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- エルダー制度とは
前回はOJTについてご説明しましたが、今回は関連のキーワードとして、「エルダー制度」について少し説明させていただきます。 私見ですが、最近は先輩が後輩の面倒を見るのは当たり前だという「慣習」が薄れつつあるように思えます。この「先輩・後輩」の師弟関係を、教育システム化したのがエルダー制度です。 最近では販売や介護などの「新人の離職率の高い現場」で、高い効果があると見直されてきています。 目次 エルダー制度とは エルダー制度のメリット エルダー制度のデメリット エルダー制度を活用するポイント エルダー制度とは エルダーとは英語で「先輩」や「年長者」を意味します。 エルダー制度とは、OJT型教育制度の1タイプで、新入社員ひとりひとりに、先輩社員を教育担当としてつけ、業務や社内ルールなどを担当者制度のもとで面倒をみる制度のことです。 他にも「OJTリーダー制度」「ブラザー制度」「シスター制度」など現場によりいろいろ呼び方があり、「エルダー(先輩)」を「バディ(仲間)」と呼びかえることもあります。 一般的なOJTと違うところは、通常のOJTトレーナーが業務中心の指導を行うのに対し、エルダーは、実務の指導を始め、職場生活上の相談役も担う点にあります。 エルダー制度のメリット もともと所属長が特定の社員(新人)にかかりきりになる状態を回避する意味で、若手に指導を指せることはよくありました。エルダー制度としては、さらに、中堅クラスの社員に指導経験を積ませることで成長を促すことなども目的とされています。 指導をする側のエルダーも、指導してスタッフ同士の仲間意識を向上することが出来ますし、指導の際に疑問に思ったり、問題になったことを共有し合うと問題解決能力の向上が見込めます。 何よりも、「新入社員に教えることで(エルダー自身の)技能の定着を図る」、「管理職になる前に管理業務を学べる」といったメリットがあります。 また、エルダーが職場生活上の相談役も担う点は、年齢が近い人が指導することで相談しやすい環境を作り、新入社員や転属などで業務が変わってストレスにさらされる社員を安定させる効果を期待しています。 特に、新人の離職を防ぐのに企業として取り組んでいるところが多く、これを実施することで会社への定着率を上げる効果があると言われています。 エルダー制度のデメリット デメリットとして問題になっているのが「エルダーが燃え尽きてしまう」という問題です。新人は辞めなくなったが、エルダーとなる中堅が業務過多で退職してしまう例があります。 また、当然ですが、エルダーと新人の相性が悪いと上手くいきません。 エルダー同士でも問題は発生します。教え方の違いによる衝突や、エルダー同士の指導の温度差などがあります。こういった場合、トレーナー研修などを導入して、エルダー同士のスキルと意識を統一する必要があります。 エルダー制度を活用するポイント エルダー制度は、業務時間の全てにおいて、「人の面倒を見る」ことを明文化した教育システムです。なので、普通のOJTより、トレーナー(エルダー)への負荷は高いと言えます。 正常な運用のポイントは、全員で新人を育てるんだと意識づけることと、的確な評価・アドバイスを管理者が行うことで、エルダーの育成を同時に行うということです。 エルダー制度は、エルダーも新人も参加しているスタッフ全員が成長していくシステムなのです。 お読みいただきありがとうございました。
- 経験学習モデルとは
今回のキーワードは「経験学習モデル」です。 人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという学習法を、人材育成の領域では「経験学習」と呼びます。 経験学習モデルは、この経験学習をモデル化したもので、日本企業の研修などでもよく取り入れられる学習フレームワークで、1度はやったことがあるという方も多いのではないでしょうか。 この経験学習モデルについて、簡単ではありますが説明していきたいと思います。 目次 経験学習モデルとは 1.経験 2.省察 3.概念化 4.