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  • モチベーション3.0とは(Part3)

    ダニエル・ピンクの著書にある「モチベーション3.0(Drive!)」についての説明のPart3(3回目)になります。 Part1.では、モチベーション1.0とモチベーション2.0について説明し、2.0と、その動機づけの方法である「アメとムチ」による「外発的動機づけ」が、実験の結果、本来の意図とは反対の影響を生み出すことについて説明しました。 Part2.はアメとムチのような外発的動機ではなく、モチベーション3.0の「内発的動機付け」に「自律性」「成長性(マスタリー、熟達)」「目的」の3つがあることを説明し、そのうちの2つを事例などを含めご紹介しました。 3回目のPart3.では、3つの内発的動機づけの最後の1つ「目的」という動機づけについてご紹介します。 目次 3.モチベーション3.0 3つの要素「目的」 1.目標(Goals) 2.言葉(Words) 3.指針(Policies) 人生の目標による幸福度の調査からわかること 内発的動機づけが組織になかなか浸透しない理由 イチローとモチベーション3.0 最後に 3.モチベーション3.0 3つの要素「目的」 タイプIを支える足が三脚であるとすれば、そのうちの二本の脚が「自律性」と「マスタリー」になります。しかし、一番大切なのは3番目の脚である「目的」です。 「目的」は、単にお金が欲しいとか出世したいと言った自分の欲求を満たすだけでなく、社会に何らかのインパクトを与えたい、このような社会を実現したいという、社会レベルの目的意識を持っている性質のことです。社会的利益、自然環境の保護、チームへの貢献など、より大きな目的に結びついていることが大切です。 Part2で、「自己目的的経験」と「フロー」について研究していたハンガリー出身のアメリカの心理学者チクセントミハイは、「目的」について「目的は人生を活性化する」と説明しています。そしてその重要性をこう表現しました。 「進化論は、自分を超えた大きなことを使用とする人を選びだすことに加担しているのではないかとさえ思う時がある」 モチベーション2.0では、「目的」を動機づけとしては認識していませんでした。まったく否定はしてませんが、飾り程度です。したがって2.0は人間の重要な部分をないがしろにしていると言えます。対してモチベーション3.0は、「目的」を人間の本質に近いレベルで重要視しています。 戦略の権威ゲイリー・ハメルは、「感情を刺激する役割として考えた場合、“富の最大化”という目的だけでは人間のエネルギーを十分に結集するだけの力はない」と説明しています。「利益を得たい」という動機は影響力があるものの、個人にとっても組織にとっても十分な機動力とはなりえないということです。 現在の労働者の多くが、仕事に熱意を失っているという事態が生じている一方で、これと対をなすように、ボランティア活動が同じくらい急増しているという現象がアメリカでは生じています。つまり、有給の仕事だけではどうしても得られない目的を、ボランティアという手段で人の心を育んでいるのです。 モチベーション2.0は、利益の最大化を中心にしていました。モチベーション3.0は、利益を否定はしませんが、「目的の最大化」を同じくらい重要視しています。この目的という新しい動機の兆候を、「目標」「言葉」「指針」という組織における3つの領域で見て取ることができるとダニエル・ピンク氏は分析しています。 1.目標(Goals) アメリカのベビーブーマー世代の子供たちのことを、「ジェネレーションY」とか「新世紀世代」、「エコーブーマー」などと呼ぶそうです。ちょうどこれらの世代が仕事をするようになり、ビジネスシーンに新しい変化が生じています。 ライターのシルビア・ヒュークレットの調査によると、ベビーブーマー世代とその子ども世代は「成功の定義の見直しを計り、根本的に『リミックスした報酬』を進んで受け入れている」と報告しています。 具体的には、この世代は金銭をもっとも重要な報酬とはみなしていないという点があります。代わりに金銭以外の様々な要因、例えば「素晴らしいチームと仕事ができる」とか、「仕事を通じて社会に還元できる」といった条件を仕事を選ぶ際に選択するそうです。 そして既存企業にそうした満足感を得られる報酬が見つからない場合には、自分でベンチャーを興してしまうのです。 モチベーション3.0の目標(Goals)とは、利益を目指すのではなく、利益を触媒として「目的」の達成を目指すことなのです。 この例として、トムズシューズの事例が紹介されています。 トムズシューズの事例 ジェネレーションY世代のブレイク・ミコスキーは、2006年にトムズ・シューズを起業します。この靴の販売サイトのビジネスモデルこそ、モチベーション3.0に基づいています。 具体的には、トムズ・シューズで誰かが1足購入するたびに、発展途上国の子供たちに、新しい靴を1足贈るというものです。 トムズ・シューズのWebサイトにあるFAQでは、トムズ・シューズは「慈善の精神が根底にある営利目的の企業」と説明されています。つまり、トムズ・シューズのビジネスモデルは、「顧客を慈善家へと変える」という目的で運営されているのです。 2.言葉(Words) ゲイリー・ハメルは、「マネジメントの目標は通常、「効率性」「メリット」「価値」「優位」「焦点」「差別化」といった言葉で表現される。こうした目標も大切だが、人の心を掻き立てる力に欠けている」と指摘しました。さらに、ビジネスリーダーは、「日常のビジネスの営みに、名誉や真実や愛、正義や美のような、深遠で魂を揺さぶる思想を吹き込む方法を探す必要がある」とも言っています。人間味あふれる言葉を用いれば、おのずと行動もそうなるかもしれないということです。 2009年のリーマンショックで、世界の人々は投資家や企業がマネーゲームに偏り過ぎて、金融不正行為など様々な問題を引き起こしたことが明るみになりました。 そんな騒動の後、有能なビジネスマンを養成すべく世界中から優秀な人材の集まるハーバード・ビジネス・スクールで学生がある行動を起こします。 「MBAの誓い」と呼ばれるその宣誓は、スクールを卒業し、投資家や起業役員を目指している生徒達が、この先ビジネスを行っていくにあたり、「利益の最大化よりも、目的の最大化に行動の重点を置く」ことを約束するものでした。まさに医師の職業倫理を述べた誓いである「ヒポクラテスの誓い」のビジネスリーダー版です。 その宣誓の一部はこんな感じです。 MBAの誓い(抜粋) 「マネージャーとしての私の目的は、人と資産を結び付けて、単独では創造できない価値を創造することにより、大義のために尽くすことである」 「私は、株主、同僚、顧客、そして私たちが働く社会の利益を守る」 「持続可能な経済的繁栄、社会的繁栄、環境的繁栄を、世界中で築くように努める」 「目的」や「大儀」「持続可能な」といった言葉は、タイプXの辞書にはなさそうですし、ビジネス・スクールでもめったに聞かれない言葉です。これは、結局ビジネス・スクールの目的とは異なるからなのです。 それにも関わらず、世界最高のビジネス・スクールで学ぶ学生が違う考え方を抱いき、わずか数週間で、卒業予定の1/4の学生が誓いを立てたそうです。 まさに彼らにとってモチベーション3.0の精神が萌芽した瞬間でしょう。 ゲイリー・ハメルが「日常のビジネスの営みに、名誉や真実や愛、正義や美のような、深遠で魂を揺さぶる思想を吹き込む方法を探す必要がある」と言ったのはこういうことではないのでしょうか。 また別の話になりますが、アメリカの元労働長官のロバート・B・ラッシュが提案した組織の健全性を図るための「代名詞リスト」の話をご紹介します。 ある企業を訪問調査した際に、従業員に何点か質問します。その際会社について語る時、「彼ら(they)」と言っているか「私たち(we)」と言っているかに注目すべきだとラッシュは言います。Theyが使われるか、Weば使われるかで、企業カルチャーが全く違うそうです。お察しのとおり、モチベーション3.0的カルチャーな企業では、Weが使われています。 このように目標を言葉で表す際に、何を重視して、どう表現されるか、言葉(Words)は非常に大切な要素なのです。 3.指針(Policies) 企業が語る「言葉(Words)」と求める「目標(Goals)」の間には、言葉を目標に変換するために実行すべき「指針(Policies)」が存在します。ここにも変化が出てきました。 例えば、過去10年の間、多くの企業が倫理ガイドライン作成に多大な労力と時間を費やしたにもかかわらず、倫理に反する行動が減る気配はありません。これは、意図せずしてタイプIの考え方から「目的」の部分を抜き去り、タイプXのフレームワークの中に移植してしまうと、正しいことをするという目的が外されたので、これさえ守れば万事OKという仕組みになってしまうからです。 具体的には、ある企業がアファーマティブアクション(差別撤廃運動)を勧めようとしているとします。その施策の中で、倫理規範を紋切り型のチェックリストという体系に落とし込んでしまった場合、本来の目的から遊離して、「組織が差別をしていないと証明するために満たさなくてはいけない」要求事項に落ちてしまうということはよくあることです。 こうなると、企業はもはや「積極的に多様性を追求する」という目標を失い、訴訟を起こされないために全リストをチェックするほうに焦点を合わせてしまっています。もちろん当初は、従業員の間には正しいことをしたいという内発的動機づけがあったでしょうが、ガイドラインができて以降は、起訴されたり罰金を科せられないようにするという、外発的な動機付けに変化してしまいました。 処罰の対象とならないように、従業員達は最低限の倫理規範を遵守すしてくれるかもしれません。しかしガイドラインは、企業の体質に目的意識を取り入れるという役割をまったく果たしてはいないケースが良く見られます。 こうした事例を考えると、目的の最大化のために、自律の力を用いるアプローチの方が有効かもしれません。 