を持ちます。個人の能力を表現するT型人材やI型人材と比較して、H型人材は人と人を繋ぐコミュニケーションスキルに優れた人材を指しています。まさにビジネスの「架け橋」となる人材です。 このような他者との連携をする力を持つH型人材は、ビジネスに新たな価値観や創造性を生み出す「イノベーション人材」として、T型・Π型人材とは違った形で社会に貢献する存在として期待されています。 最後に 最後に色々な「○型人材」を紹介しましたが、果たしでどの人材タイプに焦点を当てて育てるべきでしょうか?専門分野はしっかり押さえなくてはいけませんが、ビジネスをするにあたり、現代の社会では、何よりも幅広い知見をもつことでより柔軟に対応できる強い人材が必要だと思います。実際問題として、人材資源として価値のあるΠ型やH型は育つまでにだいぶ時間がかかると思います。 また、すべての人材がΠ型やH型でもうまくいかないでしょう。なぜなら、これらのタイプは「まとめ役」「リーダー」として、他のタイプの上に立つほうが機能的であり、配下の他の型がある程度数が多いほうがプロジェクトが潤滑に進むかもしれないのです。したがって、人材育成をするにあたりまず育てるべきは、プロフェッショナルたる深い専門知識を持ち、他の幅広い分野でも活躍していける広い視野を持ち合わせた「T型人材」で、その割合を増やすことに注力すべきかと思います。 時代が求める人材像は、「I型人材」から「T型人材」、そして「π型人材」へと、注目が移り変わってきています。しかし、専門性を極めた人材というのは新卒採用で発掘できるわけはなく、計画的なキャリア形成を考え、研修・教育プログラムによって育てるしかありません。つまり「どんな人材を育成したいのか」という、明確な目標を定めた研修プランの立案が求められているのです。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • EQとは

    IQ(Intelligence Quotient)については、もはや説明を必要としないほど定着した言葉と思いますが、最近注目されている「EQ」についてはみなさんどうでしょうか? 関係者間で話題として挙がっても、「なんとなく知ってる」「意味は知ってる」「IQと違うのはわかる」と言った感じの方が多いように思えます。 今回はこの「EQ:Emotional Quatient」について、IQとの違いも含め、簡単に説明していきたいと思います。 目次 IQとは何だったか? IQが高いことは知能が高いのか? 社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか? EQとは EQの測り方 EQを高める教育 EQの高い人材のメリット 最後に IQとは何だったか? EQの説明の前に、おなじみのIQ(Intelligence Quotient)についておさらいさせていただきます。 IQは「知能検査(IQテスト)」の結果を数字であらわしてます。テストによって人の知能の基準を数値化したものなので、値が高いほど知能が高くなります。 算出方法にはいくつかありますが、長いこと主流で使われていたのが、「生活年齢(実年齢)と精神年齢(知能)の比」を基準として、テストの結果を割り振って算出される知能指数です。具体的な式は「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」となり、100に近いほど出現率が高くなります(つまり人数が多い)。 最近は「同年齢集団内での位置」を基準とした「偏差IQ(Deviation IQ, DIQ,偏差知能指数、偏差値知能指数)」というものがメインで使われています。 「同年齢の集団においてどの程度の発達レベルなのか」を把握するために、年齢別の平均値を基準として知能指数を算出します。テストの結果を「同年齢集団内での位置」から算出するので、中央値が100として、100に近いほど出現率が高く、100から上下に離れるに従って出現率が減っていくことになります。 ※偏差IQが主流になった経緯としては、「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」の式では、年齢が高くなるにつれて値が低く算出されるという問題が発見されたためです。 では、やはり気になるのは数値ですよね。世界保健機関(WHO)の基準では下記のようにランク付けされています。ご自身の数値を覚えている方は当てはめてみて下さい。 130以上:きわめて優秀 120~129:優秀 110~119:平均の上 90~109:平均 80~89:平均の下 70~79:境界線級/ ボーダーライン 70未満:知的障害 IQが高いことは知能が高いのか? さて、このIQですが、「IQが高い=知能が高い(頭が良い)」ということになるのでしょうか? 「知能」の定義を心理学の視点で見ると、果たしてこのIQがどれだけ生活するうえでメリットがあるのか、ちょっと疑問に思えるかもしれません。 「知能の定義」については時代や学者によっても諸説ありますが、代表的な例として下記の3つの定義があります。 “ルイス・L・サーストンの知能の定義” 言語、数、空間、記憶、推論、語の流暢さ、知覚 “ハワード・ガードナーの知能の定義” 言語的知能、論理的数学的知能、空間的知能、音楽的知能、身体運動的知能、対人低知能、博物的知能、内省的知能 “デイヴィッド・ウェクスラーの知能の定義” 目的別に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する個人の総体的能力 上記3名はともにアメリカの心理学者で、発表が古い年代から順番に記載してます。同じ「知能」を定義しても、いろいろな能力を含んでいることがわかると思います。 