試行 振り返りシートを使った経験学習の実践 最後に 経験学習モデルとは よく「経験学習モデル」と言いますが、正しくは「コルブの経験学習モデル」で、アメリカの組織行動学者デービッド・コルブ氏が提唱した、経験を活かした学習モデルのことを指します。 コルブは、一般的な学習モデルが、既に体系化・汎用化された知識を”受動的”に習い覚える「知識付与型」の学習やトレーニングであるのに対し、「経験学習モデル」は、学習者が自らの「経験」から「学び(気づき)」を獲得していくという「プロセス」を体系化した学習モデルとしています。 「コルブの経験学習モデル」では、4つのサイクルを使って、経験を単なる経験に終わらすことなく、自身の学びへと昇華させ、次のアクションへと繋げ、自身で概念化するところまでを定義しています。 以下の4つのサイクルを回すことによって、学習の深化をはかります。 Step1: 経験(Concrete Experience) Step2: 省察(Reflective Observation) Step3: 概念化(Abstract Conceptualization) Step4: 実践(Active Experimentation) まずは、各サイクルの意味を1つづつ見ていきましょう。 1.経験 「経験」のステップは、「Concrete Experienc(具体的経験)」が原文通りです。 学習者である社員の方が、業務や活動の中で具体的な経験をする段階です。 問題などにぶつかると、都度自分で考え、自分で対処し、結果を受け入れます。するとその中で自分で「気づく」ことが多くなるはずです。 その経験した内容を、どんな経験をしたのか、具体的に何を体験したのかを書き出して整理するのが大切なポイントです。 些細なことでもしっかり記録し、次の省察や概念化のヒントになるようにします。 2.省察 「省察」は、「Reflective observation(省察的観察)」が原文通りです。 経験をしたら、多様な観点から自身の行動を「振り返り」、その内容について「質問」しながら、原因を見つけます。振り返るときに、いつもと同じ視点、価値観で考えては、新しい「気づき」は生まれません。いつもは気にしないような多様な観点で振り返ってみることがポイントです。 具体的には、経験した内容を振り返り、良かったこと・悪かったこと、その時々に感じたこと、狙いとのギャップなどについて書き出して整理していきます。そして書き出した内容に対して、何故なのか?とその背景にある原因や理由を探っていきます。 3.概念化 「概念化」ステップは他にも、「持論化」とか「セオリー化」とか訳されますが、原文では「Abstract Conceptualization(抽象概念化)」と書かれています。 前のステップの「省察」で得られた成功・失敗の分析を、自分や自分以外でも、また他の似た状況でも応用できるように、持論化(マイセオリー化)します。良かったポイントや改善が必要な項目を一度抽象化し、その上で他の場面でも、もしくは他の人も活用できるように文言化、体系的に整えます。 概念化化とはいわば「教訓」のような形にすることです。そうはいっても、この「概念化」は研修でも一番の難関で、参加者がみんな悩むポイントでもあります。まずは、書き方にこだわらないことが大切です。概念化とは、本質的な要素を抽出することなので、本質が捕まえられていれば書き方にこだわる必要はありません。 また、他の人の概念化したものを参考に、自身の視点を加える形で整えてもいいです。体系的に整理された既存理論と、経験から気づいた自分の考えとを照らし合わせ、自分の状況に当てはめ、個別具体的に解釈し、発展させ、自分の新しい理論を構築します。 参考例を探しているうちに、新たな視点に気づくこともあります。 4.試行 「試行」ステップは、他にも「アクション」とか「行動」という置き換えをされている場合があります。原文は「Active Experimentation」で、訳としては「能動的実験」です。 「(抽象的)概念化」によって導き出した持論(マイセオリー)を、新しい場面で実際に試してみるステップです。 能動的という言葉が付いているように、自ら仮説を持って試行することが大切です。本格導入は、その結果を踏まえてということですね。 全てにあてはまる完全なセオリーでなくてもいいし、問題を完全解決しなくてはいけないというわけでもないのです。