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  • コンピテンシーとは(その1)

    コンピテンシーとは、「高業績を上げる人」に共通してみられる行動特性のことを指します。人材教育の現場では、高業績者、つまりハイパフォーマーの行動特性をまねることで、社員のパフォーマンスをアップしようという取り組みが行われています。また、人事評価基準としても「コンピテンシー」の概念が注目されています。 今回のコラムでは、「コンピテンシーモデル」や「コンピテンシーマップ」の作り方などを絡めながら、コンピテンシーについてご説明します。 目次 コンピテンシーとは できる人とはどういう人か? コンピテンシーモデルとは コンピテンシーはハイパフォーマーへの「行動インタビュー」から探す 最後に コンピテンシーとは 「コンピテンシー」という言葉は英語の「competency」を指します。名詞である「competency」の訳は「適格性」を意味し、その形容詞である「competent」とは「有能な、能力のある」という意味します。人材に使う場合には「一人前」とか「仕事を任せられる」というニュアンスで使われます。そこから、コンピテンシーとは、「高い業績に結び付く行動や思考の特性」のことを意味するようになりました。 コンピテンシーの考え方の起源は、1970年代に米国ハーパード大学のデイヴィッド・マクレランド教授( David McCleland, Ph.D.)の研究によるものです。デイヴィッド・マクレランド教授は、「達成動機」や「リーダーシップ」の研究で有名です。 1973年に国務省の依頼で、「学歴や知能レベルが同等の外交官(外務情報職員)が、駐在期間に業績格差が付く理由はなぜか」という調査をおこないました。 その結果、 学業成績や知能指数は外交官の業績の高低との間には顕著な相関関係は認めらない 外交官の職務成功確率の高い人物には3つの特徴的な行動特性(competence)が認められる とマクレランド教授は結論付けたのです。 つまり、「学歴や知能の差と業績の相関関係はなく、高業績者にはいくつか共通の行動特性がある」ということです。 ちなみに、高業績を上げた外交官の3つの行動特性は、下記のように報告されています。 cross-cultural interpersonal sensitivity to people from foreign cultures 異なる生活文化に対する豊かな感受性を発揮し、対人関係を巧みに行う the ability to maintain positive expectations of others despite provocation どれだけ困難な相手に対しても自制心をもって接し、建設的な人間関係を維持できる speed in learning political networks 政治的な人脈を素早く形成できる 「1」は、どんな国の相手にも人間性を尊重して接するという対人関係のスキルの高さを表します。 「2」は、その国の文化に対する理解力や感受性が優れており、環境対応力が高いことを示します。 「3」は、異国でも社交的で人的ネットワークを構築するのがうまいという、まさに外交官に必須のスキルと言えます。 おもしろいことに、入職時に行われた歴史や語学の試験の結果が高い人より、低い業績の人物ほど、のちに優秀になる人が多いという結果でした。これは「学力よりコミュニケーション力や人間性が、外交官の適性においては重要である」ということを暗に示しています。 マクレランド教授はその後の研究で、学力試験における業績が人生における業績/パフォーマンスにあまり関係ないという結論から、学力だけではなく、「仕事などで人生の成功を収める人の行動特性」を理論的かつ実務的に考えるべきとし、「competence(コンピタンス、のちにコンピテンシー)」の考え方を強調しています。 その後、コンピテンシーは米国を中心に、企業の人事における考課要素として発展したのです。 できる人とはどういう人か? コンピテンシーの定義としては、「ある職務や役割において優秀な成果を発揮する行動特性」などと説明されます。どの職場にも、高い成果を挙げる優秀な人材=高業績者(ハイパフォーマー)は一定の割合でいるはずです。同じ環境にいながら、他のメンバーよりも優れた結果を残す彼らは、周囲の社員とは異なる考え方や行動特性を持っている傾向にあります。 このハイパフォーマーのどの行動がその人を「仕事のできる社員」にしているのかを明らかにし、それを真似をして、他の社員全体の行動の質を上げていこうというのがコンピテンシーの活用です。 では、「高業績者(ハイパフォーマー)」、つまり「できる人」とはどういうタイプの人でしょうか?その人たちはほかの人とどこが違うのでしょうか? それは職場や仕事の内容にもよるかと思いますが、様々な業種で共通して必要とされてるものから考えてみます。 できる人:高業績者(ハイパフォーマー) コミュニケーション能力が高く、同僚に仕事を依頼したりするのがうまい 仕事が正確で確実にやり遂げるため、組織内の信頼や尊敬を得ている 専門分野に対してスキルアップを怠らず、新しいアイディアを持っている 情報感度が高く、常に様々な分野にアンテナを張り、業務に活かしている ビジネス上のネットワーク作りがうまい 上記のような「高業績者」の「行動特性」が「コンピテンシー」ということになりますが、これをより具体的にわかりやすくしたものが「コンピテンシーモデル」です。 コンピテンシーモデルとは 上記のような「できる人の行動特性」は、業種や職場環境によって微妙に違いがあって当然です。企業によって重みづけも異なります。 ハイパフォーマーに共通する行動・思考様式を具体的な言葉でまとめたものが「コンピテンシーモデル」であると説明しましたが、そもそも、コンピテンシーの定義には学術的に確定したものはなく、研究者やコンサルティング会社などが、それぞれの考え方を「コンピテンシーモデル」としてまとめ発表しているという状況です。 よく見かけるものは以下のようなものがあります。 1.コミュニケーションスキルが高い 他人と円滑に人間関係を構築する能力に長け、ノンバーバルなコミュニケーションが可能な人です。知人や同僚、顧客などと個人的な関係を作り出し、維持し、発展させる力があります。 具体的には、「共感する力」、「感情を効果的にコントロールする力」などのスキルを持った人です。 2.知識や情報を活用する能力 様々な状況において、知識や情報等を効果的に活用する力があります。情報の本質について、様々な状況・条件を考慮して、批判的に深く考えることができる力を持つ人です。 3.ストレス耐性 一部職種では特にストレス耐性や我慢強さを重視されています。その他の能力を持っていても、ストレス耐性がないと仕事が続かないためです。高いストレス耐性は仕事を進める上で必要なコンピテンシーです。 4.自律的に行動する能力 近年、企業が特に力を入れているのが「自律型社員の育成」です。そのために、自律している人をコンピテンシーモデルとして可視化させる試みが盛んにおこなわれています。自律しているとは、明らかな自己概念を伴い、意思を持った行為を行えるなどです。 このほかにも、細かく細分化して「テクノロジーを活用する能力」「言語,記号,テクストを相互作用的に用いる力」「利害の対立を御し、解決する能力」「権利、利害、責任、限界、ニーズを表明する能力」など、様々なコンピテンシーモデルの定義があります。 コンピテンシーモデルは小さな単位であればあるほど、実際の仕事の行動モデルとして反映されやすくなります。また、職種や職階などにより、重視される項目が異なります。例えば、金融関係では「知識や情報を活用する能力」が重視されますし、消費者と直接やりとりする場合など、「ストレス耐性」が高くないとダメな職種も多くあります。企業風土としてストレス耐性が要求されるところもあるかもしれません。いやな話ですが。 コンピテンシーはハイパフォーマーへの「行動インタビュー」から探す 実際にコンピテンシーモデルを作成する場合は、まず各グループのハイパフォーマーを見つけて、「行動インタビュー」を行う必要があります。モデル像に偏りを作らないためにも、複数のハイパフォーマーに行動インタビューを実施しましょう。 成功事例などを取り上げて、その成功が「どのような状況で、どのように行動したか」によるのかを聴取します。こうしてインタビューから集められた行動例を整理し、コンピテンシーモデルを作成するための「高い業績に結び付く行動・思考」をまとめます。 一時的な成功だけでなく、「普段からどのような思考で生活しているか?」「ピンチやトラブルに直面したときに、どう行動するか?」など、より細かくすることで、成功時の行動特性の裏付けがわかってきます。ポリシーではなく具体的な行動事実を拾うのがポイントです。そのため、ストーリーで追っていきます。したがってそれなりに時間がかかる作業です。 こうしてインタビューからハイパフォーマー特有の「職務行動・意識」がわかってきます。 例えば、業績の良い営業マンの「職務行動・意識」としては下記のような特性が得られます。 業績の良い営業マンの「職務行動・意識」 「達成思考」が強く、数字を常に意識している 「対人影響」が強く、話すのではなく、影響を与える力がある 「顧客思考」が強く、顧客からの質問事項を一生懸命に調べ対処する、その場しのぎをせず、ごまかさない これに対して、業績の悪い営業マンの「職務行動・意識」は、相対する結果が出てきます。 業績の悪い営業マンの「職務行動・意識」 成果よりも顧客と話すことを楽しみ、やたらと知識をひけらかす 顧客の質問にきちんと対応しない(口先でごまかす) 数字に関心が低く、安易に値引きなどを行う 自分で手を動かさず、部下などに作業をさせる 他の例として、成果の出る良い開発職の「職務行動・意識」では下記のような特性が報告されています。 成果の出る良い開発職の「職務行動・意識」 「達成思考」が強く、障害や問題を乗り越えることを苦にしない プロセスより成果を執拗に追求する 「分析的思考」が強い 「対人影響」が強く、関係部署や上司、顧客の了解を得る事の重要性を意識している これに対して、成果の出にくい開発職の「職務行動・意識」は下記の通りです。 成果の出にくい開発職の「職務行動・意識」 実作業にのめり込みすぎて、パソコンの前から動かない 成果よりもプロセスに関心があり、結局は自分が楽しんでいる 最後に、管理職についても見てみましょう。 業績の良い管理職の「職務行動・意識」 「達成思考」が強く、目標達成に立ちはだかる諸問題を解決していく 「分析的思考」が強く、明確な方針、戦略を打ち出す 「対人影響」が強く、上司、関連部門への一定の影響を与える 方針を守らせることに真剣になる 業績の悪い管理職の「職務行動・意識」 部下を成長させることがへた 汗を流して率先垂範、走り回って何もかも一人でやってしまう 即断即決だが、その場対応の泥縄なことが多い 前例や手続を重視しがちで、予測可能な安定的な行動を好む 「率先垂範」タイプが、「結局何でも一人でやって部下を育てない」というのはよく耳にしますね。 最後に ハイパフォーマーの強いコンピテンシーは「本人にとっては当然」のことなので、自覚していないケースもあります。そのため、行動インタビューは、多少「引き出す」技術がいる作業です。引き出しにくい場合は、アンケート集計方式の360度評価などと組み合わせるのも良いかと思います。また、コンピテンシー評価や検査を専門的な外部コンサルタントに委託し、コンピテンシーモデルの素案を作ってもらっても良いです。 少し長くなりましたので、続きは次回「コンピテンシーとは(その2)」でご説明したいと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • eラーニングの歴史のザックリとした理解