狭義のIQの場合は、サーストン教授の定義で当てはまりそうですが、人材教育などでもよく目にするガードナー博士による定義には「対人低知能」「内省的知能」と言った狭義のIQでも偏差IQでも測れそうにない内容となってます。 こうしてみると、既存の知能検査で測定できるのは、知能の定義のうち、主に「言語的機能」や「論理数学的機能」と定義される能力に限られているんですね。 つまり、知能検査で計ることができる能力は知能の一部なので、知能指数が高いと「頭が良い」とは単純に言い切ることはできず、「言語的・論理数学的機能において優れている」ということなります。 社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか? では、「賢い人」と考えるとどうなのでしょうか? これまたいろいろな解釈があると思いますが、ここでは「仕事などの社会生活をするうえで知能が優秀な人」という観点で考えてみます。 そこで「社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか?」という観点から新たに作られた指標が「EQ:Emotional Quatient(心の知能指数)」になります。 以前コンピテンシーの用語説明で、ハーパード大のデイヴィッド・マクレランド教授の「学歴や知能レベルが同等の外交官が、駐在期間に業績格差が付く理由はなぜか」という調査の話を書かせていただいたかと思います。成績優秀・IQの申し子と言うべき外交官職でも、「学力よりコミュニケーション力や人間性が、外交官の適性においては重要である」という結果が出ていました。正確にはIQではなく、学力なのですが、たとえIQやDIQが高くても、同様のことが言えると思います。 では、いよいよ本題の「EQ:Emotional Quatient(心の知能指数)」について、詳しく見て行こうかと思います。 EQとは EQ(Emotional quotient または Emotional Intelligence Quotient)は、日本語に訳せば「感情知能指数」といった感じになるかと思います。 定義的には「自己の感情を自己管理するとともに、他人の感情を適切に理解・共感する能力を測定する指数」となります。感情の働きを踏まえて、自分や相手の感情をうまくコントロールする能力なので、知能指数を指すIQに対比して、「こころの知能指数」とも呼ばれています。 歴史的には、ピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士によって1990年に提唱されたました。二人は、学歴や知能などではなく心理学の立場から、ビジネス社会における成功の要因とは何かを探り、「感情をうまく管理し、利用できることは、ひとつの能力である」としてEQの考え方を示しました。 論理的ではあるが、言い方が悪いため、相手から反抗されてしまったり、博学で優秀だが、場の空気を読めず、余計なことを言って雰囲気を悪くしたりするのはEQが低い結果ととらえます。 EQは先天的なものではないので、トレーニングで能力を上げていくことができます。EQでは、感情を扱う知能を「識別」「調整」「理解」「利用」の4つに大別し、おのおのの使い方を習得したり、弱いエリアを強化することで、人間関係を円滑に運用できるようになるのです。 やがてEQは、対人関係スキルを重視するアメリカのビジネスの現場で注目されるようになりました。日本でも企業や研修だけでなく、教育現場における人材育成などにおいて各自治体などでも広く取り入れられるようになってきています。特に新人研修だけでなく、マネージャーなど管理職など、ベテランに効果があると言われています。 EQの測り方 EQについては研究が進められているため、様々な測定方法がありますが、もっともメジャーな心理学者のダニエル・ゴールマンの開発した「ミックス・モデル」で説明させていただきます。ミックス・モデルには5つの重要な要素があります。 自己認識力 自分の感情がわかっているということ指します。 自己制御力 自分の感情が爆発しそうになった時に抑制できる力です。反対意見の人と落ち着いて議論をできたり、感情が溢れだすのをコントロールする力、自己憐憫(じこれんびん)やパニックなどの自分を弱める行為を避けることができることも含まれます。 意欲 お金や地位のような報酬が動機になるのではなく、個人の喜び、好奇心、生産的であることに対する満足感のために生まれる意欲が出せる力です。 共感力 他人の気持ちをくみ取る能力や行為で、それに対して適切な反応をすることです。 社会的能力 他人に共感するだけでなく、自分と他人のニーズを交渉する能力のことです。他人との合意点や着地点を見つけたり、仕事で他人を管理したり、説得力があることも含みます。 上記の5つの項目を、「EQ行動特性検査」などのテストで分析し、数値化します。 「EQ行動特性検査」の結果を項目化したものの例としては、下記のような分類分けをよく見ます。 心内知性(セルフ・コンセプト) 自分の心理状況を捉え、コントロールする知性 自己認識力やストレス耐性、気力創出力など 項目:私的自己意識、社会的自己意識、抑鬱性、特性不安、自己コントロール、ストレス対処、精神安定性、セルフ・エフィカシー、達成動機、気力充実度、楽観性など 対人関係知性(ソーシャル・スキル) 自分の考えや気持ちを適切かつ有効に相手に伝え、相手に働きかける能力 自己表現力やアサーション、対人関係力など 項目:情緒的表現性、ノンバーバル・スキル、自主独立性、柔軟性、自己主張性、対人問題解決力、人間関係度 状況判断知性(モニタリング能力) 相手の様子や立場を理化し、自分との様子を客観的に観察する能力 対人受容力、共感力など 項目:オープンネス、情緒的感受性、状況モニタリング、感情的温かさ、感情的被影響性、共感的理解 聞きなれない項目も多いので、いくつかご説明します。 社会的自己意識 他人が自分のことをどう思っているかを気にすることで、強いことにより、周囲の期待に沿って行動するので、ルールを守ったりする傾向が出てきます。 