お金の使い道についての研究 “モチベーション2.0では報酬はもっとも大切な動機の片翼です。しかし、多くの心理学者や経済学者が「お金と幸福の相関関係は弱い」と認めています。様々な実験からある程度の金額を超えると、大金でも高い満足感をもたらさないことが、わかっています。 しかしながら、ブリティッシュ・コロンビア大学の心理学者ララ・エイクニンとエリザベス・ダン、ハーバード・ビジネス・スクールの心理学者マイケル・ノートンは、お金の「使い道」には、重要度があると考えました。 他人のためや、目的のためにお金を使うと、主観的な幸福が実際に増すという事実です。ダンとノートンは、これを「社会を重視する(プロ・ソーシャル)支出」と名付け、この発見を企業に取り入れるように提案しています。 具体的な実行例はこんな感じです。企業が予算の一部を慈善事業費に割り当てるとします。その費用を従業員に再分配し、各自の選択で慈善事業に寄付として納めてもらおうというものです。こうすれば、各団体が恩恵を受けると同時に、従業員も直接的に満足感を抱けます。” 人生の目標による幸福度の調査からわかること 最後に「人生の目標による幸福度の調査」について、少しだけ書いておこうかと思います。 ここまでの話しでも登場しているロチェスター大学のエドワード・デシとリチャード・ライアン、クリストファー・ニェミェツは、卒業予定者からサンプルとなる学生を選び、人生の目標について訊ねました。その後、追跡調査を実施、キャリアが始まってからしばらくの間の状況を調べ続けたのです。 学生の中には、「外発的抱負(金持ちになりたい、有名になりたい)」つまり「利益志向型の目標」を抱くものと、「内発的抱負(他の人の人生の向上に手を貸し、自らも学び成長したい)」つまり「目的志向型の目標」を持つ者もいました。 彼らの卒業後の足取りを追うと、学生時代に目的志向型の目標を持ち、それをやり遂げつつあると感じている者は、大学時代よりも大きな満足感と主観的幸福感を抱き、不安や落ち込みは極めて低いレベルであったそうです。 対して、利益志向型の目標を抱いていた者の結果はもっと複雑でした。富を蓄積したり、賞賛を得たりするなどの目標を達成したはずの卒業生ですが、学生時代よりも満足感や自尊心、ポジティブな感情のレベルが増しているわけではなかったのです。目標を達成したにも関わらず、以前よりも幸せになっている様子はなく、不安や落ち込みなどのネガティブな指標が強まったこともわかりました。 デシら三人の研究者はこの結果を受けて、「ある目標(この場合は利益志向型の目標)を達成しても幸福に影響を与えず、実際には不幸を助長するとこの調査は示している」と報告しています。 この調査から自分の望みを実際に手に入れたときでさえ、必ずしも自分に必要なものを手にしているとは限らないとわかります。「豊かさを求めて外発的目標を高く上げる人は、その豊かさを手に入れる可能性が高いが、彼らは幸せではない」とライアンは述べています。 また、デシはこうも言っています。「一般的に、何かに価値を見出して手に入れると、それに応じてもっと幸せになると考えられている。ところが調査結果からは、何かに価値を見出して手に入れると、一層幸福になるのではなく、一層好ましくない状況になる」と。これは、利益志向型の目標を追い求め、それを達成したのにまだ満足できないと感じる時、目標の規模と領域を拡大しようとしてしまうからです。そして一層高い報酬や他者からの承認を求めるようになってしまい、「幸福へ続く道だと考えて、実は更なる不幸の道へと追いやられている」とライアンは注意を促しています。 さらにライアンは「高い目標を掲げて達成する人が、不安や憂鬱に取りつかれる理由の一つとして、良好な人間関係の欠如が挙げられる。金儲けや自分のことに精一杯で、愛情や配慮、思いやり、共感など、本当に大切なことにかける余裕が人生にないのだ」と指摘しています。何となくわかるような気がしませんか? こうした研究結果をもとに、ダニエル・ピンクは次のように指摘しています。 “「この調査結果が個人にあてはまるなら、組織にも当てはまるのではないか。組織とは個人の集まりなのだから。利益が重要でないというつもりはないし、利益志向の動機は目標達成の重要な活力となってきた。だが、これが唯一の動機ではないし、一番重要な動機でもない。実際に、人類史における偉業を振り返れば、目的が要因であったはず。健全な社会、および健全な会社組織は、まず目的ありきなのである。」” 内発的動機づけが組織になかなか浸透しない理由 目的の追求は人間の本質であって、今その本質が人口統計上例のない規模で、そして最近までほとんど想像できなかった規模で、姿を現しています。その結果、企業が活性化され、世界が再編される可能性があるダニエル・ピンクは説明します。 科学が証明したことと、ビジネスで実践されていることの間にはズレがあります。20世紀には一般的だったアメとムチの動機づけは、時にはうまく機能するが、驚くほど限られた状況でしか効力を発揮しなかったという研究結果出ています。 さらに科学者が明らかにしたのは、2.0のOSの中心となる「交換条件付き報酬」は、ほとんどの状況で効果がないばかりか、現在から未来の経済的、社会的発展の中心となるであろうレベルの高い、創造的で施策にとんだ才能をもつぶしかねないということまでわかりました。 さらに、高い成果を上げる秘訣は、人の生理的欲求や、心賞必罰による動機づけではなくて、第3の動機づけ(自らの人生を管理したい、自分の能力を広げて伸ばしたい、目的をもって人生を送りたいという人間に深く根差した欲求)にあると、科学で証明もされました。 しかしながら、この心理を組織に適用しようとすると、いっきに難しくなるのです。私たちにとって、古い考えを手放すことは難しく、古い習慣を断つことはさらに難しいからです。2.0のOSがあまりにも長く使われすぎたのです。 我々は目の前のニンジンを追いかけて走る馬とは違います。子供たちと一緒に時間を過ごしたり、自分が最高に輝いている姿を思い起こせば、2.0OS的な受け身で命令に従うだけの従順な姿勢が人間の本来の姿ではないとわかっているはずです。 それに、人間は本来、活発に積極的に活動するようにできています。人生で最も豊かな体験は、他人からの承認を声高に求めている時ではなく、自分の内なる声に耳を傾けて、意義あることに取り組んでいるとき、フローしている時、大きな目的のために活動しているときです。 結局、この不一致を解消し、モチベーションについての新しい理解をビジネスシーンで活用することは、ビジネスの話しだけではなく、人類全体の人間性の肯定でもあるのだと述べられています。 イチローとモチベーション3.0 このコラムのモチベーション3.0をテーマとして選んだのには、マリナーズのイチロー選手の引退報道がきっかけでした。強い内発的動機づけで活躍している人をイメージすると、私はどうしてもイチロー選手がまず最初に浮かんできます。私にとってイチロー選手こそがモチベーション3.0を実行している人だったのです。 彼のドキュメンタリーなどを見れば一目瞭然ですが、イチロー選手が報酬のために野球を続けているわけではないのは明白です。いくつかの発言にもそれが表れています。少し紹介してみたいと思います。 イチロー選手のモチベーション3.0的名言 “「少しずつ前に進んでいるという感覚は、人間としてすごく大事。」 「人に勝つという価値観では野球をやっていない。」 「第三者の評価を意識した生き方はしたくない。自分が納得した生き方をしたい。」 「今自分がやっていることが好きであるかどうか。それさえあれば自分を磨こうとするし、常に前に進もうとする自分がいるはず。」 「やれと言われれば、やりたくなくなる。やるなと言われれば、やりたくなる」” 「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」がイチローを動かしているのです。 最後に 3回にわたってダニエル・ピンク氏のモチベーション3.0について説明してきました。キーワードの説明としてはかなり細かくなってしまいましたが、内容が内容だけに、要点だけ載せても「ざっくりして意味が分からない」でしょうし、「結局理想論だろ」と思われてしまうので、著書内で紹介されている実験や事例を、順序立ててなるべく多くご紹介するようにいたしました。 最後にダニエル・ピンク氏が著書でもやっているように、今までの説明の「まとめ」をやって今回のコラムを閉めたいと思います。 モチベーションについての認識は、科学者とビジネスの現場では大きなギャップがある 人の行動を決めるOSは、生物学的な動機付けであるモチベーション1.0から始まった 次に、外部から与えられる外的動機づけ(アメとムチ)を中心に構築されたモチベーション2.0がビジネスの中心であった時代が続いた しかし、モチベーション2.0の外的動機づけは、現代のクリエイティブワークにはマッチしないし、返って悪影響も多い したがってモチベーション2.0から3.0へのアップグレードが急務である タイプIとタイプXという2つの行動タイプのうち、モチベーション3.0で動かせるにはタイプXからタイプIに移行すると良い モチベーション3.0の内的動機づけに必要な要素は①自律性(オートノミー)、②熟達(マスタリー)、③目的の3つ。 ①自律性(オートノミー)とは、自分の判断で自分の人生を決めていきたいという欲求 ②熟達(マスタリー)とは、自分にとって意味のあることを上達させ、極めたい衝動のこと ③目的とは、自分の利益を超えた大きなもののために活動したいということ 最後にダニエル・ピンク氏のTEDでのプレゼンテーションのリンクを載せておきます。 TEDの登壇者は皆個性的で、魅力あるプレゼンテーションをしますが、ピンク氏のプレゼンテーションはその中でもとりわけウィットに富み、心に残る言葉を残していると思いました。 ぜひご覧になってみてください。 TED動画「やる気に関する驚きの科学」を開く(外部リンク) 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • アクションラーニングとは