パナソニックの故 松下幸之助氏は、「持論が6割ぐらいいける」と思ったら決定していたそうです。 この能動的実験によって、次なる具体的経験が得られるため、また最初の「経験」へと戻ってサイクルを繰り返されます。 振り返りシートを使った経験学習の実践 研修では、ワークシートを使ってこの学習モデルを習得します。このシートを「振り返りシート」と呼びます。 振り返りシートは、経験学習モデルの4ステップで記入できるようになっています。 「経験:具体的経験の書き出す」⇒「省察:経験の振り返り」⇒「概念化:セオリー化する」⇒「試行:新しく試すことを決める」といった感じです。 各項目のポイントを下記に補足しておきます。 1.経験ステップ:具体的経験のを書き出す POINT:経験した内容を具体的に書き出していく いつどこでどのような経験をしたか? 自身の役割は何だったか? その結果どういった結果を得たか? 2.省察:経験の振り返り POINT:経験を多様な視点から振り返り、新しい発見や意味を見つけ出す なにが印象に残ったか? 良いと思ったことは? 悪い(改善が必要だと)思ったことは? 経験を通して何を感じたか?どんな気持ちになったか? それぞれの経験にはどのような意味があったか? 結果として分かったことは何か? 3.概念化:セオリー化する POINT:学びや気づきをその他の場面でも応用可能なように自論化する ポイントをまとめる 今回の中で最も重要な教訓は何か? 方程式化・定理化するとどうなるか? マニュアル化するとどうなるか? 他の場面でも応用できるようにするにはどうしたらいいか? 4.試行:新しく試すことを決める POINT:考え出した持論を活かし、次にどのような実験・検証を行うかを考えてみる 今回の活動を通して新たに得られた選択肢はあるか? 次回、より良い結果を出すにはどうしたら良いと思うか? 次はどんなことに挑戦するか? その際に、どのような指標を重視するつもりか? 経験学習モデルの研修で行われる際は、ワークシートの記入の仕方を学び、「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」を書いてみて、それをもとに参加者同士でディスカッションします。 自身の経験を紹介したり、他の人からの省察を参考にしたりして、多様な視点を持つヒントを得るのが目的です。 また、一番難しいステップ3:概念化についても、「それで本当に解決できるのか?」「イレギュラーケースの時はどうするか?」など話し合います。 研修によっては、1か月くらい経って、日を改めて「ステップ4:試行」の結果を振り返る研修を行うのも良いでしょう。 また最近では、この「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」をケース映像を使って行うeラーニング型研修も好評です。研修ですと参加者のスケジュール調整に手間取り、コンスタントに行うことができません。eラーニングの映像を使って経験学習モデルのプロセスを学び、オンラインでワークシートを提出するスタイルが、経験学習のとっかかりには便利なのかもしれません。 最後に 「経験から学ぶ」と言うことは、私たちが人生の中でたくさん経験してきたはずです。しかしながら、その「学び方」について気にしてきた方は少ないのではないでしょうか? 実際職場では、「同じ失敗が繰り返される」「プロジェクトがいつもトラブルに見舞われる」「場当たり的な問題解決しかできない」と言った、経験から学んでいれば陥らないはずの問題が繰り返されているのではないでしょうか。 ビジネスの世界では、効率が重視されるため、上記のような問題が起こると上司は、「マニュアル化」「システム化」といった「誰でもできるように手順化する」という処置が取りがちです。しかしそれでは「誰かに教えてもらわないとできない」「誰かに指示されないと動かない」といった問題を引き起こします。 部下が自身で考えて対処し、自身の成長を実感することなく、仕事の手順を覚えるだけになってしまうのです。指導者として必要なのは、部下が自身の判断や仕事の成果について、自ら考え、自ら振り返る機会をいかに与えるかということです。それは「経験から学ぶ」という昔から行われていた学び方を疎かにしないことを含んでいます。 