特性不安 何か始める前に不安が先行しがちな人です。初対面の人と打ち解けるのに時間がかかる傾向があります。 セルフ・エフィカシー 自分の能力に自信がある人が高いです。自信があるので、何事も挑戦する傾向があります。 情緒的表現性 自分気持ちを素直に伝えられる人です。喜怒哀楽がストレートな傾向があります。 ノンバーバル・スキル ジェスチャーなどの言葉以外の表現力です。プレゼンなどで力を発揮します。 オープンネス 心を開いて、分け隔てなく接することができる人です。相手の話をよく聞く傾向にあり、信頼されます。 情緒的感受性 相手の言葉のニュアンスや表情などを読み取り、相手の気持ちや真意をつかむ能力です。 状況モニタリング 置かれている状況や人の動きを客観的に観察する力で、それを使って臨機応変な態度ができる人です。 感情的被影響性 他人の感情に引きずられやすい性格です。自分も冷静な判断ができなくなってしまうケースがあります。 EQを高める教育 EQを高めるための研修は、管理職に特に効果が大きいと言われてます。 管理職は部下の育成が命題ですが、管理職のEQスキルが低いと部下の成長を妨げてしまう場合もあります。部下の感情の動きを読み取りながら、対応の仕方を工夫するという柔軟な対応ができるようになれば、部下のやる気を醸成し、職場の活性化にもつながります。また管理職がEQを高めて、感情コントロールができるようになれば、トラブルや困難な課題に対しても自分を鼓舞し、高いモチベーションを維持することができます。 効果的なEQ研修を行うため、まず事前にEQ検査(EQ行動特性検査)を受検する研修プランがほとんどです。 事前にEQ行動特性検査を受けることにより、自分のEQの発揮度合いと他者・職場への影響を自己理解できます。 また、組織(受講者全員)のEQ平均と自分のEQを比較することにより、今の自分の状況との突き合わせ(強みと課題)の発見することができます。 後はEQを伸ばすために、専門講師によるレクチャーやワークショップを行います。 具体的には、EQについての理解を深めるレクチャーを受け、事前の診断結果を参考にアイスブレイク、自己プロファイリングを行い、二人一組による相互分析とフィードバック、フィードバックで自己理解を深め、自分の「強み」「弱み」の整理し、最後にはEQを踏まえて具体的な能力開発の行動計画を策定したりします。 EQ研修は、自己のEQを認識するとっかかりとしては効果的だと思いますが、実際は日々のトレーニングが大切だと思います。毎日の仕事などの社会生活の中でしかEQを鍛えることはできないからです。 また、EQは遺伝などの先天的要素が少なく、教育や学習、訓練を通して高めることができる能力です。つまり適切に訓練・努力すれば、その発揮能力を高めることができるのです。「EQというのは能力であり、EQを発揮することは自分の能力を発揮することだ」という意識を持つことは、EQを高める第一歩です。 EQの高い人材のメリット EQがビジネスを遂行する上で大切な能力であることは明白かと思います。会社としてEQ教育を行うことは、「人に強い人材」を見つけ、育てることになります。 社員のEQが上がることにより、個人の業績のアップや、チームワークの高まり、育成などマネージメント力アップ、取引先との良好な関係などが期待できます。また、個人のストレス耐性があがりますので、メンタルヘルス不調による休職・退職を減らせるといった効果も報告されています。 こうした企業にとって有益な人材ですから、もちろん採用時に獲得できるのにこしたことはないのですが、前出の通り先天的要素が少ないので、入社後でも十分伸ばすことができます。ぜひ企業として積極的に取り組んでいただきたいと思います。 最後に IQが「記憶し、知識として生かすことで問題解決を行う能力」とするなら、EQは「感情を管理・利用することで、問題解決のための適切な思考や行動に導く能力」です。業務をこなすのに、IQは欠かせませんが、その時々の感情の状態によって発揮度は差が出ます。感情をコントロールできるEQを発揮することで、IQを十分に発揮することができるようになるのです。 また、EQをどう活用させれば結果を得られるかと考え、結論を出すのはIQとも言えます。 どちらか一方だけでなく、両方を上手く活用することが大切なんですね。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • コンプライアンス教育とは(その2)

    前回(その1)では、コンプライアンスが必要とされるに至った過程や違反の例などを紹介しました。そして、コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題であり、企業や団体がコンプライアンスを徹底するためには、「組織全員へのコンプライアンス教育」が必須であることもご説明しました。 その2の今回は、そのコンプライアンス教育の進め方や教育の手法についてご説明いたします。 目次 コンプライアンス教育とは「コンプライアンス意識を高めること」である コンプライアンス体制の準備と教育の流れ まずはドキュメントの用意から ~企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化~ 体制構築・整備がコンプライアンス教育の基礎 どうやってコンプライアンス教育に取り組ませるか? コンプライアンス教育は階層別に内容を変える コンプライアンス教育とは「コンプライアンス意識を高めること」である 前回の最後にも少し述べましたが、社員へのコンプライアンス教育とは、「社員全員のコンプライアンス意識を高めること」にほかなりません。 「コンプライアンス意識」とは、「問題に対してどう行動するのが正しいのかを意識しながら、常に行動する」という意味になります。 