    目次 アクションラーニングとは? アクションラーニングセッションとは アクションラーニングの肝は「質問」 アクションラーニングの進め方 アクションラーニングの効果 アクションラーニングの事例 最後に アクションラーニングとは? アクションラーニング(Action learning:AL)とは、個人、そしてグループ・組織の学習する力を養成するために考え出された、問題解決プロセスを重んじたチーム学習法の1つです。 定義的には「現場で実際に発生しているリアルな問題に、チームを組んでその問題解決にあたり、その中で質問、内省、行動・実践を繰り返す(リフレクション)」という学び方です。 アメリカの哲学者デューイが「あらゆる純粋な教育は、経験を通じて得られる」という教育理念を実践すべく、米GEが企業内教育として取り入れたのが話題になりました。その後、アクションラーニングの父と呼ばれる物理学者レバンス博士(イギリス)が、導入している米企業の様々なやり方を体系的に整理して、アクションラーニングとしてまとめました。 アクションラーニングの特徴としては以下の3つがあります。 アクションラーニングの特徴 アクションラーニングセッションでは質問中心で進められる 振り返り(リフレクション)による気づき、内省、学習の誘発に重きをおく アクションラーニングコーチを介入させ、セッションを効果的に進行させる アクションラーニングは、多国籍企業のTOP45のうち、すでに60~65%の企業で実施されています。特に、グローバルでダイバシティな職場環境で、考え方の多様性を高める教育法としても注目されています。経営幹部候補の教育手法としても注目されてます。 アクションラーニングセッションとは チームのメンバー同士が質問を投げかけ、真の問題を探り、問題解決に繋がる行動計画を立てていく流れを「アクションラーニングセッション」と呼びます。課題についてのチームメンバーが考えていることを明らかにし、メンバー間で共有される本質的な問題を明確にしていく場となります。 セッションには参加者と、コーチが付くのが通常です。 アクションラーニングセッションの進め方については後述します。 アクションラーニングの肝は「質問」 レバンスは「次に何をすべきか誰もわからないような混沌とした状況下において、新鮮な質問をする能力こそアクションラーニングの真髄」であると述べています。 その言葉の通り、アクションラーニングを進める上で、「質問を行うこと」と「振り返ることを繰り返すこと」が肝になります。メンバーは、質問と振り返りを繰り返しながら、問題の全体像を把握・理解し、整理しながらその本質に迫っていきます。整理することによって、問題を根本的に洗い出し、それを解決するための行動を探ります。 この過程の中で学習効果として大切なのが「質問」をすることです。「質問」をすることにより、その人の知恵や記憶を活性化し、同様の現象を受信者にも引き起こします。そして、その過程の中で、個人の内省、気づきが活発となり、思いもよらぬ問題の本質や解決への道筋が見え始めることが多いと言われます。 アクションラーニングの進め方 アクションラーニングではチーム活動における学習、すなわち「チーム学習」に焦点をあて、チーム学習プロセスを企業が支援することで、より早く効果的に組織学習を生み出すことができます。そして、アクションラーニングは、参加するプロセスそのものが効果的な教育プログラムです。したがって、その効果を高めるためにいくつかのポイントを押さえ、プロセス内における自然発生的な学習が確実に行われるように、セッションの環境を整えてあげる必要があります。 1.セッションの準備 例えば、セッションで取り上げる問題は、「組織が直面している現実の問題・課題」である必要があります。 当然ですが、「必ずチームで取り組む」というのも外せません。人数は、多すぎると全員に質問の機会が回らないので、5~8人くらいがちょうどいいようです。 メンバーはなるべく近い職種、近い環境で固めたほうがいいかもしれません。なぜなら、各メンバーの仕事上での経験から解法を得られるからです。 また、問いかけとリフレクションのプロセスを確実に行わせるために、セッションのコントロールを担当するコーチをつける必要があります。コーチは、学習プロセスに注意を払い、ファシリテーター・プロセスコンサルタント的な役割ができる人である必要があります。 2.セッションを始める 環境が整ったら、実際にセッションを開始します。セッションは、質問の投げかけとリフレクション(内省)を中心に行います。セッションがグループディスカッションのようになってしまうと、発言が人に対しての意見になってしまうことが多いので、「質問をする」というルールを徹底してください。 約1時間から1時間半をかけて、「質問」を繰り返しながら、課題についてのチームメンバーが考えていることを明らかにし、メンバー間で共有される本質的な問題を明確にしていきます。 解決したいと考えている問題に関して疑問に思うことをチームメンバーが問いかけることで、問題の共有、理解を促します。その中で、問題をチーム全員で再構築していくことを「問題の再定義(problem reframing)」といいます。 セッションの時間が1時間としたら、40分近く以上の時間をこの再定義プロセスのために費やすことになります。なぜなら、問題の再定義さえメンバーで共有できていれば、その問題の解決のための行動案を生み出すことは非常に容易になるからです。質問のやりとりによるプロセスを経て、課題に対する本当に全員が納得できる解決策や戦略に対するチームの合意が次第に形成されていくため、セッション成功の鍵は、質問の質と数にかかっていると言えます。 アクションラーニングコーチは、セッションを促進する役割を担います。発言があまりないメンバーへ質問を促したり、話題が中心からずれたときに元に戻したり、チームで発生している感情や感覚を観察したりするのが主な役割です。アクションラーニングコーチはグループリーダーでも司会でもない独特の役割のため、ある程度専門的なスキルを学習しておく必要があります。 3.セッションの成果として行動計画を立てる セッションの最後には、チームとしての課題解決のための行動計画(アクションプラン)をたて、セッション終了後にコーチが、課題解決のための行動を促します。これはアクションラーニングの基本理念である「行動を起こすことと行動から学ぶこと」を実践するためです。 行動計画にはSMART(スマート)の形式で立てるといいでしょう。 SMART(スマート)とは、以下の5つのポイントに基づいて立てるやり方です。 SMART(スマート)で計画を立てる S(Specific:具体的であること) M(Measurable:結果がみえやすいこと) A(Achievable:達成可能であること) R(Realistic:現実的であること) T(Time-bound:時間の制約があること) コーチは、実際の行動を伴わせるために「学習コミットメント」を取っておきます。 4.定期的に繰り返す こうしたセッションは、通常、2ヶ月から3ヶ月間に1~2時間程度で3~5回設定することが理想的です。 1回だけでなく繰り返し行って習慣化することで、個人の考え方に根付いて初めて仕事ぶりに反映されるのです。 アクションラーニングの効果 アクションラーニングの効果は、「個人」と「組織」の両方に現れます。 個人の能力としては、質問力がアップし、今までと違う視点が持てるようになります。そして、問題の本質を追求できるようになります。 この「個人」の成長が、「組織」の面でも大きな効果を与えます。様々な人に質問したり、意見を聞くことにより、他の人の考え方がわかるようになってくるので、組織内のコミュニケーションがよくなります。 捉え方、考え方や問題意識も共有されるため、最終的には、チームとして物事を考えることが出来るようになります。 アクションラーニングには、単なるディスカッションにはない効果を期待できるのです。 アクションラーニングの事例 NPO法人である日本アクションラーニング協会では、2005年から毎年「エクセレントプログラムアワード」という優秀なアクションラーニングのプログラムを行っている団体を表彰しています。 私が特に注目したのは、キリンビールの行った「質問会議プログラム」です。2010年に受賞したプログラムですが、その時点で40部署、1000名以上が実施しています。アクションラーニングを組織の大多数が体験することにより、その組織の学習カルチャーが格段に変わってきます。特にこの質問会議では、最初に100名~250名が体験したものを、自分の職場(工場やグループ会社なども含む)に持ち帰り、組織の末端まで実施することに成功してます。願わくば、この規模で繰り返し行って、根付くようにしていただければと思います。 その他の事例は日本アクションラーニング協会の導入事例ページをご覧ください。 NPO法人日本アクションラーニング協会~導入事例~を開く(外部リンク) 最後に アクションラーニングセッションが、チームの結束力を効果的に高めるのに効果的であると、アクションラーニングを取り入れた多くの企業が評価しています。 現実問題として、ビジネス上の問題は、その担当者とその上司などの間で話し合われ、対処するケースが多いはずです。そうしてしまうと、その周りの人たちには、その問題の全容や解決の効果は伝わらず、その人だけのスキルアップにとどまり、周りとのコンセンサスも培われません。こうした「ナレッジ格差」はやがて、じわじわとチームの結束力を弱める原因になります。 「アクションラーニングセッション」の「質問」の中で、課題に対するメンバー各自の視点や前提が明らかにされることにより、意識が共有されていきます。 アクションラーニングは、グループのコミュニケーションレベルを向上させ、組織の自律を促し、組織を変容させうるリーダーを育成するのです。 積極的に身近な問題を取りあげて、アクションラーニングセッションに放り込むことにより、ナレッジを共有し、チームの結束力を高めましょう。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ワーク・ライフ・インテグレーションとは