    今回は肩慣らしにeラーニングの歴史をザックリと振り返ってみたいと思います。 目次 学習形態の変遷 eラーニングの「3つのメリット」 「人材教育のIT革命」からのリーマンショック 「eラーニング」業界は第二の発展へ 最後に 学習形態の変遷 「eラーニング」のベースとなった「CBT(コンピューター・ベースド・トレーニング)」は1980年代にはアメリカの大学を中心に行われていました。この時の教材はCD-ROMで配布する形態が主流でした。そうなると、配布コスト、配布後の内容修正のむずかしさ、学習進捗の一括管理の難しさなど、パッケージメディアならではの課題は多く、一般的な普及というレベルには至りませんでした。 この時代のCBTを「eラーンング」に含めるかどうかは意見が分かれますが、このような「オフライン」から、ネットなどを介した「オンライン」に変遷していくことが大切な認識です。 「eラーニング」として2000年あたりに中心となっていたのは「インターネット」、「パソコン」、そしてこれらの少し前から利用されていた「衛星通信」「ISDNテレビ会議」といったITを活用した教育研修でした。 呼び方も様々で「WBT(ウェブ・ベースド・トレーニング)」や、変わったのだと「サイバー・ラーニング」「バーチャル・ラーニング」なんて少し大げさな呼称を使う人もいました。それまで「遠隔学習」の中心だった「通信教育」と区別して「eラーニング」とまとめてた感があります。 この頃のeラーニング技術はアメリカの大学で研究され、IBM、シスコシステム、オラクルなどのIT企業で導入され、高いコスト削減と研修効果の向上を実現しました。 eラーニングの「3つのメリット」 この当時の「eラーニング」の「ウリ(メリット)」は、下記の通りでした。 1.いつでもどこでも学べる ネット経由で教材を利用することにより、学習者が学ぶ時間(タイミング)や場所を好きな時間に行えるということです。また、教材の提供スピードも上がり、迅速な研修ができるというのも当時は画期的でした。また、集合研修のように規模の理由で「学習者のレベルをおおざっぱに集める」とこなく、自分に合ったレベルを選べるのも細かな点ですが大切です。 2.研修費用のコストダウン 「リアル」の研修と比較し、ロケーションを選ばないので「交通費」や「宿泊費」など、教育研修にかかる費用をカットできる点です。地域別に複数回講師を呼ばなくて良いというのも研修担当者にとっては助かったのではないでしょうか。 3.音声やアニメーションなどマルチメディアを使った教材による学習効果のアップ 「動画」や「Flashアニメーション」などでのわかり易さが、当時主流だった「書籍教材」と比較して理解度が高いと認識されてました。SCORMという「eラーニング」のための、教材規格も制定され、「学習履歴の管理」という面にも意識が向いてきました。 「人材教育のIT革命」からのリーマンショック やがてブロードバンドが進み、動画の配信も可能になり、さらにLMSなど、学習進捗管理の機能開発が進んで「効果が見えやすく」なると、企業などで「eラーニング」の地位はグッと上がっていきます。この時の「eラーニング」は「人材教育のIT革命」としてもてはやされ、市場規模は年率70%以上の伸びで推移しました。 しかしながら、企業の「eラーニング」を使った人材育成の投資も増え、ベンチャーが新しい技術開発にしのぎを削っているなか、リーマンショックが起こります。 リーマンショックの影響で企業の教育費は抑えられ、「eラーニング」業界にも冬がやってきました。 投資の減少による売り上げ減少だけでなく、SCORMを使ったLMSシステムが乱立し、SCORM規格外の独自拡張などで足並みも揃っていなかったため、業界自体が軸を失い、数々のベンチャーが撤退していきました。 「eラーニング」業界は第二の発展へ リーマンショックによる冬の時代にも、インターネットを中心とした技術分野は進歩し続け、その進歩に追従するように「eラーニング」業界でもコツコツと新しいツールは開発され続けます。 この冬の時代に固定回線のブロードバンド化は確立し、次なる課題のモバイル環境でのブロードバンド化も進みました。 やがて冬が明け、企業の教育への投資が徐々に上がり出すと、「eラーニング」業界は第二の発展に向かって動き出します。 第二期では、eラーニングの「教育効果」が焦点になります。「教育効果」を上げるための「仕掛け」の研究が進みます。 キーワードとしては「インストラクショナルデザイン」「SNS」「モバイル・ラーニング」「ブレンデット・ラーニング」「ゲーミフィケーション」「TinCan」などです。 詳細は、各キーワードごとに別の回でご紹介しますが、ザックリと解説するとこのような感じです。 「インストラクショナルデザイン」は 「ID(Instructional Designの略)」と呼ばれ、eラーニングの学習効果を上げるためにシステム工学的手法が導入されます。 「SNS」はツイッターやFacebookなどSNSを使って同じ学習目標を持つ仲間と学習を進め、相互に教え合い、離脱を防ぐという利用方法です。 「モバイル・ラーニング」はスマホやタブレットを使ったモバイルでの学習環境の技術。 「ブレンデット・ラーニング」は対面学習、オンライン学習、両者の良い所を組み合わせることにより、インタラクティブ性の高い複合型授業で学習効率を上げる手法。 「ゲーミフィケーション」は「ゲーム理論」を使った教育手法。 「TinCan」はSCORMに変わる新たなLMSなどの規格です。 第二期は現在もまだ続いており、これからも新しい技術や教育手法は登場してくると思います。 最後に 以上、非常にザックリではありますが、eラーニングの歴史をまとめさせていただきました。 ここで述べなかったことも今後の連載で触れていきたいと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • アクイ・ハイヤーとは

    人材教育の言葉ではありませんが、「アクイ・ハイヤー」という言葉をご存知でしょうか? 「アクイ・ハイヤー」は買収して雇うことの造語です。「買収採用」なんて呼ばれ方もしますが、言葉の意味としては「買収による人材獲得」の意で、人材教育の現場でもこの言葉を頻繁に聞くようになりました。 一生懸命人材教育を行っても、時間がかかってサービスのスタートアップに間に合わない、そもそもその技術や教育できる人間が企業内にいなかったり、採用しても全然集まらなかったと言った事情で、「アクイ・ハイヤー」に活路を見出そうとしているのだと思います。 今回はこの「アクイ・ハイヤー」について、簡単に説明したいと思います。 目次 アクイ・ハイヤーとは アクイ・ハイヤーの実績 アクイ・ハイヤーは果たして儲かるのか? 最後に アクイ・ハイヤーとは 前段で触れましたが、「アクイ・ハイヤー(acqui-hire)」とは、英語の買収(acquisition)と雇用(hire)を掛け合わせた造語で、買収による人材獲得を意味します。 言葉として使いだしたのは、米Googleが始めたのがきっかけと言われています。優秀なエンジニアや開発チームを獲得するために、そうした人材が所属する零細ベンチャー企業をまるごと買収するのです。 アクイ・ハイヤーは、一般的な「買収」が「事業とブランドを買う」のとは異なり、「スタートアップの経営陣や技術者を買って自社でやる」という意味合いが強いことが特徴です。 現在ではGoogleだけでなく、AppleやAmazonといったIT企業を中心に、盛んにおこなわれるようになりました。 アクイ・ハイヤーがシリコンバレーから広まったのは、技術者・開発チーム人材の慢性的不足が原因です。 GoogleやApple、Amazonといった好待遇のメジャー企業ですら、常に人財不足の状態で、新たにサービスを立ち上げようとしても、それに合ったエンジニアが集まらず、かといって既存の人材を使って育てるにはこの業界のスピードが速すぎて間に合いません。 そこで、自分たちがこれからやろうとしていることと同じ、もしくは似たようなことをスタートアップしている企業(主にお手頃な零細ベンチャー)をリサーチし、彼らをまるごと買収します。丸ごと買収するので、買収先企業の開発リーダーや開発チームを手っ取り早く確保でき、サービスを迅速に立ち上げられるのです。 また、単純に人財だけ欲しいという場合もあります。ある製品を作っているスタートアップ企業をアクイ・ハイヤーしても、その製品は出さず、その技術者だけを目的の開発に回すというケースもあります。 アクイ・ハイヤーの実績 アクイ・ハイヤーと言えば、真っ先に浮かんでくるのは当然Googleでしょう。日進月歩のサービス開発を進めるために、グーグルは毎週のごとくスタートアップをアクイ・ハイヤーしています。 実績として、Googleは2010年から2013年前半までに、約196社を買収、推定で約1兆8700億円(187億ドル)を投じています。ざっくり1年間に約50~60社のペースでアクイ・ハイヤーを繰り返している計算ですが、一件あたりの買収額は平均で30億円程度にすぎません。この中には利益からほど遠い企業もたくさんあります。これは同社が、アクイ・ハイヤーの手法で「人材獲得を目的とした買収」を展開しているからです。 ここのところ、Googleは複数のハードウェア関連企業のアクイ・ハイヤーを実施しています。例えばロボットの分野では、四つ足ロボット「ビックドック」で有名な「Boston Dynamics」を買収、東大ロボットベンチャーの「シャフト」や、MITのスピンアウトベンチャーでロボット・アーム研究の「レッドウッド・ロボティックス」、ロボット用カメラのベンチャー「ボット・アンド・ドリー」などを次々と買収しています。どれも最先端ではありますが、利益を出しているわけではありません。 そのほか2014年には、ロボット以外にも「ネスト・ラボス」を3,200億円(32億ドル)で買収しました。同社は、ネットワーク対応サーモスタット(空調)スイッチや火災報知機を製造販売している家電ベンチャーで、設立者・CEOのTony Fadell氏は、かつてアップルで開発者としてiPodの開発リーダーを務めていた人物です。買収後にGoogle Glassプロジェクト責任者になっています(現在は辞任)。この件はタレント・バイとしても話題になりました。 