「コンプライアンス意識」が向上すれば、企業の持つ社会的責任に対する意識も自然と向上するので、社員に対するコンプライアンス教育は、企業の経営に対しても非常に意味があります。 「コンプライアンス意識を高めること」には、当然コンプライアンスの教育をする必要がありますが、その第一歩は、就業規則や規定の内容とそれらが持つ意味を社員にアナウンスすることから始まります。もちろん、就業規則や規定の整備を行っただけではあまり意味がなく、それらが必要な時に「すぐ」閲覧できるようにしなくてはいけません。 次に、どういうことをすると良くないのか?コンプライアンス違反とは何なのか?それをすると企業がどうなってしまうのか?こうしたことを具体的に事例を使いながら理解させます。ケースワークや行動における基準などを説明し、理解・浸透させてください 忘れてはいけないのが、社内における情報伝達や相談窓口といった制度に関しても、しっかり周知して、いざという時に利用できる状態にします。個人で問題を抱えてしまわず、リスクの芽を積極的に積むためには、活発な情報発信と、日常的なチェックの制度が必要です。問題が起こりかけたら、コンプライアンス委員や上司や同僚を通して「指摘」「改善」を促すことを習慣化します。 コンプライアンス体制の準備と教育の流れ 組織としてコンプランアンス体制を整え、その教育を進める場合の第一段階は、プロジェクトとして企業理念や企業倫理を話し合い、文書化して、制定するところから始まります。 次に、企業コンプライアンスを浸透させる為の整備計画を立案します。コンプライアンス教育のプログラムを作成し、管理するシステムを考えます。 これらを立案すると同時に、整備計画を推進させ、定着させる為の組織の結成・整備も必要になってきます。コンプライアンスマニュアルも大事ですが、マニュアルに沿って経営活動に対するチェックを行う組織の整備が、企業コンプライアンスの肝になります。 そのため、人事部や管理部内で組織され、通常業務と兼任するなると、負荷がかかりすぎて機能しなくなることもあります。企業規模にもよりますが、外部の専門家(コンサルタントなど)と相談しながら、ちゃんと機能するチェック体制を整えると良いでしょう。 これらを整備したうえで、全社員レベルのコンプライアンス教育を進めていきます。コンプライアンス教育は研修などの「学習」だけでなく、日常的なモニタリング活動も重要な要素です。講義だけでコンプライアンス意識を根付かせることは難しいので、モニタリングや監査を通して、意識付けをしていくことが必要です。 そして、社会状況などの変化に合わせて追加・改変していきながら運用していきます。 次はこれらを詳しく見ていきたいと思います。 まずはドキュメントの用意から ~企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化~ コンプライアンス教育の前段階として、コンプライアンス関連文書の整備があります。コンプライアンス関連文書には、「倫理方針」「行動指針」「コンプライアンス・マニュアル」「内部規程」などがありますが、それらがどこにあるのか、その所在をしっかり決めて社内に周知する必要があります。またこれらがいつでも必要なときに閲覧できるようになっていなくてはいけません。 そして、これらのドキュメントは作りっきりではなく、業務拡大などでのアップデートや社会変化に応じてバージョンアップもきちっとしなくてはいけませんので、運用体制の整備も必須です。 「企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化」 ドキュメントの所在をしっかり決めて、漏れなく社内に周知する 必要なときにいつでも閲覧できるような仕組みを作る ドキュメントの頻繁なアップデートを考慮した運用体制を作る 体制構築・整備がコンプライアンス教育の基礎 コンプライアンス教育を行うには、行動規範と社内規定の意味をきちんと理解させる事が大切です。 まずコンプライアンス推進室といった組織を社内に立ち上げるなどの体制構築が欠かせません。体制を構築することにより、声高らかに社員に対して会社の本気度を明示することができるようになります。これは遊びではなく、会社も本気で考えているという一種のポーズは、社員の危機意識を高めることに繋がります。 コンプライアンス推進室などが具体的に目標を設定してアナウンスすることにより、社員に対してコンプライアンスをわかりやすくする効果が期待できます。対外的に、つまり顧客や株主、投資家にも、コンプライアンス推進室や相談窓口があることで、コンプライアンス教育に力を入れているという企業というアピールになり、企業のイメージやブランド力の向上にも一役買っています。 社員のコンプライアンス教育には、行動規範を徹底させる事が重要です。では、行動規範とは一体どのような内容なのでしょうか。 行動規範とは何かを理解する 行動規範を制定した意味や目的、義務を知る 地域社会、国際社会、地球環境への貢献や配慮を理解する 顧客、取引先、他社、株主、投資家との適切な関係やルール、モラルを守る 役員や社員同士の組織としての健全性の維持 会社や会社の財産の適正な管理と保持 コンプライアンスの運用と維持 「行動規範通りに行動する」ということはシンプルですが、そこにはいろいろな状況や利害が発生します。大切なのは「企業利益と倫理が相反する場合には、必ず倫理を優先させる」という基本原則を全員が徹底的に理解し納得することです。 企業の活動には上下関係や利害の問題が発生ますので、行動規範をわかっていても、その通りに行動することが難しいケースがあります。しかし、そういったケースを例外として見逃し続けると、コンプライアンス体制は形骸化してしまし、結果として深刻な問題を生み出すことになりかねません。 「悩んだときは行動規範を第一に考える」ことが社員のコンプライアンス教育の大原則になります。 