    前回、「ワーク・ライフ・バランス」の意味についてご説明しました。今回は関連するキーワードで、「ワーク・ライフ・バランス」と少し違った切り口で提唱されている、「ワーク・ライフ・インテグレーション」についてご説明させていただきます。 「ワーク・ライフ・バランス」では、「仕事(ワーク)」と「人生(ライフ)」はトレードオフの関係でとらえられてました。つまり、相反するものだからこそ、双方の「バランスをとる」必要があるという考え方です。つまり、単なる労働時間削減ではなく、人それぞれの人生のイベントの際に仕事と生活のバランスを取る、例えば、出産時や子供がいる生活では、子供との時間を大事にし、子供の手がかからなくなれば、仕事における責任の度合いを増やして仕事を重んじるといった感じです。 そのために、休暇や時短などの配慮をするといった取り組みが必要でした。 今回の「ワーク・ライフ・インテグレーション」は、個人の意識において大きな変化を必要とし、仕事と人生(私生活)とを統合させて考えていくという思想です。 目次 ワーク・ライフ・インテグレーション(Work Life Integration)とは 「ワーク・ライフ・インテグレーション」と「ワーク・ライフ・バランス」の違い ワーク・ライフ・インテグレーションのメリット ワーク・ライフ・インテグレーションを推進するには ワーク・ライフ・インテグレーションの企業の事例 最後に ワーク・ライフ・インテグレーション(Work Life Integration)とは 「ワーク・ライフ・インテグレーション」は、Work(仕事)、Life(生活)、Integration(統合)、つまり、「仕事と生活の統合」という言葉です。 「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」を一歩進めた発想で考えようというもので、ワークライフバランスの「仕事と生活のバランスをとる」という考えから「仕事も生活も人生の一部」であると発展させた考え方です。 2008年に経済同友会が発表した提言書『21世紀の新しい働き方―「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して』では、ワーク・ライフ・バランスの運用の難しさを指摘しています。 「バランス論の限界は、職場復帰後に現われる。現在の就社的な制度や慣行では、職場に復帰しても居場所が見つからず、心ならずも退社し、結局はパートとして仕事を見つけてゆかざるを得なくなるのが大勢であり、量的なバランスを変えるだけでは完全な解にはならない」とワーク・ライフ・バランスの限界が説明されています。 なぜバランスをとるだけでは不十分だったのでしょうか? 具体的な例の前に、まず「ワーク・ライフ・インテグレーション」と「ワーク・ライフ・バランス」との発想の違いからご説明します。 「ワーク・ライフ・インテグレーション」と「ワーク・ライフ・バランス」の違い 「ワーク・ライフ・バランス」という用語の一般的なイメージは、仕事にかかりっきりの生活改め、家族との生活の時間を作る、つまり残業をなくし、その分プライベートな時間を取り戻そうというイメージです。 いわば、仕事と生活を「対立的」にとらえて、「その量的バランスの調整・回復を目指す」というものでした。仕事と生活を両輪にたとえれば、双方がうまくバランスを取っていればいいのですが、どちらか片方に偏りすぎた場合は、もう片方が犠牲になってしまう不安定な構図です。先の経済同友会の提言書にもある通り、現実的にバランスをとることは非常に難しいという実情がありました。 そこで、そもそも仕事と生活、社会生活と私生活、職場と家庭は本当に「二者択一」なのか、区別したり、優先順位をつけたりすべきものなのかという疑問を投げかけた人がいます。 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の高橋俊介教授は、ワークとライフの“統合”(インテグレーション)をいちはやく唱えたキャリア論の権威的人物です。教授は「家庭と仕事を分業してしまうから、相手への感受性が鈍化して、相互不信が募る。家庭と仕事のどちらかに優先順位をつけようとするから、ストレスが生まれる。二つを同時にやるから、得られるものもある」と説いています。 「ワーク・ライフ・インテグレーション」の主たる意味は、自らの人生観を軸に、ワーク(仕事)とライフ(生活)を柔軟、かつ高い次元で統合し、双方の充実を求めることにあります。 ちょっとわかりにくいのですが、この2つを別々に考えるのではなく、仕事と家庭(そのほか個人の生き方そのもの)を一つのものとして捉え、敢えてそれぞれの要素の線引きしないということです。そうすれば、抵抗なく仕事においても生産性や成長拡大を実現できますし、それによって生活の質を高め、充実感と幸福感を得るなどの相乗効果を得られるではないかということです。 仕事にやりがいをもって取り組むことで個人の生活の質を高め、幸福感を得ることができます。企業や社会全体もそれによって生産性向上や成長拡大できるので、個人と企業(社会)がWin-Winの関係を目指せるという考え方です。 大切なポイントとして、単に「仕事」と「私生活」の2点だけでなく、人生を充足させる要素である「生きがい」や「コミュニティ(社会)」との関係などにも注目し、仕事とそれ以外の人間の活動すべてをインテグレート(統合)させることで、それぞれを充実させて、個人の人生を幸福に過ごせるようとしている点があります。 ワーク・ライフ・インテグレーションのメリット ワーク・ライフ・インテグレーションが定着すれば、個人と企業だけでなく社会全体にも様々な効果が期待できるとされています。 いくつかワーク・ライフ・インテグレーションのメリットの例を挙げてみます。 1. 個人がより幸福感を感じる 「幸福感」と書くと、何やら怪しい感じがしますが、シンプルに表現するなら「楽しく暮らす」ということでしょう。 ワーク・ライフ・インテグレーションの考え方は、企業の経営者や個人事業主にはなじみやすい考え方だと思いますが、仕事にやりがいを感じている時は私生活も楽しいじゃないかということです。 自分の中で仕事と生活の壁をなくせば、優先順位をつけるストレスもなくなるので、結果的にどちらも充実感を持ちながら毎日を過ごすことができるでしょう。 2. 柔軟な働き方の実現 「ワーク・ライフ・インテグレーション」を実現するためには、企業側が裁量労働・時短勤務・在宅ワーク・フレックスなど、柔軟な働き方を採用する必要があります。その結果、自分の生活にあった働き方を選択していくことが可能になります。 育児や介護の時間を会社のスケジュールに合わせようとするから、時間に追われ、無駄な通勤などでストレスをため込んで疲弊します。1日の使い方を自分で決め、在宅でもちゃんと結果が出せれば理想的です。 3. 個人能力の向上 かつて第1次産業、第2次産業がメインだった時代はさておき、現代の日本の産業構造では、長時間労働によるメリットは少なくなっています。 第三次産業の従事者が7割近い今の日本に必要な「ソフト力」を引き出すためには、従業員にアイディアやコミュニケーションの能力を備え伸ばす必要があるのです。 ワーク・ライフ・インテグレーションにより、あえて仕事と生活を線引きしないことで、仕事を意識しながら、プライベートの時間で得た新しい知識や体験、出会いを仕事に活かしていくことができるといわれています。仕事が忙しいと、そういったチャンスに気が付かなくなります。 もちろん、私生活で充実感を感じリフレッシュした社員から、新しいアイデアが生まれることもあるでしょう。 柔軟な働き方はアイディアだけでなく、他の能力も上がるといわれています。 時短やフレックスの運用時には、業務の調整能力やコミュニケーション力も必要とされるので、必然的にこれらの能力がスキルアップするといわれてます。 例えば、時短などでいざとなったら人に仕事を頼まなければいけないので、自分だけで抱え込まずに、他の人でもいつでも作業できるように情報を共有化・見える化する仕組みや習慣化ができます。 仕事だけでなく、育児や介護をサポートしてもらうために、多様な人たちとの良好な人間関係構築の能力が鍛えられたりします。 結果、企業としての生産性向上も期待できるのです。 4. ダイバーシティの向上 「ワーク・ライフ・インテグレーション」を実現させるためには、必然的に様々な働き方に対応できる人事制度の見直しなどが必要になります。