「経験から学ぶ」、この学び方ができる人は同じ失敗を繰り返しませんが、できない人は何度も同じ失敗を繰り返します。 周りにいる「仕事のできる人」を観察すれば、その人が仕事の中で「経験学習」を実行している振る舞いを見るはずです。その人は「同じ失敗を繰り返さない」「トラブルを予見でき回避する」「改善のアイディアを実行している」「失敗しても成功を諦めない」と言ったコンピテンシーが育っているはずです。 誰でも失敗はします。しかし、「転んでもただでは起きない」つまり「失敗から学びとる」ということを行うことで、自身の価値をアップさせてきたのです。 「経験学習モデル」はこうした学びのプロセスを覚えるためのフォーマットの1つなんですね。 最後まで読んでいただきありがとうございます。
- レジリエンスとは
新型コロナの大流行を受けて、注目されている心理学の言葉に「レジリエンス」があります この言葉が急に使われるようになってきた背景には、企業が今回の新型コロナ禍で、人と会社の両面で大きな逆境に立たされている状況が垣間見えます。 今回は、この「レジリエンス」について、簡単ではありますが説明したいと思います。 目次 レジリエンスの意味 レジリエンスの研究 レジリエンスという人の能力 レジリエンスがある人の特徴 組織レジリエンス レジリエンスの向上 最後に レジリエンスの意味 もとは心理学用語である「レジリエンス(resilience)」の意味は、困難や障害に直面している人が、それを「上手に適応して乗り越える能力」を意味します。 日本語訳で端的に言うのであれば、「逆境力」「耐久力」「折れない心」「精神的回復力」などと訳されているようです。 似たような言葉が並びますが、私が一番しっくりくるのは「(逆境にあっても)折れない心」でしょうか。ちなみに反対の概念は「脆弱性(vulnerability)」です。 レジリエンス研究の第一人者である米ペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しています。 実際の意味合いとしては、「折れない心」プラス「それをバネにして成長」がセットで考えられているようです。 レジリエンスの研究 「レジリエンス」という能力が研究されだしたのは、1970年代です。きっかけは、第二次世界大戦下でナチスドイツがユダヤ人を捕まえて、強制収容・処刑した「ホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)」の孤児に対する追跡調査からでした。 孤児達は親や周りの同胞が殺されるのを目にし、その後強烈なトラウマを植え付けられます。孤児の中には、そのトラウマに苛まれて生きる気力を持てない孤児がいる一方、トラウマを克服し、その後仕事に前向きに取り組み、成功して幸せな家庭を築き、人生を成功させる孤児もいました。 追跡研究では、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向がある事が分かりました。前向きに生きて成功した人達は、その後の人生において、厳しい状況でもネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見いだす事ができる思考の柔軟性が見られたのです。 彼らはそうした思考を残りの人生に活かすことに成功しました。その後ユダヤ人は学術研究やビジネスで成功を収めていきます。 ユダヤの格言・教え(タルムード学) ビジネス関連書では、ユダヤ人に成功者が多いのは「タルムード」の教えがあったからという内容の記事を目にしたことがあります。 ユダヤ人はアメリカの人口の2パーセント程度ですが、その中の成功者にはそうそうたる顔ぶれが並びます。※亡命者含む。 相対性理論で世界一の頭脳と言わしめたアインシュタインはユダヤ人でした。 実にアメリカのノーベル賞受賞者のなかにユダヤ人が占めている比率は25%です。世界で見ても、歴代ノーベル賞受賞者の約20パーセントは、ユダヤ人です。 Facebookのマーク・ザッカーバーグをはじめ、フォーブスの世界長者番付にはユダヤ人が並びます。スターバックス、リーバイス、フランスの自動車会社「シトロエン」の創立者はユダヤ人です。 メディア界では、音と電波の帝王「RCA」の創立者デイヴィッド・サーノフ、英「ロイター社」創業者T・J・バロン・ロイター、「ニューヨークタイムズ」のザルツバーガー家、映画の巨匠スピルバーグもですね。 