そして、推進計画を立案・管理し、設定した目標に近い値が出ているかどうかを計測して、PDCAを回しながら修正を加え、継続的に運用し、定期的なチェック体制を作ります。 例えば、現場の各部署に「コンプライアンス推進委員」を置くようにしましょう。推進委員を身近に置くことによって、社員が気軽に相談できる窓口ができたことになります。これだけでも社員のコンプライアンス教育は、グッと前進します。そしてそのためには、まず推進委員となった社員が、アドバイスを行うといった行動が取れるように、他の社員よりも積極的に知識を身につける必要があります。社員全員の教育の前に、推進委員のための研修や勉強会を行う必要があります。 ドキュメントや閲覧システム、そして、運用体制ができたら、いよいよ社員全員に対する「コンプライアンス教育」を始めます。 どうやってコンプライアンス教育に取り組ませるか? コンプライアンス教育というと、「あれだめ」「こうしなければいけない」という話になりがちで、参加者がうんざりしがちかもしれません。 関連する法律の勉強も、コンプライアンスの担当者や、法務の業務に就いている社員にとっては、なじみなる意味のある勉強ですが、それ以外の社員にはとっつきにくいもの。誰だって余計な勉強はしたくないものです。 一般的に、法律関連の勉強は聞きなれない言葉も多く、そのままだと慣れていない学習者の意欲を削いでしまいます。したがって、「法律をそのまま読ませる」ような退屈な学習方法はなるべく避けたいところです。 そこで、コンプライアンス教育には、自分の業務に近い話で、積極的に勉強を行いたくなるような「ネタ」を用意するのが効果的です。 コンプライアンス教育でよく行われる手法が、同業界トラブルの事例を集め、その背景を分析し、自社に当てはめて予防策を考える、といった参加型のケーススタディが有効とされています。こうした事例を集めるには、普段から新聞、ネットニュースなどにアンテナを張る必要があるため、社員の意識が自然と上がります。 また、これらを部署ごとに競わせるといった手法も、1つの方法です。 それぞれの部署にあった身近な事例を映像などでわからせることにより、危機感が伝わります。 全社的に行えるのであれば、パネルディスカッション形式の研修も有効です。講師が一方的に話す講習会よりも、報告者のレポートに対して、各部署や階層を代表するパネラーがそれぞれの意見を述べるパネルディスカッション形式を採用することで、聴き手の参加意識を高めることができます。 パネラーは、各部門・各階層の社員だけでなく、アルバイトやパート、派遣スタッフ、さらには協力会社の社員などにも参加してもらうことで、議論がより立体的になります。 そして何よりも、コンプライアンス教育は諦めないことが何より大切です。根気よく組織が続く限り、何度も繰り返して行い続ける仕事と認識してください。 コンプライアンス教育は階層別に内容を変える コンプライアンス教育は、立場によっては、教育・監督する義務が生じますので、階層別に重点内容を変化させる必要もあります。 例えば、新人や一般職員にはコンプライアンスの基礎知識習得を目的として、「就業規則の理解」「従業員の心構え」「自社でコンプライアンス違反があったら場合のリスク」「行動規範遵守の重要性」などを中心とします。 そして、身近な管理職の主任・係長クラスには、「コンプライアンス対処法」を行うべく、「部下の行動見本となるためにはどうすべきか?」「報告フロー」「対処法の理解」などを教育します。 さらに上位の課長・部門長クラスには「コンプライアンスに対する組織的な問題解決策」を実践すべく、「組織的なコンプライアンス機能強化」「コンプライアンス機能を有効に働かせるための管理職の役割」などを考えさせます。 最後に組織トップ、つまり経営者・取締役クラスに対する教育内容は「社員をリードする経営者のコンプライアンスにおける役割」を学ばせます。「法人の社会的使命と経営者の責任」「社内コンプライアンス体制の構築法」について理解し、トップが「本気」なことをアピールする活動の大切さを教育します。 トップたちの意識を手本に、社員全員がコンプライアンス教育に取り組むようにするというのは非常に大切です。会社として「本気」で取り組むという姿勢を見せなければいけません。キャリアが長い上位職ほど、コンプライアンスについて認識の弱い時代を過ごしているので、有用な人材がいるとはいえ、なかなかこのクラスを教育することは骨が折れます。(笑) また、近年は「アルバイトやパート、派遣スタッフ」などのテンポラリスタッフのコンプライアンス教育が急務となっています。 アルバイトスタッフなどが個人のSNSで顧客情報を漏らしたケースや、飲食店で不衛生な作業態度を撮影し、ブログで公開するなどの行為は、雇用している企業に非難が向けられます。もはや「社員でもないのに、バイトにコンプライアンス教育を強いるのは難しい」などとは言ってられず、この階層への教育は重点課題となっています。テンポラリスタッフといえど、新人や一般社員と同様の内容を教育する必要があります。 少し長くなってしまいましたので、急遽(その3)に続かせていただきます。次回はより具体的な教育方法についてご説明いたします。 ここまでお読みいただきありがとうございました。

  • コンプライアンス教育とは(その1)