従業員のより働きやすい環境を企業が積極的に整えることで、有能な人材の確保や多様性のある働き方の推進にもつながります。有能な人材なのに、就業体系が合わず、活かせる仕事ができていなかった人を自社に取り込むチャンスとも言えます。 5. 社会的にも良い効果 「ワーク・ライフ・インテグレーション」が普及することにより、個人の幸福感や企業収益の向上などが実現し、結果として社会に活力が生じます。新しい生き方が生まれれば、それに合わせた消費パターンが生まれます。また、少子化にも効果がありそうです。有給消化率が上がれば、趣味やレジャー、観光産業などに好循環が生まれます。日本では大学を出て働き始めると、企業の研修以外に学びの場を持つ機会がほとんどありませんが、自己啓発のために、資格取得の学校、大学院やセミナーなど共通の目的を持った新たなコミュニティに属して、人間としての成長にもつながります。 ワーク・ライフ・インテグレーションが休暇の使い方の幅が広げ、社会・コミュニティとのつながりのためのライフスタイル変更が休暇取得意欲につながります。 ワーク・ライフ・インテグレーションを推進するには 「ワーク・ライフ・インテグレーション」の一般的なイメージは、仕事も生活も一体に考え、常に仕事を意識することが人生みたいな解釈をされている傾向があり、若干敬遠されてしまうことがあります。仕事と生活の統合といわれると、さらに働かされるようなイメージですね(笑)。 誤解を生みやすい一面があるが故、制度の本質を理解してもらうことが大切です。 企業は、ワーク・ライフ・インテグレーションとは、仕事と生活の双方の充実を目的とし、すべてを仕事につなげる考えではないという意思表示をしっかりする必要があります。例えば、評価方法が「労働時間」を重視していると、従業員は間違った解釈をしてしまうので、人事制度を見直して「成果」による評価に切り替えなくてはいけません。 また、ワーク・ライフ・インテグレーションには、経営者従業員全ての人の思考の転換が必要です。しかし、立場的に従業員から行うのは難しいと思われます。したがって、まずリーダーが率先してワーク・ライフ・インテグレーションを成し遂げるようにしましょう。上の立場の人間が正しく示すことで、後に続く社員の理解につながります。 ワーク・ライフ・インテグレーションの企業の事例 ダイバシティや女性活用で先進的な日本アイ・ビー・エム株式会社は、ワーク・ライフ・インテグレーションにも積極的です。トップの意識も高く、介護や育児など、働く場所や時間に制約がある社員には、かなり柔軟な働き方を認めています。採用労働やモバイルオフィスなども早くから採用しています。 オリンパス株式会社では、ワーク・ライフ・インテグレーション施策として「在宅勤務制度」「労働時間短縮制度」「役割フレックス制度」「リエントリー制度」をさいようしています。「リエントリー制度」とは、配偶者の転勤や育児・介護を理由としてやむを得ず退職した元従業員が、再入社を希望する場合に正社員として再登録できる制度です。オリンパスでは全社的に、ワーク・ライフ・インテグレーション推進体制と啓発活動の促進を進めています。2016年3月には、「くるみん認定企業(後述)」として厚生労働大臣から認定もされました。 ワーク・ライフ・インテグレーションを実現するための施策は、基本的にワーク・ライフ・バランスと同じものが使われます。それに加えて、ワーク・ライフ・インテグレーションを推進するキーワードとして、「場所」「時間の柔軟性」があります。 「場所」は会社以外の場所、例えば自宅での勤務を可能にするシステムを提供したり、安全に社内ネットワークへのアクセスを可能にするVPNを引いてあげたりすることです。 「時間の柔軟性」は、社員の判断により時間が使える制度を導入したり、裁量労働制を取り入れます。 以下は様々な企業で実施されているワーク・ライフ・インテグレーションのための制度例です。 1. 子育て支援 育児休業、育児時間、子供の看護休暇、育児短時間勤務制度、保育料補助、ホームヘルプ補助 2. 介護支援 介護休業、介護休暇、介護短時間勤務制度、介護サービス補助金、介護休業給付金、高額療養費、高額介護合算療養費 3. 地域活動支援 ボランティア休暇 4. 裁量労働 フレックスタイム制度の導入、勤務時間中での私用への柔軟な対応 こうした制度の整備だけでなく、個人がワーク・ライフ・インテグレーションを実践していこうとする心構えが大切です。 例えば、休暇もただ月曜に仕事に戻るための充電時間と考えてしまうと、インテグレーションの意味が薄れてしまいます。土日にあえて仕事に役に立つ講演会やセミナーに出てみたり、ビジネス書を読んだり、資格取得のために使えるとより休暇の意義があります。また企業側は、そのために費用をサポートしてあげるのもよいでしょう。 ワーク・ライフ・インテグレーションの意義をしっかり理解させて、これらの制度を導入する必要があります。 「子育てサポート企業」の認定 -くるみんマーク認定の取得- 次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき、行動計画を策定した企業のうち、行動計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。多くの企業がくるみんマーク取得に向けて、社内の制度や行動計画を整備しています。今後は、くるみんマーク取得企業が、人材確保に有利になると言われています。 ※厚生労働省「くるみんマーク・プラチナくるみんマークについて」を開く(外部リンク) ワーク・ライフ・インテグレーションを体現した社宅 同じ会社の社員が居住する一般的な「社宅」とは異なり、業種・職種の異なる多種多様な企業の社員が入居する「シェアする社宅」があります。この社宅は「月島荘」といい、「ワーク・ライフ・インテグレーションを体現した社宅」としてちょっと話題になりました。 「月島荘」は、その名の通り、勝どき・月島にある地上8階建の3棟構成、敷地面積2011坪のマンションです。荘とついてますが、モダンで立派なマンションです。 月島荘は、月島荘の事業主である企業「乾汽船」の倉庫跡地の土地の再開発プロジェクトから生まれました。 「忙しい社会人が、呼吸するように「交流」できる場所を」と、シェアすることで生まれる社宅の新たな価値をコンセプトに建てられています。 具体的には「普段仕事で会えないような人たちと会うきっかけが、日常の中に自然とちりばめられている」点や、住民同士だけではなく、月島荘を使ったイベントなどで「外部の人との交流」を生み出すことなどです。月島荘は、居住者に「交流」という価値を提供します。 様々なイベントが企画され、ライブラリースペースなども用意されていて、さまざまなセグメントの人と交流できます。 入居者は主に2パターンの背景があり、会社が設定した枠に自ら志願して入居される人と、企業研修のような形で自分の意思とは関係なしに入居される人がいます。この「シェア社宅」には、ワーク・ライフ・インテグレーションの実現環境としての目的だけでなく、従業員の柔軟な発想力の育成や、ダイバーシティ(多様性)が必要とされる時代の人材育成、人材投資に近い意味合いが含まれているようです。 ※企業寮をShareするという試み。|【公式サイト】月島荘を開く(外部リンク) 最後に 「仕事か生活か」ではなく「仕事も生活も」優先順位をつけず、前向きに、どちらも充実させることを目指すからこそ得られる相乗効果が、ワーク・ライフ・インテグレーションの真髄といえそうです。 私の周りでも、フリーランスで働いている人はワーク・ライフ・インテグレーションを実現できていると思います。企業で働いている人はなかなか見当たりませんが、いくつかのネット関連企業には似たようなスタイルで働いている人がいました。彼らには、仕事はどこにいても、どこでもやれる、自分のやりたいときにやりたいだけやる、休日で仕事に役立ちそうなセミナーがあれば、積極的に参加する、日常生活の中で、仕事のヒントがあれば、すぐメモって仕事に活かす、そういう意識を感じました。このスタイルと企業とがマッチすると、本当の意味でワークとライフのインテグレートがなしえるんじゃないかと思います。 ワーク・ライフ・インテグレーションとは個人の人生観を軸に仕事とプライベートを統合させ、双方の充実感を高めることとも言えると思います。 人生の大半を費やす仕事が、ストレスと同義になってしまわないためにも、正しい認知やマインド・チェンジをしっかり行ってほしいと思います。