私の大好きなアメリカのロックバンド「KISS」のフロントマンのポール・スタンレーとジーン・シモンズは二人ともユダヤ人です。 このように、世界から見れば少数派のユダヤ人が成功している秘訣は、今回のレジリエンスに関わる大きなカギとなる宗教上の教えがあります。 ユダヤ人のほとんどの人が信仰しているユダヤ教には、「タルムード」と呼ばれる聖典(聖書)があります。タルムードとは旧約聖書に出てくるモーゼが伝えたもう一つの律法とされる「口伝律法」を収めた6部構成、63編から成る文書群です。 この文書には、ユダヤ人の僧がまとめた1万数千ページに及ぶユダヤ教5000年のあらゆる知恵が凝縮されていて信仰の基となっています。この中にユダヤ人成功の秘密があるそうです。 タルムードには、ビジネスで成功した人の名言にも酷似した教えがたくさん書いてあります。 “タルムードに書かれている教え” 金は道具であり、道具に支配される者などいない。 だから、道具はできるだけ多く持っている方がいい」 「耳と耳の間に、最大の資産(知識)がある」 「失敗したことよりも、やってみなかったことのほうが後悔は大きいものである」 「あなたが既に持っているものを、必要としている人に売るのはビジネスではない。あなたが持っていないものを、それを必要としない人に売るのがビジネスなのだ」 「成功の半分は忍耐からなる」 「人生にとってもっとも大切なものは、金ではなく時間である」 「あなたが知識を増やさないということは、実は知識を減らしていることになる」 「学んだことを復習するのは、覚えるためではない。何回も復習するうちに、新しい発見があるからだ」 もともとユダヤ人は、ヨーロッパで圧倒的に少数派なので、キリスト教徒でない彼らは歴史的にずっと差別されていました。その為、政治家や官僚などになる道は少なく、成功するためにはビジネスや金融、科学や芸術など自らの才覚で人生を切り拓くしかなかったといわれています。 そうした状況下で、タルムードの格言は、親から子へ、社会を通じて、人間観、社会観、ビジネス観を見つめ直す機会を与え、困難を乗り越えながら彼らに強いレジリエンスを備えさせたと考えられます。 レジリエンスという人の能力 「レジリエンス力」の本質となる能力は大きく2つ、「適応力」と「復活力」と言われています。 レジリエンスの英単語としての一般的な意味は、「復元力」「弾力」、転じて「回復力」です。 では何からの回復というかというと、物理学用語では、「ストレス(stress:外力による歪み)」が一定以上かかることにより、反発してその歪みを撥ね返す力がレジリエンスということになっています。これは人間の置かれる状況に置き換えても同様の作用がイメージできますね。 こう考えると、レジリエンスという言葉が、心理学の言葉としてあてがわれた意味が分かってくるかと思います。 レジリエンスは、ストレスのある状況や逆境でも、うまく適応し、精神的健康を維持し、回復へと導くものですが、「導くもの」としては、「心理的な特性」「能力」「プロセス」など、いろいろな側面が考えられています。 レジリエンスの一部の能力として「ストレス耐性(stress tolerance)」があります。ストレス与えられた人間が耐えられる程度を意味する概念です。また「ハーディネス(hardiness:頑健性)」という言葉は、ストレスを自らの力で撥ね返す精神力特性を示す言葉です。この2つはレジリエンスという能力を強く下支えする役割を持っています。 ストレスから逃れることが不可能である現代社会では、ストレスがかかる状況に正面から向き合い、対処し、乗り越えていくことが成長や成功の鍵となります。自身の特性や問題解決能力だけではなく、何かあったときに支えてくれる人がいるか(ソーシャル・サポート)などの「環境要因」も重要です。 レジリエンスがある人の特徴 レジリエンスがある人の特徴を考える前に、「心が折れやすい人の特性」を考えて見ましょう。 「心が折れやすい人」は感情による波が激しいという特徴があります。 自分が置かれている状況や出来事に一喜一憂しやすく、そこから生じる結果にだけ目を奪われがちなので、「なぜ自分がそのような状況にいるのか」「本来、自分は何をするべきなのか」といった物事の本質を考えない傾向にあります。 