    「コンプライアンス」についての社会的認識は、年々高まっています。そのため多くの企業や団体で、就業規則や規定などの整備が急ピッチで行われました。しかし、就業規則や規定の整備を行っただけでは意味がないのがコンプライアンスの難しいところです。 コンプライアンスを徹底するために必要なのは、「コンプライアンス教育」です。しかしコンプライアンス教育のシステムについては、なかなか軌道に乗っていないというのが現状のようです。予算も限界がありますし、管理部署も仕事がいっぱいで全社員に徹底した教育ができません。今回は当社でも引き合いの多い、コンプライアンス教育の方法について取り上げてみたいと思います。 「コンプライアンス教育」は「コンプライアンス意識」を高めるための教育と言えます。「コンプライアンス意識」とは、問題に対してどのような事を行うべきかを意識し、行動することになります。したがって、「コンプライアンス意識」が向上すれば、企業の持つ社会的責任に対する意識も自然と向上するはずです。 社員に対する「コンプライアンス教育」を徹底するには、まず企業(特に経営陣や管理者)がコンプライアンスを守るために、省くことのできない必須の教育であるという意識を強く持っていただくことが大切です。 今回は第一弾段階として、まずコンプライアンスを知るために、コンプライアンスの重要性と実例について説明し、次回その2ではコンプライアンス教育の具体的な進め方について詳しくご説明させていただこうかと思います。 目次 コンプライアンスってそもそも何? コンプライアンス違反の例 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 コンプライアンスってそもそも何? 英語の「Compliance」を直訳すると、「従う事、従順、遵守、準拠」といった意味になります。日本のビジネスシーンで使われると「法令遵守」と訳されています。 「コンプライアンス」とは、元々は「何かを遵守する」という事を指しています。 1960年代のアメリカでは、高い経済成長の裏で、企業、団体、組織が独占禁止法の違反など様々な法令違反を犯していました。つまり「つかまらなければ利益のためにズルをする」という風潮です。その時代の国(政府)もそれを取り締まるだけのパワーはありませんでした。 こうした氾濫する法令違反への、社会規範上の対策として生まれたのが、コンプライアンスの概念です。法令違反を良しとしないまともな企業、団体、組織は、独自に対策プログラムを作成し、実践するようになりました。こうした健全化の動きは、国民に支持され、徐々に法令順守の動きは広がり始めます。 しかし、遵守する対象を法令だけにすると、法律を守れば何をやっても構わない、法律を守る事が全てという事になりかねません。もっと言えば、出し抜きたければ法律の隙間を探せば問題ないという解釈をされるかもしれないのです。 そこで、法令の遵守だけでなく、社会や顧客の信頼に応える企業になろうという風潮が高まり、現代では、世の中の常識や良識といった社会的な規範も守る事が含まれるようになりました。 具体的には、下記のような項目が企業コンプライアンスの内容になります。 企業倫理 社内規定の整備(マニュアル化)、運用 企業の社会貢献 企業のグローバル化による世界基準の対応 リスクマネジメント(ルールの設定や運用、環境整備) このように、現在のコンプライアンスには、法律を越えた高い企業理念や、厳しい倫理規定の実践が求められています。また、企業の社会的責任も、企業コンプライアンスの重要な要素となっています。社会的責任を果たし、社会的に企業が高評価であればあるほど、企業のブランド力を向上させ、企業を拡大させる助力となるのです。 コンプライアンス違反の例 「コンプライアンス」の言葉の意味するところはなんとなくわかっていただけたかと思いますが、実際にどんなことがコンプライアンス的にアウトなのかを、事例を絡めて簡単に上げてみたいと思います。 顧客から集めたアンケート情報の取り扱い アンケート情報の取り扱いはコンプライアンス違反として問題に上がりやす事例です。 目的を明示して、顧客の了解の上アンケートを取ること自体は問題ありません。しかし、後日別件でそのアンケート情報を他の部署で利用するとなると話がことなります。同じ社内で利用するのであれば、問題はないと考える人は多いようですが、事前に説明した目的以外のケースでの利用に関しては「承諾していない」とみなされ、コンプライアンス違反となります。 下請法に抵触する問題 取引の一環とは言え、仕事の委託先に対してコストダウンを強要したり、スケジュール的に無理な作業の依頼などは下請法に抵触するコンプライアンス違反になります。それがもとで品質低下や事故なども起こりうるので、しっかり考えるべきことです。 有給休暇の取得拒否 有給休暇は、法律で認められている権利なので、取得を上司が拒否することはコンプライアンス違反となります。ただし、業務の状況によっては、管理者が変更を求める事が可能であると法律上定められています。つまり、業務上、休まれると支障が出るようなケースでは、上司が拒否をしてもコンプライアンス違反にはなりません。 勝手に残業するとコンプライアンス違反 知らないと、意外なことでコンプライアンス違反となります。その顕著な例が、日々の残業です。 忙しいとき、残業するのは当たり前と思っている社員の方も多いかと思います。各企業とも就業規則によって、残業に関して定めているはずですが、法的には残業は上司の命令によって行うものと決められています。その為、上司の了承を得ずに行うと就業規則を守っていない事となり、コンプライアンス違反となってしまいます。 この場合の違反者は、勝手に残業を行った本人だけでなく、監督できなかった上司も違反となります。日々の残業ですらこうなので、休日出勤も同様になります。 残業や休日出勤などの、不当な長時間労働やサービス残業は、労働基準法に違反する行為ですので、たびたび問題になります。企業はコンプライアンス制度に関する窓口を設けておく必要があります。 昼休みを多く取ったので、その分サービス残業を行うと2つの点で法令違反 昼休みを多くとってしまった場合、その分の差をサービス残業で埋めると、実質的な労働時間に変わりは無いので問題ないように思えるかもしれませんが、これは2つの点でコンプライアンス違反になります。 一つ目は、「昼休みの取り方が就業規則通りでない」という点で違反。 もう一つは労働に専念するという義務を意味する、「労働契約」に対する違反。