  • ピア効果とは、ピアボーナスとは

    今回と次回は、仕事場における周り同僚の影響と評価について関係するキーワードについてご説明したと思います。 具体的には今回は「ピア効果」と「ピアボーナス」について、次回はその関連ワードの「ソーシャル・レコグニション」についてご説明する予定です。 目次 ピア効果とは 負のピア効果にご注意 より高いピア効果を得るために 人事施策に「ピア効果」を利用する 高いピア効果を発揮する「ピアボーナス」 ピアボーナスを取り入れたサービス 最後に ピア効果とは 「ピア効果」の「ピア」とは、英語の「peer」からきており、「同僚、同輩、仲間」を意味します。つまり「ピア効果」とは、仲間や同僚などが作用し、お互いの行動、生産性に影響を与え合うことをいいます。 「ピア効果」には「正のピア効果」と「負のピア効果」があります。 「正のピア効果」は、能力や意識のレベルの高いピア(仲間)が、同じ環境に集まってお互いに切磋琢磨し合うことで、その集団がレベルアップするだけでなく、個々も成長するという相乗作用をもたらします。 逆に「負のピア効果」は、集団の中でお互いの悪い部分が影響し合い、集団としても個人としてもレベルダウンしてしまう状態です。 ピア効果のわかりやすい例が、ピア同士の「競争」とそれを支える「切磋琢磨」です。 アメリカの研究では、自転車競技の走行タイムを使って実験が行われました。単独で走行した場合のタイムと、数人で競争して走行した場合のタイムとで比較すると、競争した場合のほうが速かったのです。 当然これは複数人で走ったことにより、各自に競争意識が芽生え、潜在的に「相手に負けたくない」という気持ちが強く働き、単独走行よりも強い力を引き出したという可能性を表しています。 仲間との競争が成長させることは、我々が人生の中の様々な競争を通じて、経験的に理解できると思います。 負のピア効果にご注意 子供の頃、親に「なるべく学力の人と友達になりなさい」と言われたことがある人もいるのではないでしょうか。親としては「学力の高い友人と付き合えば、学力の高い友人から勉強の仕方を教わったり、進学への意欲なども影響を受けてくれるだろう」と潜在的にピア効果に期待していたのかと思います。 確かにこの「レベルの高い友人からの影響」というのは、正のピア効果の1つです。しかしながら、正のピア効果を期待しながら、負に働いてしまう例もあります。 埼玉県が実施している「埼玉県学力・学習状況調査」でピア効果の測定実験を行いました。 平均的な成績が良いクラスに1年間所属した後、その生徒の成績が前年度の始めと比較しました。結果は、学年、性別、科目に関わらず、負のピア効果が一定量存在すると確認されたのです。 研究によると、負のピア効果の理由として、自分より成績の良い同級生がいることによって、自分の相対的な学力が低いという自己認識を持ってしまい、学習意欲が低下する可能性が指摘されています。 (参考)RIETI 負のピア効果 ―クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?を開く(外部リンク) より高いピア効果を得るために ただ単に複数人で競わせるだけでは「正のピア効果」は得られません。構成を間違えると「負のピア効果」ばかりが生じてしまうこともあるでしょう。 より高い「正のピア効果」を得るためには、「誰」と、「どう競い合う」かをしっかり設定する必要があります。 ポイントは構成員の「レベル調整」です。 競争する相手とレベルの格差が大きすぎると、いい影響が出にくいと言われています。低いレベルの人はあきらめて努力を放棄してしまい、高い方も慢心して向上意欲を失ってしまうからです。双方に良くない結果ですね。 具体例として、アメリカの空軍養成学校で行われた実験があります。 全体の成績を底上げするために、成績優秀な生徒のクラスに成績の悪い生徒を混ぜて、成績の悪い生徒がレベルアップするかを実験しました。 結果は、成績が悪い生徒の成績がより悪化してまうというものでした。この実験でもわかる通り、競争相手は、近いレベルの者同士を組み合わせることが良いようです。お互いに「油断したら負ける」というぐらいの力関係で切磋琢磨させることにより、正のピア効果が引き出されます。 人事施策に「ピア効果」を利用する 「ピア効果」は、教育心理学や行動心理学の研究の中で注目されていましたが、教育分野に留まらず、労働経済学でも「ピア効果」が注目されています。経営者の要望する生産性の高い組織やチームを作るために、「ピア効果」を上手に取り入れた人材育成施策が有効だからです。組織、チーム内で適切な競争を促すことで、従業員の生産性と能力を向上させることができるのです。 また、個人作業よりもチーム作業の方が、生産性が上がることが分かっています。そのため、従業員個人に成果報酬を出すのではなく、チームに報酬を出す方が生産性を高められるとし、そうした制度を採用している企業も増えてきました。 このチームにおけるピア効果は、専門性の高い知識や能力を有するブルーカラー労働者の環境で特に効果を発揮するという結果が出ています。チームメンバー同士で教え合い、弱点を補完し合う関係が構築され、成果を出しやすくなるようです。また、チーム作業に重視すると、周りのメンバーの足を引っ張らないようにという意識が芽生え、自己研鑽するので、個々人の能力・生産性向上にもつながっていいきます。 ただし、先にも述べました通り、組み合わせ次第では「負のピア効果」が現れてしまい、生産性が落ちるだけでなく、職場を無駄に疲弊させ、雰囲気を悪くして今うケースもあります。ピア効果を引き出すためには、個性や性格などを加味して、細かな組み合わせのマネジメントが必要とされます。 高いピア効果を発揮する「ピアボーナス」 前述の「チーム報酬制度」は、相互に助け合い、チームとしての成長をモチベーションにすることで生産性を上げ、かつ負のピア効果を生じさせないようにと考えられた制度です。 「チーム報酬制度」とは違った角度で「ピア効果」を出す試みとして、「ピアボーナス」という制度があります。 ピア・ボーナスとは、従業員同士が互いに仕事の成果や行動を評価し、報酬を贈り合うことができる評価制度です。HRテクノロジーの進歩で、従業員間で報酬を贈り合えるツールが登場したことで、ピアボーナス制度は大きな話題となっています。 本来、従業員に金銭的な報酬を与えるのは組織の役割ですが、ピアボーナス制度は、その権限を従業員に一部委譲します。そして、数値に表れにくい、「縁の下の力持ち」的な働きをしている同僚などに、貢献度の評価や感謝の印として同僚から報酬を贈ることができます。 ピアボーナス制度を導入することにより、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高まります。旧来の評価制度では、数字的に大きな成果を上げる人が目立ち評価され、日々細やかな仕事にコツコツと取り組んでいるタイプの人には、なかなかスポットが当たりませんでした。 ピアボーナス制度を導入すれば、周囲のメンバーがそういった人たちを評価することができるので、モチベーションも上がり、結果として組織への愛着やコミットメントを高めることができます。何よりも人から努力を認められると、嬉しいものです。しかも、賞賛という非金銭的な報酬だけでなく、同時に金銭的な報酬も得られるのですから、持続的なモチベーション向上に働く効果は相当高いと思われます。 また、ピアボーナス制度を導入した事例でよく目にするのが、「組織の雰囲気が良くなった」「組織内のコミュニケーションが活性化した」と言った組織風土改善に対する効果です。普段なかなか言葉で伝えられない感謝をピアボーナスで表すことによって、ピア(同僚)に対する関係性の意識が変わるのです。 ピアボーナスを取り入れたサービス 「ピアボーナス」を取り入れた人事評価システムとして、Fringe81株式会社の「Unipos(ユニポス)」が話題になりました。PCだけでなく、スマホからピアボーナスを贈ることができるので、感謝の気持ちをこまめに記録して、従業員間での相互評価の仕組みを簡単に作れます。多くの企業で導入が進んでいるのです。 (参考)Unipos(ユニポス)- Fringe81株式会社を開く(外部リンク) 株式会社メルカリでは、2017年9月にUniposを導入しました。Uniposのことを独自に「メルチップ」と名付け、社内にピア・ボーナス制度の浸透を図ったそうです。更なる促進活動として、メルチップを一番多く送った人と一番多く送られた人を表彰する制度を設けたりもしています。メルチップを通して賞賛し合う文化やコミュニケーションの活性化、バリューに沿った行動が可視化されたことで人事評価への活用など社員同士の理解にも役立っているようです。 (参考)株式会社メルカリ 「mercan」(外部リンク)を開く 最後に 「ピア効果」いかがでしたでしょうか? 「ピア効果」は競争面での効果が注目される傾向にありますが、ピアボーナスなどの斬新な発想がHRツールによって可能になり、モチベーションアップやコミュニケーション力向上など人材育成として新たな活用方法を生み出しています。 次回はピアボーナスのつながりで、注目度が増している「ソーシャル・レコグニション」についてご紹介したいと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • SCORMとは