Googleだけでなく、AppleのiWatchの開発チームもアクイ・ハイヤーで集められた人材だったことは有名です。 日本国内では、DMMが非常に積極的にアクイ・ハイヤーに取り組んでします。質屋アプリ「CASH(キャッシュ)」の買収も話題になりました。 ペイパル、スペースX、テスラなどを創業した実業家・投資家であり、自身もエンジニアだったElon Musk氏のもとには、アクイ・ハイヤーの売り込みが殺到しているとか。確かに彼の事業のスピードはアクイ・ハイヤーなしには実現できなかったのでしょう。 このようにITなど先端技術関連事業を中心に、アクイ・ハイヤーは単純な企業買収案件よりも積極的に行われるようになりました。 アクイ・ハイヤーは果たして儲かるのか? アクイ・ハイヤーが積極的に行われている理由を表すキーワードは「コスト」と「スピード」です。 1から人材を集めて開発チームを立ち上げようとしても、時間とコストが膨大にかかってしまいます。 特にこれらのIT企業で重視するのは「スピード」でしょう。たとえ数十億円かかっても、ライバルとの熾烈な開発競争に勝つことができれば、投資費用などすぐに回収できるのでしょう。 もっとも、多くのベンチャー企業がしのぎを削るシリコンバレーという圧倒的な産業集積があってこそ、ここまでスピードアップできたのかもしれません。 また、Googleのケースでは、先行投資的な意味合いも強くなります。 Googleは既にスマホなどの市場の縮小の先を見ています。その証拠に市場が未発達のホームオートメーションを狙ってネスト・ラボスを買収(2014年2月)しました。Googleほどの企業でさえ、もうすぐに動かなければホームオートメーションを制せないという判断だったのでしょう。 結局、若干Amazonの「Echoe」に先を行かれましたが、Googleのホームオートメーション第1弾として登場した「Google home」はまさにお家芸のアクイ・ハイヤーの成果だったのです。 また、アクイ・ハイヤーは普通の買収の感覚で判断しないほうがいいと思います。日本国内では、買収後に被買収企業のサービスが伸びたという話はまれでした。まさに「事業」よりも「人財」を買ったと思うほうが良いと思います。 アクイ・ハイヤーが果たして儲かるのか?という疑問については、その企業のその後の成長を見て判断するしかないのかもしれません。 そして、アクイ・ハイヤーは「オープン・イノベーション」を積極的に活用できる企業に向いていると言えます。 オープン・イノベーション アクイ・ハイヤーのように、社外から人材や技術などのリソースを取り込むことで、開発競争を優位に進めることを「オープン・イノベーション」と呼びます。 逆に、研究・開発施設などを社内で整備し、自前のエンジニアを育成して、新サービスの創出を目指すことを「クローズド・イノベーション」といいます。 後者の開発手法では、コンピュータ関連やネットビジネスなど、技術革新のスピードが著しく激しい分野の競争にはなかなか対応できません。だからこそアクイ・ハイヤーで、人もアイデアも、手っ取り早く「組織ごと買う」のでしょう。 日本はクローズド・イノベーションが根深い Gooogleは年間で50社から60社ものベンチャーを買うことで、他社との開発競争に勝っています。Gooogleに限らず、トップ企業のほとんどが「オープン・イノベーション」を使って開発競争を優位に展開してきました。 対して日本は未だに「クローズド・イノベーション」が色濃く残っている面があります。かつて日本は大手が、中小や町工場と言った技術の匠達とともに成長してきたという歴史があります。企業の独立性を維持しながら協力関係の中で成長してきました。しかし、第2次産業が主流の時代とは異なり、比較にならないスピードでイノベーションが起こる現在の状況には、その関係性では対応できていないというのが現状です。 残念ですが、日本企業が踏襲してきたクローズド・イノベーションや事業開発手法がコンピュータやネットビジネスでいかに弱力であるかを痛感させられています。 最後に 基本的にアクイ・ハイヤーによって買収された企業側の人材が、買収側で活躍することも多いと聞きます。それは、アクイ・ハイヤーが会社として買うものの、欲しいのは「企業」ではなく「人(チーム)」だからなのでしょう。 結果新たな人材が本社の人材育成に良いシナジーをもたらしています。 気をつけるべき点もあります。特にベンチャーの独特のカルチャーが、大企業のカルチャーとぶつかったりもします。急速な環境変化は従業員のモチベーションに影響します。また、事業とともにその人たちが活きるように配慮する必要があります。そうでなければ彼らは優秀なのですぐに次の職場を見つけ、逃げてしまいます。そのためにも、買収した企業のTOPやスター社員を本社側に呼び込んでパイプ役にし、風通しを確保したりする工夫が必要です。 今回はアクイ・ハイヤーについて説明しました。若干人材教育とは違うカテゴリの話だったかもしれませんが、あなたの会社がどうしてもやりたいことがあった場合、そこにスピード感が要求されるのであれば、アクイ・ハイヤーによる展開も有効だと思います。 そして良い人材を育てるには、良い手本が必要です。企業の買収は安くはありませんが、その手本が与える効果を考えれば、人材投資として決して無駄にはならないはずです。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ARCSモデルとは

    年の瀬も迫り、来年度の新人教育を考え始めているご担当者様も多いのではないでしょうか。そんな新人社員の「教育係」や部下の育成の責任のある上司の方から、「なかなか興味を持ってもらえない」「社員の研修へのモチベーションが上がらない」という悩みを耳にします。 一般的に未経験者を、専門知識や高度な教育に積極的かつ継続的取り組ませるのは、なかなかハードルが高いことだと思います。 今回はこの「学習へのモチベーションを上げる方法」として、数々の教育の現場で取り入れられている、「ARCSモデル」について簡単にご説明します。 目次 ARCSモデルとは 「Attention(注意喚起)」 「Relevance(関連性)」 「Confidence(自信)」 「Satisfaction(満足)」 自発的に学びたくなる仕組みがARCSモデル 最後に ARCSモデルとは 「ARCS(アークス)モデル」と呼ばれるこの学習モデルは、アメリカの教育工学者、ジョン・M・ケラー(John M. Keller)が1983年に提唱しました。 学習者の「動機づけを高める」方法をモデル化したもので、「やる気を引き出す」ための四つの要素を定義し、その頭文字を繋げたのがARCSです。 四つの要素とは、「Attention(注意喚起)」「Relevance(関連性)」「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足)」です。 ARCSモデルは、インストラクショナルデザイナーたる人物が学習システムを組む際に、学習意欲の問題に取り組む際に役に立つシステムモデルです。 始まりは大学などの教育機関で、学生に学習へのモチベーションを維持させるための方法として広く使われるようになりました。 そして今では教育現場だけでなく、職場での指導のシーンでも応用できるとして、企業の研修設計や教材開発などにも活用されています。 それでは、まず学習モデルの要素となる4つの要素についてみていきたいと思います。 「Attention(注意喚起)」 研修やおすすめの講座を受けさせたくするにはどうしたら良いでしょうか? まずはそれについて「Attention(注意喚起)」させることからスタートするかと思います。 本屋に行って本を選ぶとき、定番の堅めの内容の本より、一風変わったタイトルの本に興味を持つことは多いと思います。 例えば、「経営学の基礎」という本より、「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」というタイトルのほうが手に取られる機会は多いのではないかと思います。こういうフレーズは本を買わせためにつけられてますが、原理としては「おもしろそうだ」「何かありそうだ」という学習者の興味・関心を誘い、注意を獲得する目的でつけているのです。 こうした興味を引く方法として「知覚的喚起」「探求心喚起」「変化性」などを行うのが「Attention(注意喚起)」のステップです。 「知覚的喚起」は研修などにキャッチーナキーワードを入れて興味を持たせる手法です。学習者に面白そうだなと思わせるために、映像を使って説明するようにしたり、年代にはまる有名人や好きそうな人の事例を取り上げたりするのも効果があります。 「探求心喚起」は不思議さや驚きのあるテーマを取り上げ、探究心を刺激するやり方です。先ほどの「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」も探求心を擽ぐります。 「変化性」は注意の持続に欠かせない要素です。工夫して引き付けた注意も、退屈な座学だと飽きてしまうので、実際にその場でやってみたり、ディスカッションを入れたり変化を与えることによって注意を持続させます。 実際問題として、注意喚起して引き付けても、それを持続させることは難しいでしょう。なので、学習者のモチベーションを持続させるには、強固な動機づけとして、次の「Relevance(関連性)」を与えることが大切になってきます。 「Relevance(関連性)」 この場合の「関連性」とは、「目標に対して意義や親しみを持たせること」を指しています。具体的には学習者自身が「これを学ぶことで自分の業務に役立てられる」と思わせることです。 学習者が持つ目標に対して、その学習が如何にプラスに働くかを過去の経験や興味をもとに関連付けます。こうした個人的ニーズを満たし、学習者が「自分ごと」として捉えることができるように導きます。こうした「これをやることにより、目標に近づける」とイメージできる人は「目的志向性型」の思考が芽生え、意識高く取り組む傾向にあります。 学習課題が何であるかを知り、やりがいがあると思えれば、学習活動の関連性が高まりますが、反対に、「何のためにこんな勉強をするのか」と疑問を持ってしまうと、関連性の欠如を起こします。したがって、関連性を感じることで、学習者は課題を受動的にこなすのではなく、主体的に関わってくれるはずです。 その自主的・主体的な関わりを強化してくれるのが「Confidence(自信)」です。 「Confidence(自信)」 「やればできるんだ」と自信を持って学習の目標を達成できそうだと思わせることが「Confidence(自信)」要素です。 ゴールを明確に示してあげて、自分の努力次第で成功できるという自信を持たせることが大切です。 Confidenceの実装は、「成功の機会」を用意してあげることから始まります。人は小さな成功を繰り返すことで、自信を身に付けていくので、例えば研修の中に成功を経験する機会を作ってあげます。 「学習しても修得・達成の可能性が低い」と思うとやる気が起きないので、近い目標を順番にクリアして自信をつけるなどの工夫をする必要があります。