つまり、専念していませんし、上司から指示されるべき残業を勝手に決めたという点でも違反です。 お中元やお歳暮にも気をつける 取引先から物品を渡される場合は、コンプライアンスに違反しないような対応をする必要があります。就業規則によって、贈答が禁止されている場合は、理由を話して丁寧にお断りします。就業規則で禁止されていない場合は、上司に報告し、管理部などで処理してもらい、自分で全部着服しないようにします。逆に取引先に対して贈答を求めるような行為もコンプライアンスに違反してます。 副業のコンプライアンス違反は就業規則による 就業時間外は、その名の通り就業規則の枠組みの外という意味なので、企業が行動を制限する事はなく、自由に行動して構わないはずです。 しかし、就業時間外であっても副業については注意すべき問題がいくつかあります。例えば、公務員の場合は、副業は公務員の法律で禁止されているので、完全に違反です。 では、民間企業の場合はどうなるかというと、就業規則によります。就業規則で制限されているのに副業を行うと、コンプライアンス違反になります。副業禁止については、就業契約の問題になります。なので、契約時の合意があれば制限されることは違法ではありません。 社員の住所を勝手に教える 社員名簿には、名前、住所、生年月日などの個人情報が多数掲載されています。社員は、これらの個人情報を企業に提供しています。これらを社外に口外したり、社員名簿を業者に渡すことは、個人情報保護法に違反した行為として、コンプライアンス違反になります。クレジット会社などを名乗る会社宛の電話に、うっかり教えてしまわないように注意しましょう。 退職先企業の機密情報の漏洩 転職理由が、退職先企業に対する不満の場合、腹いせに機密情報を漏洩させる事件は後を絶ちません。転職先の企業で早く成果を上げたいと思う気持ちもあるかもしれませんが、機密情報は、その企業が持つ資産や財産なので、完全にアウトです。つまり退職先企業から契約違反、著作権の侵害、営業機密の不正使用などで訴えられます。 転職先で自分自身が持つスキルや経験、ノウハウを生かすことは何ら問題はありません。なので、この手の訴訟では「機密情報であるかどうか?」が争点となります。 インサイダー取引 例えば友人からの情報によって、値上がりの予想される株式を購入すると、インサイダー取引になります。インサイダー取引は、重要な情報を公開する前に、社員や関係者がその会社の株式の売買取引を行うという事を禁止した金融商品取引法上で禁止された行為です。つまり、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反実例となります。 友人なので、社員でも関係者でも無いからセーフとはなりません。重要な情報を公開前に知らされた時点で、社員や関係者と同等の立場として考えられるからです。家族や出入りの関係者なども同様です。 ソフトウエアの使いまわし ソフトウエアのライセンス形態はさまざまですが、中には1本だけ購入して複製し、社内で使いまわしてコストを節約しようとする企業があります。例え最初の1本分の代金を払っていてもライセンス条項にそぐわないソフトウエアの社内流用は、著作権侵害なので、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反しています。実際に、企業が損害賠償請求を受けるケースが多いです。 選挙に関することは企業内に持ち込まないことが基本 就業規則では、勤務時間中の政治活動や宗教活動を禁止しているケースがほとんどです。一般的にも、日本の企業風土として定着しているので、OKと書かれていなければ、アウトと判断されます。知人からポスターを貼らせて欲しいといった選挙活動は断りましょう。企業全体で選挙活動を後押しするのも公職選挙法や憲法違反として、コンプライアンス違反です。 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 このようにコンプライアンスは、経営者のみが意識すれば良いルールではなく、働く社員全てが、その意識を持ち合わせる必要があります。なぜなら一人の社員が、上記のようなコンプライアンス違反を起こすだけで、企業全体の信用を失墜してしまうことは少なくありません。信用低下の度合いによっては、倒産という事態を招くこともあります。 雇用形態も関係ありません、アルバイト、パート、誰であっても、コンプライアンスは遵守しなければならないのです。最近では、派遣やアルバイトといった、「人材の流動化」がもたらすコンプライアンス問題が発生しております。 かつて終身雇用が中心の時代では、「会社 = 自分の人生の一部」という意識が強かったので、会社に対する高い忠誠心を社員が持ち合わせていました。そのため、社内情報も漏れる事はあまり無かったので、企業コンプライアンスを整備する必要が無かったとも言えます。人材の流動化が進行が、会社に対する責任感や忠誠心の薄れにつながり、社員同士の仲間意識も薄れてきたので、ルール違反があればすぐに表面化するようになりました。 さらに、TwitterやFacebookなどのSNSが、個人のコンプライアンスを簡単に世間に広めてしまうという要因も大きいです。このように雇用形態の変化や、ネット社会の進行が企業コンプライアンスに強い影響を与え、企業コンプライアンスの整備は急務となっています。 次回その2では、コンプライアンス教育について、そのやり方についてご説明する予定です。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • 反転授業とは