    企業や学校などでLMSを導入している方は「SCORM」という言葉をよく耳にするかと思います。eラーニングを導入する上で、SCORMはある意味避けて通れないキーワードです。 今回はその「SCORM」について解説をしていきます。 目次 eラーニングを実施する上で避けて通れないキーワード「SCORM」 「SCORM」にはバージョンがある SCORMとLMSの関係 SCORM の仕組み ~APIアダプター~ コンテンツアグリゲーション 次世代SCORM 最後に eラーニングを実施する上で避けて通れないキーワード「SCORM」 SCORMは「スコーム」と読むのですが、正式名は「Sharable Content Object Reference Model」となり、意味的には「共有可能なコンテンツオブジェクト参照モデル」という意味です。 ザックリ一言で言うなら、「せっかく作った教材を、いろんな環境で使いまわしできるようにするための教材構造の世界標準規格」という感じでしょうか。。。 「いろんな環境」といっても主にLMSを指し、「使いまわし」するためには「一定のルールにのっとった形式」で作られる必要があります。 「SCORM」にはバージョンがある そのルールを決めているのは米国のADL(Advanced Distributed Learning)という標準化推進団体です。 日本では、日本イーラーニングコンソシアム(eLC)がSCORMの講習や技術者資格(SCORM技術者資格)の認定を行うなど、普及活動を担ってます。 SCORMにはバージョンがあります。ADLによってバージョンアップされ、種類がいくつかありますが、多少運用の混乱もあり、普及しているバージョンは「SCORM 1.2」「SCORM 2004」の2つです。自分が利用しているLMSが、どのバージョンのSCORMに対応しているかについては、ちゃんと確認する必要があります。 SCORMとLMSの関係 SCORMで作られたコンテンツを表示するには、「LMS(学習管理システム:Learning Management System)」が使われます。LMSは学習教材の配信や成績などを管理するシステムのことです。 LMSについてまだ説明しておりませんので、わかりにくいかもしれませんが、要は教材を搭載して、学習者が閲覧できるようにするシステムです。教材を管理するのと同時に、学習者の進捗なども記録します。 LMSには製品として販売されているものもありますし、大学などで開発され、無償で利用できるものもあります。eラーニングを導入している多くの企業で、何らかのLMSを導入して社員教育を行っています。 以前は、LMSは様々企業や団体で各々勝手に開発されているため、そこに教材コンテンツを搭載するにはそのLMSの「仕様」に合わせてコンテンツを作る必要がありました。しかし、導入したLMSの会社がつぶれたり、LMSを乗り換えたりした場合、コンテンツを新しいLMSに合わせて作り直す必要がありました。そのコストは膨大です。 また、教材を作るのが仕事のコンテンツベンダーとしても、お客さんの使っているシステム毎にコンテンツを移植して用意するのは至難の業です。 どんなに良い教材でも、うちのシステムに載せられない。。。そんな時にSCORMです。 SCORMの規格に沿ってコンテンツを作ることにより、SCORM対応LMSであれば、LMSを変えてもコンテンツが使えるという発想のもとにSCORMは広く普及しました。実際は各LMS開発側のSCORMの解釈の違いや、勝手に機能をつけ足したりしたので、まったくの調整なしに載せられるということはないのですが、それでも教材作成側は、SCORMを合言葉に信じてコンテンツを作っています。 SCORM の仕組み ~APIアダプター~ SCORMを語るうえで、教材コンテンツを配信するLMSとの連携が主目的であることは先に述べました。このLMSと教材コンテンツが「学習履歴」などの情報をやり取りする共通のルールがSCORMであることもわかっていただけたかと思います。 ではどうやってやり取りするのか?その要の仕組みが「SCORM APIアダプタ」です。 SCORM規格では、教材コンテンツにより生成された学習履歴は、SCORM APIアダプタを通じてLMSに送られ、記録されます。 順番を整理するなら、下記のようになります。 SCORM APIアダプタ 教材コンテンツを学習すると、修了や得点などの履歴データが作られる 教材コンテンツはこの履歴データをいったんAPIアダプタに送信する APIアダプタはそれをLMSに送信する つまり、教材コンテンツはLMSの流儀を知らなくても、SCORM APIアダプタと話ができればOKなわけです。 逆に言えば、LMS側が、自分に合ったSCORM APIアダプタを用意しておけば、教材コンテンツはSCORMに沿ってさえすればいいのです。 以上の流儀は履歴のやり取りのルールですが、もう一つ守るルールがあります。 コンテンツアグリゲーション コンテンツアグリゲーションとは、教材コンテンツの構成や内容をSCORMのルールに従って記載することにより、検索性や再利用性を高める役割を持ちます。 具体的には「Manifest(マニフェスト)」と呼ばれるXMLファイルを作成し、そこに教材のタイトルや概要、製作者、関連キーワード、バージョンなど、使いまわしする際に役に立ちそうな情報を記載します。 もう一つ、大切なのが、教材コンテンツの構成も記載する必要があるということです。XMLで教材の構成を階層構造で表現し、これが目次となって、学習者が学習する際の手掛かりとなります。 次世代SCORM SCORMは、コンテンツを作る際には意識すべきデフォルトのフォーマットではありますが、普及のスピード自体はそれほど早くないというのが個人的な印象です。とはいえ、技術は進歩するものなので、ADLでは、SCORM2004の後継となる次世代SCORMについて2013年にVer1.0リリースしました。 次世代SCORMは、「Tin Can(空き缶の意味)」と呼ばれ、既存のSCORMとはちょっとニュアンスが違います。 個人的な印象としては、「個人の学習履歴を貯めて、それをLMSとやり取りするためのインターフェイでは規格」という感じです。SCORMはコンテンツ構造記述をXMLで書きましたが、Tin Canではそこは対象外として、決めていません。同じようにシーケンシングも同様です。 Tin Canについては、また別の機会にまとめてご紹介いたします。 最後に SCORMの概要としては、上記のような内容ですが、詳しく調べるのであれば、日本イーラーニングコンソシアムのサイトをご覧いただくのが良いかと思います。 日本イーラーニングコンソシアムを開く(外部リンク) SCORM関連各種資料を開く(外部リンク) 今回は概論的な内容でしたが、SCORMコンテンツの制作や実装には色々とTipsがあり、機会があればその辺もご紹介したいと思います。 次世代規格も出て、古い規格というイメージを持たれがちなSCORMですが、私どもの仕事としてはまだまだ引き合いの多い状況なので、eラーニングに関わる方にはぜひ知っておいてもらいたいと思います。 お読みいただきありがとうございました。

  • eラーニング『売れる仕組みを作る「マーケティング」』をリリースいたしました

    ~売れる仕組みを作る「マーケティング」~ はじめにマーケティング戦略策定のプロセスを理解し、その後、描いた戦略を実行するうえで行うべき具体的な意思決定について、マーケティングの4Pといわれるフレームワークに沿って学んでいきます。 詳細は下記リンクからご確認ください。

  • ワタミ株式会社様の導入事例を公開しました

    〜社員一人ひとりの夢や目標を実現するキャリア支援〜 ワタミグループの人材育成を支える仕組みの裏側について、人材開発本部/教育部の高城様、矢作様、鈴木様にお話を伺いました。 詳細は下記リンクからご確認ください。

  • 明治安田生命保険相互会社様の導入事例を公開しました

    〜「明治安田フィロソフィー」を体現できる人財づくり 企業内大学「MYユニバーシティ」の設立〜 明治安田生命の人財戦略を支える仕組みの裏側について、人事部/人財開発グループの石田様、石川様、梅田様にお話を伺いました。 詳細は下記リンクからご確認ください。

  • 住友生命保険相互会社様の導入事例を公開しました

    ~ウェルビーイングに貢献する「なくてはならない保険会社グループ」の実現に向けた人財共育~ 住友生命保険相互会社の人的資本経営を支える仕組みの裏側について、人事部/人財開発室の佐藤様、井上様にお話を伺いました。 詳細は下記リンクからご確認ください。

  • 株式会社ゆうちょ銀行様の導入事例を公開しました

    ~​社員一人ひとりが能力を最大限発揮し、金融革新への挑戦ができるよう成長をサポート~ 株式会社ゆうちょ銀行様の人材育成を支える仕組みの裏側について、人事部/人材開発室の登根様、佐藤様にお話を伺いました。 詳細は下記リンクからご確認ください。

  • レビックグローバルが「DX/リスキリング教育環境の拡充」を目的に東京大学エクステンションと販売代理店契約を締結

    ~東京大学の研究者にフォーカスした動画コンテンツで企業内教育を支援~ LMS(学習管理システム)と教育コンテンツを活用して企業の組織力を向上させるソリューションを提供している株式会社レビックグローバル(本社:東京都港区、代表取締役社長:柏木理、以下「レビックグローバル」)は、DX/リスキリング教育環境の拡充を目的に、東京大学エクステンション株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山本貴史、以下「東京大学エクステンション」)と2022年12月20日に販売代理店契約を締結したことをお知らせいたします。 これを受け、レビックグローバルが提供するLMS「SmartSkill Campus(スマートスキル キャンパス)」において、東京大学エクステンションが提供する社会人教育のための動画コンテンツの取り扱いを開始いたします。 プレスリリース(PDF)は下記リンクからご確認ください。