例えば、学習する内容に関連した資格取得を目標として設定したり、研修の内容に合わせて徐々に難易度の高い小問題を与えたりします。その成功を積み重ねることで、「やればできそうだ」という自信につなげていくことができるのです。これが「成功への自信」となります。 言われたことだけでなく、自ら計画・工夫して、試行錯誤の結果成功すると自信は高まりやすくなり、自己管理が持続して行われるようになります。 最後の「Satisfaction(満足)」は、目標をクリアした後に、新しい挑戦へのモチベーションの原動力となる要素です。 「Satisfaction(満足)」 目標に到達したことを認めて褒めることで「満足感」が生まれ、学びを次の行動につなげることができます。「満足感」を得て、学習意欲を高めるには、「内発的な強化」と「外発的な強化」があります。 「内発的な強化」は、自らの努力が実を結び「やってよかった」と思えることにより、次の学習意欲へつながる満足感が得られます。 「外発的な強化」は、講師や上司、同僚から、実力を認知されたり、何かしらの賞賛を得ることにより満足が得られます。外発的な強化は周りの協力が必要なので、上司や同僚から「君がこの知識を知ってたから助かったよ」と声かけが自然と出てくるような職場の雰囲気作りが大切です。 もう1点、「公平さ(Equity)」という要素もあります。 公平さは努力を無駄にさせない首尾一貫した学習環境や公平な評価システムなどです。職場では学習したレベルに合わせて職位を上げたり、給与に反映させたりといった工夫が挙げられます。 自発的に学びたくなる仕組みがARCSモデル ARCSモデルは、最初に「面白そうだ、何かありそうだ」という「Attention(注意喚起)」によって引き寄せられ、次に、学習課題が何であるかを知り、「やりがいがありそうだ、役に立ちそうだ」という自分の価値との「Relevance(関連性)」に気づきます。課題の将来的価値のみならず、プロセスを楽しむという意義も関連性にあたります。 学習に意味を見いだしても、達成への可能性が低いと思えば意欲を失ってしますので、初期に成功の体験を重ね、それが自分の努力に帰属できれば「やればできる」という「Confidence(自信)」が次の学習への興味となってくれます。最後に 学習努力が実を結び「やってよかった」との「Satisfaction(満足)」が得られれば、次への新たな学習意欲につながっていくのです。 自分がトレーナーとして何か教えるのであれば、教える人が自発的に「学ぼう」と思えるしかけを仕込むのが大切です。トレーナーがインストラクショナルデザインのプロセスに携わるのであれば、授業の「魅力」を高めることを目的とした「動機づけ設計」の過程を組み込みましょう。 “インストラクショナルデザインとインストラクショナルデザイナーの役割” 「インストラクショナルデザイン」は、学校教育だけでなく、社会や企業など、教育が行われているあらゆる現場で使われる手法です。 インストラクショナルデザインは、「ニーズの評価と分析」「デザイン」「開発」「実装」「導入後の評価」の、5つの手順をサイクルとして設計します。インストラクショナルデザイナーは、上記のサイクルで使われる教材の開発を行う役割を担います。具体的には、受講者の分析や課題や目的、既存のシステムを分析し、新たな教育システムをデザインします。 デザインする要素としては下記の内容を決めていきます。 教材の構成 教材に統一感を持たせるためのルール インターフェースデザイン 制作チーム スケジュール 学習結果の評価法 インストラクショナルデザインは興味深い内容が多く、また別の機会にご紹介したいと思います。 最後に ARCSモデルは社内教育だけでなく、面談や普段の会話を通して部下に業務に関するスキルを学んでもらえるようなメッセージを伝えていくのにも効果があります。知識やスキルの習得には、本人のやる気を持って取り組めるかどうかがカギだからです。 学習塾のCMに、「やる気スイッチを見つけてONにする!」というのを目にした方も多いかと思います。学習塾の詳しい施策は知りませんが、ARCSモデルはまさに、この学習者のやる気スイッチを探して、ONにする学習モデルだと言えるかと思います。 教える立場の人間として、ただやれと教えるだけでなく、本人自身が「学ぼう」という気持ちになれるような環境づくりが要求される時代です。ぜひARCSモデルを参考にして、やる気スイッチをONにする教育システムを作っていただければと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • 機械学習とは ~機械学習が人事・教育システムにもたらすメリット~

    ビックデータが近年のネットワークシーンのキーワードとなっていますが、今後もますます利用可能なデータは増え続け、その形態も多様化しています。また、コンピューターの処理能力も高性能かつ安価になり、クラウドなどのデータストレージも低コスト化が進んでいます。 そんな中、様々な形で手に入れた「ビックデータ」をビジネスに賢く利用しようという動きは活発化しており、その1つの解が「機械学習」という技術です。 今回はその「機械学習」のざっくりとした理解と、その技術を人事や教育システムに活かした場合のお話です。 目次 機械学習とは? 我々がすでに体験している機械学習 人材開発や人事面での機械学習のアイディア 今後の機械学習の進化に期待 機械学習とは? 機械学習は英語でもそのままズバリ「Machine learning」と呼ばれています。 1960年あたりから人工知能の一分野として研究が始まりました。その名のとおり、機械が経験から学習することで自動的に判断し、行動していく仕組みを実現させようというものでした。 最近の研究では、コンピュータに、膨大なデータを見せて、その中から見えていないものを予測するという分野が盛んにおこなわれています。特に、コンピュータの処理速度の向上したうえ、インターネットで大量のデータが発生したことにより、統計的機械学習と呼ばれる、統計的な手法を基礎とするアプローチが、ビジネス分野において大きな成功を収めており、もっぱら機械学習というと、統計的機械学習のことを指すことが多い状況です。 以前の統計的機械学習は、自然言語処理やバイオインフォマティクスなど学術用途が中心でしたが、現在はマーケティングや信用リスク予測などのビジネス用途での応用分野において目覚ましい発展をしています。 昔の機械学習の手法では、人が教師となり、訓練データを入力し、それを参考にしてコンピューターは学習していました。 今の機械学習では、さまざまなアルゴリズムを用いてビックデータから反復的に「学習」するため、人間が教師とならなくても、コンピューターが自律的にデータから洞察を導き出せるようになりました。 人が見てもとても見切れないような、大量のデータに埋もれて見えないものを「見えるようにしてくれる」、この「コンピューターならではの洞察」が人には考え付かないマジックを生み出すのです。 我々がすでに体験している機械学習 1. 株式取引における予測モデリング 過去の膨大なデータに現在の株式の値動きをぶつけて、その株式の売買判断をしてくれるソフトが、企業・専門家向けのものから、個人投資家向けのものまで、たくさん出ています。ネットトレーディングが中心になったこの分野は、機械学習にとても適しています。 また、いままで人では気づかない知見がたくさんみつかっているのも注目です。 AI界の第一人者ベン・ゲーツェルと彼の率いるAidyia社は、すべての株式取引を、人間の介入なしに人工知能(AI)によって行うヘッジファンドを始めました。 2. Amazonなどオンラインショップの商品レコメンド機能 顧客の購買履歴から、その顧客が興味を持って購入しそうなものを識別します。 一度見た商品を推薦する従来型の「リマーケティング」に対して、「まだ見たことのない商品」でも、推薦対象としてふさわしい可能性がある物を薦めるのが「レコメンデーション」です。この「推薦対象」を決めるのに使われるのが、「協調フィルタリング」などのアルゴリズムを使った機械学習です。 今やECサイトや検索エンジンで欠かせない要素となったレコメンデーションは、マーケティング理論と組み合わさり、Webの進化の一端を担っています。 3. SNSの投稿項目の分析 Twitterで何をつぶやいているかの把握することで、顧客が自社(や製品)についてどういう評価をしているかを探ったりしてます。自動で生の声を収集して整理してくれるので、非常に助かります。 また、資生堂の「uno SOCIAL BARBER」では、SNSアカウントに接続して、過去の投稿を分析、性格傾向診断をしたうえで、一歩大人に近づくためのアドバイスとヘアスタイルの提案をしてくれるというサービスを行いました(現在は終了)。ここでも機械学習が活躍しています。 4. スパム検知・処理 メールのメッセージのうち、どれがスパムでどれがそうでないかを文章を解析し、識別します。 一日に全世界で飛び交っている電子メールは大量すぎますので、全部チェックしてデータを取るのは不可能です。そこで、Gmailでは「迷惑メールを報告」というボタンがあり、スパムであることをGoogleに伝えることができ、そういった機能を使い、まず大量の「スパムメール」と「スパムでないメール」を集め、「スパムを判定できるモデル」を選びます。 大量のメールでモデルにどのようなメールがスパムかそうでないかを学習させることで、スパムフィルタのモデルを構築します。そのスマムフィルタのモデルに「未知の新しいメール」をいれると、モデルが「スパムかどうか」を判定してくれます。 5. クレジットカード不正検知 ある顧客のカード取引履歴を分析して、その顧客が買わなそうなものが買われた場合にアラートを上げます。 具体的には、ECサイト内での画面遷移や各画面の滞在時間といった購入者の行動ログ、クレジットカード情報、購入者のアクセス元などからモデルを学習させ、クレジットカードの不正検知を行っています。 6. サイバー監視機能 既にわかっている攻撃パターンだけでなく、通信のやり取りを見て、不正の兆候を感じ取り、アラートを上げてくれたり、防御のため遮断したりします。 7. 会話理解 iPhoneのSiriなどの音声認識で有名ですね。かなり柔軟に話し相手になってくれるようになりました。SoftbankのCMで有名な「Pepper」も、さながらロボット執事のようで、未来的でワクワクします。 ロボットがスムーズに会話し、必要な情報を提供し、最適なアドバイスを行うためには高度な自然会話エンジンや人工知能が不可欠です。Pepperとの会話はIBMのWatsonといった機械学習(ディープラーニング)のテクノロジーが生かされています。 8. 形態検出(顔検出や車の自動運転) IDカードの写真と、人とのチェックや、たくさんの写真アーカイブから、人を抜き出して表示させるなんてことも可能です。 同様の技術でGoogleのロボットカー(自動運転車両)で、センターラインや道路形状、対向車、歩行者などを検知するシステムです。 