周囲の反応や自分の感情、物事の結果に振り回されて、無駄にエネルギーを消耗してしまうのです。 「諦めが早い」のも心が折れやすい人の大きな特徴です。目標があっても、ちょっとした失敗や気分の落ち込み、周囲からの冷ややかな反応などさまざまな理由をつけて早々に諦めてしまいがちです。またそのことに対する自己評価が「やっぱり僕にはできなかった」といったマイナス思考に陥りやすい特徴もあります。こういうことが重なってくると、心はより折れやすくなってしまうでしょう。 「心が折れやすい人」の特徴を考えると、その逆のレジリエンスがある人の特徴がはっきりしてきます。以下はレジリエンスがある人の特徴と捉えられている点です。 思考に柔軟性がある(精神的敏捷性:Mental Agility) 大ピンチな状況下でも、思考の柔軟性があれば、ネガティブな状況の中にもポジティブな側面を見つけ、発想の転換でわずかな光を見出して乗り越えることができます。 感情をコントロールできる(自制心:Self-Regulation) 物事の本質と向き合うことができる人は、いちいち目の前の状況に一喜一憂しません。喜怒哀楽の感情の起伏が激しいと、自らの感情に振り回され、それ自体が大きなストレスとなってパフォーマンスを落とします。 自尊感情が養われている(自己認識(Self-Awareness)と自己効力感(Self-Efficacy)) 自尊感情とは、「自分の力を自分自身が過小評価しない」ということです。自尊感情がしっかりある人は、困難に直面しても、最初から「無理だ」とあきらめず、乗り越えるための手段を考えるステップに入ります。この自尊感情の醸成は、レジリエンスを高める上で非常に大切なポイントです。 楽観的(Optimism)である 過度な不安を持つ人は、それに振り回されてしまいがちです。逆に楽観的過ぎても危険です。ただ、この状態は長く続くものではなく、「そのうちきっと解決できるだろう」と、さまざまな困難を前向きに捉え、不安感に打ち勝って物事を解決していくことができます。 組織レジリエンス 個人がレジリエンスを身に付けると同時に、企業などの組織自体がレジリエンスの考え方を積極的に取り入れようという動きが活発化しています。これは新型コロナウイルスの流行前から活発になっていたのですが、ここにきてビジネス誌の中心記事になるほど盛り上がりを見せています。 ここでの「組織レジリエンス」とは、企業のビジネス環境の変化への適応能力や耐久力、逆境力を意味しています。 21世紀になると、ITOなどのイノベーションにより、従来の産業や企業が陳腐化し、経営危機に立たされることも頻繁に目にするようになりました。そのため、近年投資家が企業に投資する判断基準として、注目しているポイントとなったのが「組織レジリエンス」です。 イノベーションなどでビジネス環境の変化による経営危機が訪れた場合、いかに企業の存在価値を示し、新たな価値を創出できるかをビジョンを持って説明することは、投資家との信頼関係構築にも多大に影響します。組織レジリエンスの強化は投資家の企業評価指標に直結しやすく、企業としても企業価値を示す根拠として活用することができます。 また、BCP(事業継続計画)の面でも組織レジリエンスは非常に大切です。 BCPでは、企業の危機管理のテーマにも「レジリエンス」という言葉を使うことがあります。リスクマネジメントの一種でもあり、危機により業績や企業自体がゼロからマイナスになってしまった場合、どのようにして元通りにいかに戻すかという計画を前もって立てておくのです。 マイナスから回復するだけではなく、以前よりもプラスの高みへと進化するような「超回復力」につなげるという考え方も含みます。 日本政府の政策に「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」という取り組みがあります。国家のリスクマネジメントであり、強くてしなやかな国をつくることです。これもコロナ禍以前から政策として活発に協議されていました。 日本はリスクの多い国家と言えます。関東大震災(1924年)以降、日本で100人以上の死者が出た地震は15回起こっており、その発生確率は9年に一度ということになります。 