    最近はデジタル教材やツールの進化により、自己学習の効率が上がりました。その影響からか、日本でも反転授業に重きを置く学校が増えています。そしてビジネス教育の現場でも反転授業形式のプログラムを組む企業が増えています。 今回は「反転授業」についてご紹介します。 目次 自己学習を先に、授業は後に 動画による事前授業のメリット 反転授業の効果 今後の授業の中心となる反転授業 人材教育における反転授業 自己学習を先に、授業は後に 学校の授業や企業研修は、「授業(講義)」を受けることが学習の中心です。つまり、講義を受けて、家に帰って復習や宿題で知識と理解を確実なものとするという流れです。 これに対して、『講義を宿題としてオンラインで視聴させ、教室では演習を行う授業をする』のが反転授業です。『教室で講義し、演習を宿題にする』という従来の授業形態を『反転』させたので、「反転授業」と言われます。 反転授業では、講師が予め自分の講義を動画として用意し、それを宿題として生徒側に予め見せておきます。つまり「講義を受けること」は「宿題」となるのです。 そして、集まって行われる講義(演習)では、討論したり、わからない点を質問したり、プレゼンテーション、グループワークなどその場で問題を解いて理解を深めたりします。この「同じ時間、同じ空間」に集う教室に生徒の表現活動を集約し、学習意欲を高めるのが狙いです。 このように、限りがあった授業時間から、講師が一方的にしゃべっていた説明時間を取り除いて、授業時間をフルに使って、知識を実際に自分の力で活用することを学び、より生徒に対して深く教えることができるのが「反転授業(反転学習)」の最大のメリットです。 反転授業のメインは実際の授業(演習)中の内容ですが、その前の動画による「事前授業」だけを見ても、生徒にとってメリットが大きいと言えます。 動画による事前授業のメリット 授業ビデオによる事前学習のメリットとデメリットを上げてみたいと思います。 メリット 1度きりの講義と異なり、何度でも繰り返し見れるので理解が深まる 席などの不利な条件での聞き漏らしがない 時間的な制約が緩和されるので、欠席などによる、機会ロスがない 講師もリハーサルができるので、伝え忘れがなく、正しい順序で説明できる デメリット 質問できない 動画配信システムや再生ハードウェアが必要 飽きとの戦い(集中力の問題) メリットについては動画教材のメリットとしては定番のものが並びますが、実際の「授業」と比較して、「講師側のメリット」もあります。 デメリットですが、「質問できない」というのは、反転授業の場合、実際の授業時間中に質問ができるので、反転授業が動画教材のデメリットをカバーしていると言えます。 「動画配信システム」はYouTubeなど、無料の動画配信サービスにより、解決されています。「再生ハードウェア」の問題は、コストは致し方ありませんが、学校側のタブレットの配布などが進んでいるので、今後は問題とならなくなると思います。 「飽き」については、生徒の問題でもありますが、先生の動画作成時の工夫などでいくぶんカバーできるかもしれません。まあ、生の授業でも寝る人は寝ますし。同じカットが続くと空きやすくなるので、板書のアップと切り替えたりできると多少改善されます。 反転授業の効果 反転授業の有効な効果として、『相乗的な学習の動機づけ』が注目されています。今までは、授業の主役は「先生(講師)」でした。しかし、授業の中心を「演習」に置く反転授業では、ハイパフォーマンスの生徒が活躍し、他の生徒を教える側に回ったりすることで、刺激され全体の学力向上に貢献する効果があります。 また、演習授業にはコミュニケーションが存在するので、学習がコミュニケーションの中心になります。このコミュニケーション能力の育成が、社会に出てから役に立ちます。 今後の授業の中心となる反転授業 反転授業は米国では「Flipped Classroom」と呼ばれています。「貴重な教室での授業時間を、説明だけに費やすのはもったいない。もっと知識を実際に自分の力で活用する手法を学ぶべき」というのが、アメリカで反転授業を奨励している教師たちの発想です。実際にアメリカの高校では、反転授業の導入が急ピッチで行われています。これは安価な動画再生ツールとなったタブレットの普及によるところが多いと言われています。反転授業は、10年後は主流となるとアメリカでは言われてます。 日本ではもともと演習部分のメソッドが不得意なこともあり、中々教員側も苦労しているようですが、文部科学省も「教育の情報ビジョン化」の中で、ICTを使った反転授業を含むBlended Learningを進めると言っています。 人材教育における反転授業 最後に、企業における反転授業の導入ですが、企業研修にも反転授業のメソッドが取り入れられてきています。例えば研修の大部分が講義形式で行われている場合、それが研修日程の長期化の原因だったりします。そこで、講義部分は予め録画したものを事前に各自見ておき、研修日程中は、質問やグループ討議、事前課題のプレゼンテーションなどに多くの時間を割くのです。 実際に反転授業を取り入れている弊社のお客様からは、「映像だと繰り返し見れるので、講義部分の理解度が高くなっている」とか「アンケートを取るとグループワークの方が好評」「研修日程が短くなって、参加しやすくなった」など、おおむね肯定意見が多かったようです。 教える側の講師派遣会社の方も、「講義部分は毎度の内容なので、講師としても割愛できると助かる」「説明忘れがなくて良い」などの意見があるようです。 弊社でも企業教育における反転授業の導入には注目しており、昨年末に、反転授業などを収録するのに適したバーチャルスタジオが完成しました。稼働率は中々好調で、ほぼ毎日収録が行われています。 このように、反転授業の普及には「講義の映像化」が欠かせません。自社で反転授導入をご予定でしたら、ぜひお声をおかけください(笑)。 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

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