このように、パッと上げただけでもこれだけの分野で機械学習が利用されています。便利ですし、イノベーションを感じる技術ばかりです。注目されるわけですよね。 人材開発や人事面での機械学習のアイディア ここ数年で、弊社にも「人事や社員教育などで機械学習を使えないか?」という案件がちらほら来ております。取り掛かるとなるとなかなか時間がかかるのですが、既に出ているアイディアや実際の事例として、いくつかご紹介したいと思います。 退職しそうな従業員を早期に突き止め、慰留させる 退職に伴うコストのロスは、一般的に年収が500万円の中途社員1人当たり250万円になるそうです。ハイパフォーマーでしたらなおさらですね。そうした退職に関しても機械学習が活躍しています。 機械学習は、消費者の行動を分析し、消費者本人も気づいていないような嗜好を見つけ出したりするのですが、これを消費者を従業員に起き換えます。具体的には、従業員自身も意識していないような仕事や活動のデータから検知し、過去の従業員のデータから、現状在籍している貢献度の高い従業員の離職リスクを測定し、離職の確率や金銭的な被害額などをはじき出すというものです。まあ、売り上げなどの成績が悪くなっているのにもかかわらず、残業をしないで帰ったり、有給を消化しているなど。まあ、接していればわかることもあるかと思いますが、そうした顕著な傾向だけでなく、機会学習ならではの洞察があるようです。 さらに、その従業員を引き留めるために実施するべき対策まで感がてくれます。まさにデータサイエンスと機械学習を使ったアプリケーションですね。 退職予測では、ファーストリテイリングが採用したSaaS型人事・財務アプリ「Workday」が有名です。 株式会社SUSQUEのクラウド型人事・労務分析ツール「サブロク」では退職予測だけでなく、「精神疾患(うつ病)発症者予測サービス」なんてのもあります。面白いのは、ゲームアプリ開発会社・コロプラでゲームユーザの離脱傾向分析をしていた折に、その分析手法を企業の従業員の退職確率に応用できると考えて作ったそうです。 人事採用で機械学習が活躍 米国では、採用時に責任者が応募者の中から選ぶと、多くのケースで先入観や偏見が紛れ込んでしまうので、人間だと公平な人事採用が難しいと言われ、人工知能による評価手法に注目が集まっています。 確かに採用時における機械学習のメリットはたくさんありそうです。 履歴書の段階でランキング 機械学習で、履歴書の段階で自社基準を設けて分析しておけばある程度、自社基準を満たした人だけ審査すればよくなります。この段階で正確なフィルタリングができれば、面接の負荷も下がり、社員のクオリティアップ、採用コストの削減が可能です。 担当者によるばらつきをなくす 例えば、同じ高校や大学だったり、田舎が同じだったりして、ついバイアスをかけてしまったりすることを事前に防ぎます。 テストの結果やSNSでの活動などを総合的に判断 性格テストやスキルテスト、さらには、SNSなどでのコメントなどのデータをあつめて総合的に判断します。面接時だけいい子にしていても、SNSを分析して普段の行いがさらけ出されてしまうんですね。。。学生さんは特に気を付けましょう。 機械学習を使ったハンティング 応募者としてだけではなく、ソーシャルサイトなどから集めたデータを基に、優秀な人材を探すサービスが既にあります。 自社のカルチャーに合った人材を見つけ出す ソーシャルの話が出ましたが、一般的な評価軸だけではなく、自社でのハイパフォーマー(成功者、貢献者)のデータを分析し、「ある会社で最も活躍してくれる人材」を見つけ出します。 自己学習を最適化する機械学習 仕事の成績や、人事の評価などパフォーマンスのデータと研修や自己学習のポートフォリオのデータを分析し、個人の性格に応じた勉強方法をレコメンドしたり、本人は意識していないけど、データを細かく分析するとわかる「足りてない能力」などをアドバイスしてくれます。 データから分析するので、人の目からではなかなかわからないような細かい指導が可能です。 また、本来必要なのに学べていないような内容を見つけ、カリキュラムの穴を指摘してくれたりします。 さらに、その企業でのハイパフォーマーの分析をすることにより、自分に何が欠けているのかがわかるようになります。 細かいことですが、教材などのコンテンツのレベルにも機械学習により、間違えた問題の傾向や、弱点を集中的に表示したり、テストしたりすることもすでに実装されています。 今後の機械学習の進化に期待 機械学習はまだまだ進化しそうです。採用だけでなく、業務の評価面でも人間の感情が入ると、バイアスがかかって不公平な結果になることがあるでしょう。機械学習は今後の人事や社員教育に大きな利益をもたらしてくれると思います。ただ、その洞察を正しく判断して運用していただきたいと思います。機械に評価されるより、尊敬する上司に評価されたされたほうが、頑張れるような気がします。 機械学習は今後のコンピューティングテクノロジーの中心に位置する技術だと思いますが、映画『ターミネーター』の「スカイネット」のように、人間と対立する意志を持った自律型のコンピュータにならないようにしていただきたいと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • エビデンス・ベースト・エデュケーションとは

    「○○ベースド」という言い方をよく見るようになりました。やり方のベースとなるものを明示して、それに沿った方法に付けられる言い回しです。「アカウント・ベースド・マーケティング」とか「ピープル・ベースド・マーケティング」とかマーケティング分野でよく使われ、方法論のベースとなるものを明示することにより、コンセプトが明確になります。 今回のキーワードは、教育分野でも比較的新しいキーワードである「エビデンス・ベースト・エデュケーション」です。 目次 エビデンス・ベースト・エデュケーションとは 教育政策とエビデンス 医療の分野ではエビデンスは主流 最後に エビデンス・ベースト・エデュケーションとは 「エビデンス」は英語の「Evidence」を指し、最近はビジネスの会話の中でも普通に耳にするようになった言葉ではないでしょうか。意味は「(立証するための)証拠(物件)、物証、証言、証拠」です。IT業界などでは「効果測定のエビデンスを出してください」なんて言い回しがよく聞かれますが、統計データなどの科学的根拠に基づいて判断などを行うことを指すのが「エビデンス・ベースト(evidence based)」です。つまり、「Evidence Baced Education」は「エビデンスに基づく教育」ということです。 教育で統計データや科学的根拠といってもあまりピンとこないかもしれませんが、要は、「教える人の勘や経験上からではなく、数字や質的調査、研究に基づいて教育の内容や方法を作り出す」ということだと私は認識しています。 エビデンスに基づいた教育の必要性は、90年代のイギリスで主張され始めました。時代背景として、イギリスではブレア政権が「エビデンスに基づく政策」を推進したこともあり、教育研究でもエビデンスに基づく教育政策や、それを支えるための教育研究が広まったようです。 エビデンス・ベースト・エデュケーションの定義の一例として、2012年にEvidence Based Education研究会によって定義されたものが下記になります。 「入手可能な最良の研究調査・実践結果をもとにして、実践者の専門性と児童生徒及び保護者の価値観を統合させることによって、臨床現場における実践方法に関する意思決定の最善化をはかるための行動様式」 また、教育経済学者で・慶應義塾大学の中室牧子准教授による説明では、 ”エビデンス・ベースト・エデュケーションとは、科学的根拠(エビデンス)に基づく教育政策のことであり、データに基づいて教育を分析し、そこから得られた知見を政策に生かすという考え方である。端的にいってしまえば「どういう教育が成功する人を育てるのか」ということを、科学的に明らかにしようとしているのである。” と説明されています。 米国で実施されている具体例を見てみたいと思います。 教育政策とエビデンス 教育は、国や地域によってさまざまの方法があります。 細かく見れば、教師一人ひとりの考え方や、教え方にもよるでしょう。そこには各自の「主観」が大きく働いています。 その「主観」をもとに教育は行われますが、果たしてそれは本当に正しいのでしょうか? その教育による成功者は、他の方法より多かったのでしょうか? 人間の成功には、あまりにも多くの要因が影響しているため、一般化することはとても難しいです。たまたま、その生徒にマッチした教育だっただけかもしれませんが、それを証明することは教育の比較実験に消極的でデータの乏しい日本では難しいと思われます。 アメリカでは、教育経済学が活用されており、教育にかける予算などは行政府に厳しく管理されています。州などが新しい教育政策をやろうと思ったら、実験対処の一部の学校で社会実験を行い、そのデータから成果が出たら場合は、その方法に投資をしてスケールアップしていく方法がとられます。つまり科学的な裏付けがないと教育政策に予算はつけないというはっきりとした方針があります。 以前、米国で幼稚園と小学校で最適なクラスの規模を探る実験が行われました。 生徒数を10名以下の小クラス、13~17名の中クラス、22~25名の大クラスに無作為に分け、クラス分けの前と後で、テストを行い、その偏差を調べるといったものです。 この実験では、中クラス(13~17名)のクラスが一番良い成績でした。 教育学の常識的に考えると、少人数指導の小クラスが一番良さそうな気もしますが、実験の結果は中クラスが一番良かったんです。 そこで全米で、最適なクラスサイズは中クラスという基準ができました。もし、これが教育委員会や教育者の主観で提唱されていたら、小クラスになったかもしれせん。もっとも、小クラスは教員の人件費がかかりますので、費用的に中クラスになる結果だったのかもしれませんが。 ちょっと古い実験ですが、最近の実験では、iPodなどデジタル教育ツールの効果について実験した例があります。 実験では、iPadなどのタブレット端末を教科書にした児童と、本の教科書を使った児童のどちらが成績が良かったかを調べました。実験結果としては、両者に成績の差はなかったようですが、コスト的に数万かかるタブレット端末と、数百円の書籍と効果が一緒であれば、書籍のままになるでしょう。 この実験がなければ、時代の流れもあり、教育業者が進めるタブレット教材が購入されていたかと思います。結局タブレット教材のICT関係者はその後、改良と実験を繰り返し、タブレットの教育効果のエビデンスを証明していかなければならなくなりました。 このように米国では、生徒の偏差値を1ポイント上げるためにいくらコストがかかるのかを、教育経済学を使って分析し、それに基づいて教育が決められていくのです。 医療の分野ではエビデンスは主流 「エビデンス」とは、もともと90年代に医療分野で使われ始めた言葉です。