  • エンプロイアビリティとは

    エンプロイアビリティとは 転職業界では、「エンプロイアビリティ」という言葉をよく使います。「employability」と英語にすると意味がすぐに通ると思いますが、「雇用する」という意味の「Employ」と「Ability(能力)」の組み合わせで、「雇用され得る能力(就業能力)」といった感じでしょうか。人事人材関連の用語というよりは経済学用語になります。 近年、人材開発の分野で、このエンプリアビリティを高める教育について注目が集まっています。「せっかく人材教育をしても、転職されてはなぁ」と思われる方もいるかと思いますが、企業が従業員のエンプロイアビリティを伸ばすことで労働力の向上が期待できるというメリットが注目されてのことです。 今回はこの「エンプロイアビリティ」について簡単にご説明します。 目次 エンプロイアビリティとは 仕事の能力高い人材は2つに大別できる 「エンプロイアビリティの高い人材」を育てるために 最後に エンプロイアビリティとは 冒頭で少し説明しましたが、「employability」は「雇用され得る能力」という意味で、平たく言えば「転職できるための能力」を示しています。 したがって「エンプロイアビリティが高い」と、当然ですが、転職や再就職の際に有利になります。近年の流動的な労働市場で、「ビジネスパーソンの価値」を表す場面で使われるようになりました。 言葉の起源的には、米国で1980年代以降に登場しました。産業の構造が変化し、生産と労働力の変化のサイクルが早くなり、多くの企業が労働者の長期的雇用を保障できなくなってきました。このため、企業側は長期雇用に代わる発展的な労使関係を構築するために、積極的に「他社でも通用する能力を開発するための機会を提供する」ということを、メリットとしてアピールし、人を集めたのです。 企業側が積極的に、従業員のエンプロイアビリティを向上させる環境や機会を提供するということは、一見優秀な人材の流出を引き起こすように感じられます。しかしながら、近年の産業構造の変化、技術革新のスピードアップ、労働者の就業意識・就業形態の多様化により、エンプロイアビリティを身につけられ、自己の評価を高めてくれる企業に魅力を感じる人は急激に増えています。 結果として、エンプロイアビリティを向上させる環境構築に注力している企業ほど、優秀な人材の流出を防ぐことに成功しています。 こういった企業を、「エンプロイメンタビリティ(Employmentability)の高い企業」といい、「企業の雇用する能力」が高い企業であると評価されます。 日本においても、終身雇用制度の崩壊や近年の雇用環境の変化に伴い、自社教育にエンプロイアビリティを向上させる環境を整え、それにより高いエンプロイメンタビリティを目指す企業が注目されるようになりました。欧米ではだいぶ前から、このエンプロイアビリティという意識は根付いていますが、日本で本格的に意識されるようになったのは2000年以降です。 また国としても、企業の倒産などで浮いてしまった人材を、スムーズに次の職場に格納できるように、政策としてエンプロイアビリティの高い人材を育てて、生産性をあげる舵取りをしています。 仕事の能力高い人材は2つに大別できる では「エンプロイアビリティが高い人」とはどのような人を指すのでしょうか。 転職に有利な人は、当然「仕事の能力が高い」人と言えます。その「仕事の能力が高い人」と言えば、以下のように大きく2つのタイプに分かれるのではないかと思います。 A:その仕事・職場で高い能力を発揮している人 B:どんな職場でも仕事の能力を発揮できる人 Aのタイプはベテランに多いタイプです。 例えば、勤続年数も長く、その会社のルールや仕事のやり方に熟知していて、信頼され発言力もあり、他の社員より高い仕事力を発揮する人です。ただし、この人が他の職場に行って、同様のパフォーマンスができるかどうかを考えると疑問符が付くかと思います。少なくとも、転職してすぐには無理でしょう。 Bのタイプは「個人的スキルが高くどんな職場でも短期間で同じパフォーマンスを発揮できるような人」を指します。 様々な開発言語を操る超絶プログラマーや、商材にかかわらず、何でも売り切ってくるスーパー営業のような人がこれにあたります。 Bのタイプは、仕事環境に依存しないでも高い個人的スキルを持ち合わせているので、転職して、どんな職場に行っても短期間で同じパフォーマンスを発揮できる可能性が高いはずです。つまり、「エンプロイアビリティの高い人材」とは、AではなくBのタイプの「仕事ができる人」を指しています。 このように、労働者に求められる職業能力として、「企業内で通用する能力」から、「企業を超えて通用する能力」が問われるようになってきたのです。 また、企業内においても、特定の職務への習熟を能力とみるのではなく、激しい仕事環境の変化への適応能力や問題発見・解決能力、さらには創造的能力等が重視する傾向にあります。 こうした企業内外において職業能力のあり方に大きな変化が、労働市場価値を含んだ就業能力「エンプロイアビリティ」の高い人材という新しい概念を生み出したのです。 ちなみに、Aのように現在の組織で周囲から評価されて雇用され続ける能力を「内的エンプロイアビリティ」と言い、Bのように、転職市場で評価の高い、他の企業でも使える能力のことを「外的エンプロイアビリティ」と言います。 日本企業は伝統的に「内的エンプロイアビリティ」に重きを置いてきましたが、全社員を雇用保障できなくなってしまった今の時代は、「外的エンプロイアビリティ」を高めるための支援を積極的に行う姿勢、つまり、企業側が主導してエンプロイアビリティを高めることが求められるようになりました。これを「エンプロイアビリティ保障」と呼びます。 転職先として人気企業は、従来の「長期雇用保障(日本)型人事システム」から「エンプロイアビリティ保障型人事システム」に大きく様変わりしています。 「エンプロイアビリティの高い人材」を育てるために では「エンプロイアビリティの高い人材」を育てるにはどうしたらよいでしょうか? 厚生労働省発表の「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」では、エンプロイアビリティの能力の評価は次のように定義されています。 “エンプロイアビリティは、労働市場価値を含んだ就業能力、即ち、労働市場における能力評価、能力開発目標の基準となる実践的な就業能力と捉えることができる。 エンプロイアビリティの具体的な内容のうち、労働者個人の基本的能力としては、 A:職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの B:協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの C:動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの が考えられる。” 上記A~Cのうち、「Cについては、個人的かつ潜在的なものであり、これを具体的・客観的に評価することは困難なので、エンプロイアビリティの評価基準として盛り込むことは適切ではなく、A、Bを対象に評価基準をつくることが適当である」と厚生労働省は報告しています。 では、A「職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの」を能力として高めるにはどうしたらよいでしょうか? Aについてはその職種により詳細は異なりますが、何よりも「仕事の覚え方」を身に着けることが大切です。 どんな知識や技術も、一度身に着けておけば安泰という世の中ではありません。新しい知識・技術を覚えるだけでなく、その拡張や幅広く専門性を広げる努力を日々する必要があります。 能力の高いと言われるプログラマーは、暇な時間があれば最新の情報を収集し、新たな言語などを積極的に試してプログラムを習得しています。そうすることにより、新たなジャンルの仕事を受けたり、難解な案件で最適のソリューションを提案することもできるようになります。人より先に新技術を装備することで、自己の価値をどんどん高めていくことができます。 このように新たな知識・技術を日々吸収するだけでなく、自分の活動エリアを広げていくことが、エンプロイアビリティを高くする秘訣と言えます。 転職先の業種によって必要とされる知識や技能は異なりますし、同じ業種であっても、そこで実際に取り組む仕事ごとに必要となる知識や技能は異なることがあると思います。そのような状況下でも、知識や技術を仕事をしながら素早く身につけられるように、「仕事の覚え方(適用力)」を確立しておくことが大切なのです。 Bの「協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの」はどうでしょうか? これは、未知の課題やトラブルに合った場合などの対処能力を指しています。 例えば、転職して未知の課題を扱うことがあった場合、自分で解決する力も必要ですし、新しい環境のメンバーに協力を求めるスキルも必要です。大きなプロジェクトでは、メンバーと積極的に協業し、ゴールを目指して様々な課題を乗り越える力が必要です。ポジションによっては、部下を任されるケースもあるでしょうから、コーチングスキルなども身についておく必要があります。 エンプロイアビリティに必要な能力は、どこで何年働いたかではなく、そこでどのような知識を蓄え、どのような成果を上げる事ができるようになっているかであり、専門能力、コミュニケーション能力、対人関係構築能力など、座学だけでは身につけがたいものを、実際の仕事を通して、スキルとして習得していくことが大切です。 日常の中で、鍛えられる専門性を明確にし、それを職務に落とし込み、コミュニケーション能力を磨いたり、プレゼンテーションスキル、傾聴スキルを身につけ、仕事を円滑に進めていくために、対人関係のスキルに関しても高めていくとよいでしょう。 最後に エンプロイアビリティを強化するためには、何よりも、常に自分の舵をしっかりとり、目標を意識しながら職務を遂行していくことが大切です。そのために従業員の個人は常に自身のキャリアデザインを念頭に置いた上でのエンプロイアビリティの向上のための努力が求められます。 また、社員が自らの価値を分析し、将来も含めた労働市場に関する予測を行い、専門スキルの獲得や自己志向性の理解とキャリア戦略を駆使してエンプロイアビリティを高めれば、その支援を行うことが業績や組織成長につながります。 このように、企業側にとっても従業員のエンプロイアビリティを伸ばせるような環境を整えてあげることで、自社の労働力の向上が期待できるようになるのです。 最後までお読みいただきありがとうございました。

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