国土交通省は「日本の人口の73.7%が、洪水、土砂災害、地震、液状化、津波のいずれかで大きな被害を受ける危険のある地域に住んでいる」と報告、日本国民はほぼすべての人が、人生の中で大災害に遭遇することが宿命づけられています。 さらに自然災害以外にも、今回の新型コロナのような感染症災害(バイオハザード)、地政学的脅威、テロや紛争の飛び火と言った武力衝突の脅威も、以前より身近に感じられるようになってきました。 こうした自然災害や様々なハザードに対するレジリエンスとは、たとえ被災しても、個人や家庭、企業や組織、地域などが折れてしまうことなく、被災前の状態に戻れる力を意味します。日本人は古来より、このレジリエンスの力が試されてきているといえます。 レジリエンスの向上 レジリエンスには、特別な精神状態に追い込むパワーがあり、「集中力」「パフォーマンス」「創造力」「問題解決力」「対応力」などを高める効果があります。そうした理由からも企業も関心が高いレジリエンスですが、どういった人材教育が行われているかというと、企業向け研修や自己啓発的に行われるトレーニングが主たる施策のようです。 研修のカリキュラムを見ると、「感情のコントロール方法」や「自尊感情、自己効力感の取得方法」に関して、時間を割いている傾向があります。具体的には、仕事でストレスを受けた時の受けとめ方や捉え方、さらにネガティブになった時の切り替え方といった感情のコントロール方法を学びます。そして、自分の強みや弱み、自分はできるという効力感を得る方法などもです。 メンタルケア研修と似てますが、レジリエンス研修の場合は感情の癖や対処法の習得に重きを置く内容です。 また、一部は代理体験ができるのもレジリエンス教育の特徴です。成功体験のエピソードビデオやリアルトークを聴講するという啓発活動も自主的に行うと良いかと思います。 一番大事なのは、こうして学んだことを恐れずに、仕事に使うことです。つまり、ハードルが高そうな仕事も「いっちょやってみるか!きっとできるさ」と思ってチャレンジし、躓きながらも成功させるというその体験が一番成長を促します。 レジリエンスを高めるには 目標に向かえば向かうほど、困難な状況は現れるものです。レジリエンスを高めるには、こうした困難を乗り越えていくという積み重ねが非常に大事です。 アメリカ心理学会は、以下の「レジリエンスを築く10の方法」を提唱しています。 親戚や友人らと良好な関係を維持する 危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする 変えられない状況を受容する 現実的な目標を立て、それに向かって進む 不利な状況であっても、決断し行動する 損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す 自信を深める 長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する 希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する 心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う 最後に 新型コロナウィルス流行の影響は、当初の予想をはるかに超える変化を作り出しました。コロナがこれからの経済に与えた影響はまだ全貌を表さず、かつての金融危機・経済危機以上の規模で大混乱が発生する恐れがあるといわれます。 コロナ以外でも世界では異常気象が続き、日本でも今まで早々お目にかからなかった規模の台風や集中豪雨が頻発しています。世界はますます不安定になり、かつ不確実性が高まってきています。 このような不確実で不安定な今後の世界に生きていく上で、個人の生き方だけでなく、企業、そして社会にとっても、「レジリエンスを高める」ことに取り組んでいくことが大変重要になると思います。 ストレス社会と言われて久しい今日、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。その中で、生産性を上げて持続的成長を遂げるといった難題に取り組みつつ、心身ともに健康で幸せな人生を歩んでいくには、レジリエンスをいかに高めるかが社会人生命を左右する重要なテーマです。 最後まで読んでいただきありがとうございました。