そのため、エビデンス・ベースト・エデュケーションの説明では、似た方法論として医療の分野で使われる「エビデンスに基づく医療(Evidence Baced Medicine :EBM)」がよく紹介されています。エビデンス・ベースト・エデュケーション同様の訳で、「科学的に証明された根拠に基づいて医療を行う」と訳されます。 EBMには、「Evidence Baced Medicine :EBM の5ステップ」というプロセスが取られます。以下はその5ステップのプロセスを箇条書きにしたものです。 Evidence Baced Medicine :EBM の5ステップ Step1 問題の定式化 患者の問題をカテゴリに分類 患者の問題を「どんな患者が(Patient)」、「ある治療/検査をすると (Intervention / Exposure)」、「どうなるか Outcome」の3要素に定式化 患者中心のOutcomeの設定 Step2 情報収集 情報源の種類と特徴 適切な情報の検索 Step3 批判的吟味 治療の論文の批判的吟味 治療効果を表す指標と特徴 Step4 患者への適応 論文と実際の医療環境の違いを指摘できる 論文の内容を患者に説明できる Step5 中止と継続 うまくいかない場合は、そのプロセスを一旦中止 中止して、次の問題に取り組む 5ステップを整理するとこのようになります。 step 1:疑問(問題)の定式化 step 2:情報収集 step 3:情報の批判的吟味 step 4:情報の生徒への適用 step 5:step 1~step 4のフィードバック ここで大切なのは、根拠があれば何でも「エビデンス・ベースド」で効果があるわけではなく、自然科学の手法にのっとった研究手続きをどの程度踏んでいるかで、質の高い/低いというエビデンスの階層があります。エビデンスの質はとても重要なのです。 また、なんでもそうですが、実践だけでなく、理論だけでもなく、実践と理論の両方が連携していくことが重要です。エビデンスが証明されたからと言って、それが教育上正しいわけでもないので、そこには慎重な議論が大切です。 例えば、子供の教育効果の実験では、「親の経済力が子供の教育効果に影響がある」という実験結果が報告されています。しかしながら、経済力の低い親から子供を引き離して、エビデンスで証明された理想的な環境で育てることが、教育効果が高いからと言って「正しい」ことではありません。 また、先にあったイギリスのエビデンスによる教育改革では、教師の裁量が減ったことによる偏りや、テスト漬けによる悪影響などが問題となってもいます。やはり状況に応じて、実践と理論の両方がうまく連携していくことが大切なんですね。 最後に とは言え、データを正しいプロセスで取得・分析し、そこから導き出されたエビデンスによって施策を行うことは、一部の人間の勘や経験に頼るよりは信頼性は高いと私は思います。 それゆえに、今後の教育行政には「少人数学級」「タブレット端末教科書などのICT化」などはしっかりとしたエビデンスを取って実施してもらいたいと思います。私の経験上、様々な社会環境の変化に対応していくには、古い人間の勘や経験が追い付いていかないような気がします。 今注目されている統計学ブームに乗るわけではありませんが、結果が証明する事実に目を向けるのも大切だと思います。 企業における人材教育でも、こうした動きは顕著です。 e-Learningのシステム上のデータを利用した効果測定は常に行われています。このデータは科学的な実験ではないのでどこまで信用できるかはなんとも言えませんが、そういったデータ上の動きをトレースして、新たな教育手法がどんどん生まれてきています。 例えば、グループを2つに分けて、研修とe-Learningのブレンド具合を変えて、その効果を測定するなどです。これもその企業の業種やカルチャーにもよりますが、こうした実証実験をもとにした取り組みがもっと増えてくると、人材教育はどんどん面白くなってくるような気がします。 最後に米国の実証実験によりわかったエビデンスの一つに、「どの高校や大学にいっても、将来の年収に影響しない」というのがあるそうです。 なので、私もあきらめずに頑張りたいと思っております(笑)。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ソーシャルラーニングとは

    人材の流動化により、「あいつがいた頃はできたことが、今はだれもできない」という現象が起きている企業がけっこうあります。「ナレッジのマネジメント」ができていない結果だと思います。会社が大きくなり、拠点が広域化し、従業員の数や移動が多くなると、ますますナレッジのマネジメントは困難になります。 そして、社員の属人的なスキルや経験を、企業の財産として蓄積するという課題の解決方法として「ナレッジマネジメントシステム」が提案されてきました。 「ナレッジマネジメントシステム」のナレッジの収集・蓄積の手法として、「ソーシャルラーニング」がよく導入されます。 目次 ナレッジマネジメントの手法としてのソーシャルラーニング ソーシャルラーニングを組み込むことのメリット ソーシャルラーニングの成功事例 最後に ナレッジマネジメントの手法としてのソーシャルラーニング 社員の学習方法は、その提供者や方法により、「フォーマルラーニング」と「インフォーマルラーニング」という形で分けることができます。 「フォーマルラーニング」とは、「講師」と「受講者」の形で行われる研修や講習会(セミナー)、ワークショップなどで、所属する企業などが、自社従業員のためにカリキュラムを立てて、企画して行います。まさに、会社からの「公式」な学習です。当然、強制力も強めで、全体への浸透力もありますが、コストや、カリキュラムの立て方により、どうしても組み込めないスキルもあります。 対して、「インフォーマルラーニング」は「公式ではない」学習ということになります。具体的には、仕事中や休憩中に同僚や先輩との会話などを通じて行われる情報交換や、ネットでの質問箱なんてのもインフォーマルラーニングです。これらは学習内容や目標は自由で、時間や場所も決まっておらず、各個人で行われるため、会社としての情報の蓄積や共有が難しかったという経緯があります。 「ソーシャルラーニング」もインフォーマルラーニングの1つで、TwitterやFacebookなどのSNSや、ブログ、YouTube、Q&Aサイトといったソーシャルメディアを学びのツールとして活用する学習システムを指します。 フォーマルラーニングのように、「講師(教える側)」と「教えられる側」の役割を明確化・固定化した一方的な教育ではなく、参加者同士がネットワークを通じてインタラクティブに教え合うことで、インフォーマルラーニングは成り立っています。 この「ソーシャルラーニング」の仕組みを、企業における「ナレッジマネジメントシステム」に取り入れることにより、フォーマルラーニングでは行き届かないスキルやナレッジの共有を実現しようという試みが進んでいます。 ソーシャルラーニングを組み込むことのメリット 本来インフォーマルな学習方法であるソーシャルラーニングを、企業のeラーニングシステムに取り込むメリットとしては、以下の効果が期待できます。 汎用の教材にはない、会社カルチャーを反映したe-ラーニングができる 会社のカルチャーに沿った質問ができるので、具体的かつ、細かな意見を貰え、先輩やエキスパートの経験をシェアすることが可能です。これは汎用の教材ではできない、最大のメリットかもしれません。 不得意分野の克服が可能 フォーマルラーニングではしばしば、「置いてきぼり」や「何となくわかった気になる」といったことが起こりがちです。これはカリキュラムや講師の教え方、また、研修など1回しか機会がないなどの理由で起こりがちです。ソーシャルラーニングであれば、十分に理解しきれなかったという内容を質問し、いろいろな人の言葉で納得がいくまでやり取りすることで、学習の完成度がグッと上がります。 最新の情報について学べる どの会社でもアンテナを高く張って、最新の情報を持っている人物はいるのではないでしょうか。しかしながら、日常、その人物の知識を分けてもらえる人は、関わり合いのある、周囲のごく限られたメンバーになります。ソーシャルラーニングに参加してもらえれば、他の社員がその恩恵にあずかることができ、さらに触発されて、自発的に情報を収集、共有するモチベーションが育まれ、更なる活発化が期待されます。 代理学習として 代理学習とは、「何かについて知りたいが調べる時間がない。そういう時に誰かに振って、まとめてもらって学習する。」という考え方です。質問もある種の代理学習ではありますが、ここでの代理学習とは、より再利用や情報の蓄積を目的として、効果的に行われることが期待されます。プロフェッショナルとして役立つ形で情報収集しあい、そこから効率的に学ぶということです。 ソーシャルスキルやコミュニケーションスキルの上達 ソーシャルラーニングの核は、共有とコラボレーションによる学習です。課題やアイデアを話し合い、お互いに刺激しあったりする過程で、個人は自立性や自律性、相手の個性を尊重する柔軟性を養い、コラボレーションに欠かせないソーシャルスキルやコミュニケーションスキルを身につけられます。 ソーシャルラーニングの成功事例 ソーシャルラーニングは米国のIT企業などで積極的に導入され、成果を上げています。 有名な例ではGoogleの取り組みです。Googleは、「社員一人ひとりがイノベーションへの貢献者であれ」と位置づけ、新しい製品・サービスや会社の改善などのアイディアを、全社員向けのイントラネット上で積極的に投稿させています。世界中の社員がそのページを閲覧し意見を交わすことで、アイデアはより効率的にブラッシュアップされ、実際にいくつものサービスがリリースされました。 会社のカルチャーをナレッジマネジメントする手法としては、インテルの「インテルペディア」も有名です。これはインテル版Wikipediaで、社内の膨大な情報量の共有と活用を目的に、社員によって自発的に構築されました。 最後に 日常的に行っている何気ない学びの習慣をナレッジマネジメントの手法として取り入れたソーシャルラーニング。効果は知識習得だけではなく、学びの過程、つまり相手とのやり取りの中で培われるソーシャルスキルやコミュニケーションスキルの上達にあります。 何よりも、お互いに意見を出し、刺激し合うことで、仕事に対するモチベーションや、同僚とのコラボレーションの意識、つながりが強固になります。 イノベーションの創出やパフォーマンスの改善は、フォーマルラーニングの様な決まった学習内容からは生み出されないのかもしれませんね。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • 「ソーシャルラーニング」から「アダプティブラーニング」へ

    オンライン学習というのは、物理的に「独学」だったので、素朴な疑問や難易度の壁にぶつかったり、集中力が途絶えしがちでした。このオンライン学習のデメリットを改善すべく、学習者をどうやってエンゲージ(引き込む、注意を引く)させていくかが、近年のEdTech(教育テクノロジー)のテーマの1つです。そして、その方法の1つに「ソーシャルラーニング」という手法があるということは前回ご説明しました。 今回は、「ソーシャルラーニング」がさらに発展した「アダプティブラーニング」についてご説明します。 目次 「フォーマルラーニング」から「インフォーマルラーニング」へ 「ソーシャルラーニング」の現状 ソーシャルラーニングをからアダプティブラーニングへ 学習ログをなるべく蓄積する アダプティブラーニングの仕組み アダプティブラーニングの代表的なサービス 最後に 「フォーマルラーニング」から「インフォーマルラーニング」へ ソーシャルラーニングの前に、フォーマルラーニングとインフォーマルラーニングという言葉のおさらいをします。 学校なり、会社の研修なり「先生が固定された場所で授業を行い、生徒がそれを受ける」形の学びを、「フォーマルラーニング(=公式な場所での学び)」と呼んでいます。フォーマルラーニングは強制力の伴うものが多いです。 対して、同僚同士の教え合いや、インターネットでのQAサイトでの質問など、「特定の講師と生徒という関係性なしに、教え合う」形の学びを、「インフォーマルラーニング(=学校では教えてくれない非公式な学び)」と呼びます。インフォーマルラーニングは自主的に行われるものがほとんどです。 そして、インフォーマルラーニングの顕著な形としてあるのが、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを使ったインフォーマルラーニングで、これを「ソーシャルラーニング」と呼んでいます。 フォーマルラーニングは「単位」「学位」「スコア」などで、就職・転職など、社会に評価されてきましたが、「学費」がかかるため、全ての人が受けられるものではありませんでした。 インターネットが普及することで集合知にふれることも簡単になり、「ソーシャルラーニング」を使いこなして、学習していこうという動きが広がったのです。 「ソーシャルラーニング」の現状 TwitterやFacebookなどのSNSや、ブログ、YouTube、Q&Aサイトといったソーシャルメディアを学びのツールとして活用する学習システムの総称を「ソーシャルラーニング」と呼んでいます。教える側と教えられる側の役割を明確化・固定化した一方的フォーマルな教育ではなく、参加者同士がネットワークを通じてインタラクティブに教え合い、学び合うインフォーマルな形態が特徴です。 そして、ソーシャルラーニングをメイン事業として取り組む企業や、ソーシャルラーニングの仕組みを利用した学校も登場しています。 現在もソーシャルラーニングの波は拡大していて、無料の動画配信形式のサービスが次々立ち上がっています。中でも、様々なジャンルの達人が講師を務める「SCHOO(スクー)」や、無料で学べる大学講座「gacco(ガッコー)」といったサービスが注目を集めています。 このように、個人が自分で選んで適した教育を受けられるのが、ソーシャルラーニングの大きな魅力です。そして、このソーシャルラーニングの「ソーシャル」な部分を、個人の学習の最適化に取り入れたのが「アダプティブラーニング」です。 ソーシャルラーニングをからアダプティブラーニングへ 「アダプティブラーニング」を日本語に訳すと「適応学習」と言われます。もっと平たく言うと、「個人に最適化した学習」という意味になります。 古来、学校は「集団一斉・同時進行していく学習」を続けてきました(フォーマルラーニングの典型)。進度はクラス単位で進むので、個人の疑問は放置されることもあり、必ずしも「個人に最適化」していたとは言えません。アダプティブラーニングは、そうした「一斉学習」に反して、「各学習者に応じて適切な内容、適切なスピードで進める学習モデル」のことを指します。つまり、教材を各生徒それぞれのニーズ、特徴、理解度に合わせてカスタマイズして学習できるのです。 アダプティブラーニングのキーワードは「ログ」「最適化」「ソーシャル効果」です。 (1)「ログ」が取れる ICT(情報通信技術)の進化により、ノートはタブレットに変わりつつあります。そして、そうしたツールを使うことによって、学習進度のログをデータを分析し、得意不得意が視覚化され、解答速度などで幅広くデータを蓄積することで、能力のチェックや学習進度が明確にわかるようになります。 (2)学習方法が「最適化」される アダプティブラーニングなら学習レベルだけでなく、学習方法についても最適化が可能になります。その秘密はその人に合わせ学習分析の「アルゴリズム」です。 (3)学び合う「ソーシャル効果」 単純な成績の競い合いもできるし、わからない問題に対して相互学習も可能です。独習もOKですが、「学び合う」というの一番のポイントです。 学習ログをなるべく蓄積する (1)については、eラーニングの強みとデバイスの進化の当然の流れと思います。スマートフォンやタブレットが個人の持ち物となったことにより、学習はパソコンの前に座って行わなくても良くなり、今までノートや紙に書いていて、データとして取り込まれなかった情報も取れるようになりました。②の学習の「最適化」を精密にする為には、いかに「ログ」を貯められるかにかかっています。 アダプティブラーニングの仕組み (1)で得られた「学習過程で得られる大量のログ(データ)」をベースにして、独自のアルゴリズムと組み合わせながら、個々の生徒に対して適切なコンテンツを提供していく「最適化」を、システムで実現するのがアダプティブラーニングのメインモデルです。これは学習の効率を上げる手段でもあります。 最適化アルゴリズムは、学習を続けていく中で蓄積されたログを分析し、弱点を明確化、常に適切な教材コンテンツを提供していきます。そのためには、知識や思考ののパズルを隙間なく埋められるように、コンテンツも細かく体系化される必要があります。 また、教材コンテンツも、文書ベース、映像ベース、コミュニケーションベースなど様々なタイプから、「これを学ぶには映像が一番」などの選定もしてくれます。 そして、さらに「ソーシャル効果」を利用し、教材だけではわからない部分のフォローや、独習では長続きしない学習を、学び合うことで長続きさせます。 このほかにも、コミュニケーションを円滑化するためにアバターなどのを取り入れたり、競争意識を煽って楽しんで学習させるゲーミフィケーションのエッセンスを取り入れたアバプティブラーニング製品も登場しています。 アダプティブラーニングの代表的なサービス 普及ベースに入っているものは、アメリカ発のサービスが中心ですが、日本のベンダー提供のサービスも徐々に増えています。現状は学校・学生向けサービスが中心ですが、個人的に学習のペースが取りにくい、社会人の教育にもかなり有効だと感じています。下記サービスを企業内教育に取り入れる企業もあるようです。 Knewton 「Continuous Adaptivity(継続的なアダプティヴィティ)」を収集し、個々の学力や理解度と学ぶべき対象をマッピングし、その個人に最適な道筋を示すシステムが導入されています。 「インプットが変わればプロセスも変わり、アウトプットも当然変わる」。これに対応し、学習進度によって可変していくというのがknewtonです。大量のクオンツ専門家を抱えてアルゴリズムを開発しています。 fishtree アメリカ発のアダプティブラーニングシステム。 2015年1月にリクルートが出資したというリリースが流れ、日本でも大きく話題になりました。 Fishtree Inc.は「同じ教材を全ての生徒に」ではなく「一人ひとりの生徒に合った教材を」というビジョンを掲げています。fishtreeはアメリカや韓国ではすでに多くの学校法人に導入されており、これからの成長が見込まれていますね。また、ソーシャルラーニング機能も強く、生徒間・先生間・生徒と先生間もコミュニケーションを促進してくれます。 RICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space) 2014年5月より立命館守山が現在進めている日本初のアダプティブラーニングプロジェクトのひとつ。 蓄積された学習記録・行動履歴をポートフォリオとし中高大一貫教育で共有化する、つまりログを活用するということですね。 すらら 株式会社すららネットによる、小学校高学年から高校生を対象とした「対話型アニメーションe-Learning教材」です。 「すらら」の優れたところは、アニメーションで動くキャラクターを介して、生徒一人ひとりのドリルの理解度や正答率に応じて、学ぶべき単元や問題の難易度を調整し、その生徒に最適な問題を出題するシステムにあります。 最後に 現在、アダプティブラーニングのシステムは各ベンダーが試行錯誤しながら開発している状況です。既にリリースされたものも、アルゴリズムの完成度の高いものは少なく、改良が続けられています。逆に、ソーシャルラーニングのサービスは今が旬な感じもします。もともとソーシャルラーニングについては、10年以上のベースとなるソーシャルツールのノウハウのもとに作られているので、サービス化までのスパンが比較的早かったような気がします。 対して、アダプティブラーニングは、独自の適応化アルゴリズムが鍵なので、今の所いろいろな手法を試し、効果の高いモノを見つけていく段階に思えます。また、ちょっと前に流行った「ゲーミフィケーション」の要素も、アダプティブラーニングに取り入れられています。また、「MOOC(Massive Open Online Courses)」においてもKnewtonなどアダプティヴラーニング(適応学習)の仕組みを取り入れる動きが広まっています。 効率的で楽しんで学習できるアダプティブラーニングサービス。今は学校や生徒向けのが主流ですが、弊社も含めて、ビジネスシーンでの展開を進めているところも多いのではないかと思います。今後の進化に注目です。 お読みいただきありがとうございました。

  • マインドセットとは

    人材育成の仕事をしていると、「マインドセット」という言葉をよく使います。 業界内的には、「日本語として通用する英語」と思ってそのまま使っているのですが、ちょっと業界から外れると通じてないと感じることがあります。 今回はこの「マインドセット」という言葉の意味と、人材教育的な面での意義を、もう一度考えてみたいと思います。 目次 マインドセットとは 成功するマインドセット リーダーに求められるマインドセットと企業におけるマインドセット教育 企業(組織)のマインドセット マインドセットを変えるマインドセット教育 成功するためのマインドセットを育む7つの習慣 最後に マインドセットとは 「マインドセット」とは、その人の経験や受けてきた教育などから形成される考え方の癖のようなものだと思います。 「マインドセット(mindset)」という英単語の意味を辞書で引くと、「1. 〔人の固定された〕考え方、物の見方」「2. 〔人の〕好み、習慣」と説明されています。 2つ目の「習慣」が表すように、「その人の行動や思考のパターン」と言った「無意識にやってしまうこと」なのです。 例えば、マインドセットの違いが現れるケースとして、「失敗した時にどのような思考・行動をする傾向があるか」というのがあります。 トーマス・エジソンは、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの“上手くいかない方法”を見つけただけだ」と言う名言を残しています。エジソンは、「1万回も失敗したから成功する方法は存在しないんだ」と考えるのではなく、「上手くいかない方法を1万通り発見できた」と考えました。この例でいえば、マインドセットは「思考や行動の傾向性」でもあるかと思います。 こうした人の意識や心理状態は、多面的な様々なマインドの「セット」として表現したものがマインドセットです。 したがって、価値観、先入観、信念、暗黙の了解事項、無意識の思い込み(パラダイム)、陥りやすい思考回路などがマインドセットの中に含まれます。 このマインドセットは、その人の職務に必要な知識や技能を明確に意味づけるのに役立つため、人材育成のテーマとしてよく選ばれます。なぜなら、同じ知識や技能を学ぶにしても、その意味や目的を意識するのとしないのとでは、結果に大きな違いが出るからです。 では、仕事に役立つマインドセット、ここでは「成功するマインドセット」と呼びますが、それがどういったものかを考えてみたいと思います。 成功するマインドセット 成功する人としない人の違いは、マインドセットの違いであると、スタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエック博士は著書でベストセラーとなった『マインドセット「やればできる!」の研究』の中で述べています。 ドゥエック博士は「成長志向のマインドセット」の研究の第一人者です。博士はマインドセットの例として、「解決するにはちょっと難しい問題」を提示されたとき、人間は2種類の思考パターンに分かれると説明しています。 1つは「自分は解けるほど頭が良くない」というあきらめの気持ちを持つ人。もう1つは「まだ解けていないだけ!」というチャレンジや期待を持つ人です。 以前「グリット(Grit)とは」で説明した通り、マインドセットのタイプとして「グロース(成長志向)マインドセット」と「フィックスト(固定的)マインドセット」があります。 常に向上心を持って、ある種の楽観的な部分を持ち合わせて、失敗にもへこたれないタイプが「グロース(成長志向)マインドセット」でした。グロースマインドセットを持ち合わせた人には成功者に多く、他人の評価ばかり気になって、変わらない価値観やこだわりが強い「フィックスト(固定的)マインドセット」の人の中には成功者が少ないといわれています。 マインドセットについて「靴のセールスマン」という有名なたとえ話があります。 靴メーカーで働く2人の営業マンがいました。彼らは上司から「アフリカでの靴の市場調査をしてきてくれ」という命令を受けます。 彼らがアフリカに着いて人々を見ると、靴を履いて生活する習慣をもっておらず、ほとんどの人が裸足ででした。 この状況に2人の営業マンは同じように驚き、上司へそれぞれ別に報告します。 一人の営業マンは上司に対して 「アフリカでは誰も靴を履いていないため、靴の需要はなく販売は困難です。」と報告しました。 もう一人は 「みんな裸足で生活しており、今なら市場を独占できる絶好のチャンスです!」と答えました。 後者は成功を引き寄せることができるグロース・マインドセットを持つ人の発想で、前者はフィックスト・マインドセットであることがわかる事例です。 非常に有名な逸話ですのでご存知の方は多いでしょうが、恐ろしいのは日常において判断を迫られたときに、知識として持っていても、私たちは無意識のうちにマインドセットの影響を受け、自分の人生を決定していることです。 この無意識の判断がマインドセットの根本であることを意識し、改善していけばおのずから成功に近づけます。 問題を効果的に解決できるか、シビアな交渉事や対立を粘り強く乗り越えられるか、そうした点で成長志向のマインドセットを持つ人のほうが勝っており、かつ倫理観が高いこともわかっています。 思考パターンを変更することは簡単なことではありませんが、脳の処理能力の一つですので「やればできる」「必ずできる」ものだとドゥエック博士は説明しています。 “偉人の「名言」に現れるマインドセット” マインドセットは「言葉として言い表されるもの」ではなく、あくまでも「その人の行動や思考のパターン」ですが、発言した言葉の中に現れていることがよくあります。いくつかご紹介いたします。 「成功と失敗の一番の違いは途中で諦めるかどうか」 ~スティーブ・ジョブス 「失敗とは成功する前に止めること。成功するまで続ければ必ず成功する」 ~松下幸之助 「大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない。」 ~アルベルト・アインシュタイン 「漠然とした不安は、立ち止まらないことで払拭される」 ~羽生善治 「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない。」 ~王貞治 リーダーに求められるマインドセットと企業におけるマインドセット教育 成長志向のマインドセットが組織にプラスに働くと言われる理由は、マインドセットが周囲にいる人にも伝染するからです。例えば、上司やリーダーのマインドセットは態度などで部下などに大きく影響します。 リーダーになる人には「リーダーシップ」がないといけません。リーダーシップは、命令や指示を出すのではなくリーダー自らが行う行動で、部下や後輩を導くことが大切です。 「リーダーに必要とされるマインドセット」として、次の4つがよく挙げられています。 変化 率先 指導 倫理と思考 この中でその人が意識を変えることで実行しやすいのが「変化」と「率先」です。 自分が変化し、率先して物事に取り組む姿勢は、他の人の心を動かします。例えば「難易度が高い仕事を率先してやってみせる」とか、「新たなビジネスやプロセスを積極的に取り入れる」などをリーダー研修に取り入れて、リーダーや社員のマインドセットを改善していけば、その組織は活性化し組織そのものの成長につながるはずです。 企業(組織)のマインドセット 組織のマインドセットとは、その組織構成や歴史を背景に、企業戦略、経営理念や経営ビジョン、製品やサービスの方向性などを指します。つまり、企業の意思決定のうえで重要な役割を担っており、今後の達成目標や対象とする相手、利用できる手段等を定める際の指針となるものです。 組織のマインドセットを形成する要素として代表的なのは、以下の3つです。 製品特性、事業特性 戦略、ビジョン、企業理念 企業が経験してきた出来事 「製品特性、事業特性」の例でいえば、業態や取り扱う商品によっては、近年販売サイクルや新商品開発のスパンが短くなり、意思決定のスピードを早くする必要があります。そのため、内部の人間にはリスクや意見対立を恐れない組織文化が求められます。 「戦略、ビジョン、企業理念」は経営者やリーダーが率先して明確でわかりやすいビジョンを作り、組織に知らしめることで、その組織がそのビジョンに沿って行動すべく強固なマインドセットを形成するようになります。 「企業が経験してきた出来事」はわかりやすいと思います。事故や業務上のトラブルが原因で、それまでのマインドセットのありかたを失ってしまったり、方向性が真逆になったりすることがあります。ベンチャー時代、若いメンバーで構成された企業が、素早い意思決定で素晴らしい製品をたくさん作っていたとします。しかし、若さだったり経験だったり意思決定が速すぎたりして慎重さを欠いた結果、対外的に信用を落とす事件を起こしてしまうこともよく聞きます。そのことが原因で、その経営者が慎重になりすぎ、以前ほどのスピード感を保持できなくなるかもしれません。こうなると企業としてのマインドセットは変化してしまいます。 マインドセットを変えるマインドセット教育 マインドセットとは思考パターンや行動様式ですが、端的に表現すれば「考え方のクセ」と言えます。「クセ」となると、なかなか直すのが難しい感じですが、ドゥエック教授によると「簡単ではないが、教育でマインドセットを変えることはできる」と説明しています。 例えば、マインドセットを「成長志向のマインドセット」に変えたい場合、いくつかの決めごとを意識的に実行していく姿勢が大切です。そのために「PDCAサイクル」に当てはめて実行していくのが効果的と言われています。 ※PDCAサイクルとは生産管理を行う上での手法です。 Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のサイクルで安定かつ安全に生産を行えます。 PDCAサイクルを使ってマインドセットを変えるのに必要な5つのステップ 目標や望む姿を言語化してみる 漠然としたイメージをできるだけ明確なビジョンとして言語化し、意識に定着化します。その時にできれば時間軸まで考えてより具体化して言語化します。 記録する 言語化したビジョンを日々書き記すことで最初の気持ちを意識し続け、自己に定着させる効果があります。これには日記が最適です。その日の行動を振り返り、評価し、改善点を考えるというPDCAを実践します。 フィードバックをもらう クセは無自覚に行ってしまうものなので、自分では気づかないものです。何か目標を立てたときには周囲にチェックしてもらうように頼んでみるといいようです。考え方のクセが治ってないようであれば、周囲から指摘してもらうようにしましょう。 目標に沿って軌道修正をする 実践を続けていけば、目標は現実に近づいていき、より高度なものへ目標も成長していきます。しかし、それが高すぎると現実の状況に合わなくなることもあると思います。あまりこだわりを持たずに、現実に合わせて少し軌道修正を行う姿勢が大切です。 “マインドセットを変える際の注意点” 「年寄は頑固」と言いますが、マインドセットは年月を経るほどに強固なものになるものです。 個人の中で凝り固まってしまったマインドセットを、急激に変えようとするとストレスを感じてしまいます。ある程度の適度なストレスは成長を促すとは思いますが、過度なストレスは自己否定や挫折につながり、逆にコチコチのフィックスト・マインドセットになっていしまう可能性もあるようです。 マインドセットを変える際は、自分の気持ちと相談しながら徐々に実践し、逆効果とならないようにすると良いかと思います。そして、こうした変化は「一生続くものなのだ」と受け入れ、成長を止めない意識付けも必要です。 また、組織のマインドセットを変える場合は、ある程度の時間をかけないと現場が混乱します。組織の人員は、既にそれまでの経営者やリーダーの影響を受けていることを考慮して、現場が混乱しないように慎重に進める必要があります。 成功するためのマインドセットを育む7つの習慣 良いと思ったら、やってみよう 良いとを頭で理解していても、実際に「やる」ところまで行かないものです。良いと思うことを、継続的に実践できる人の中から成功者が生まれるのです。 どうしたらできるか?を考えよう 新しいことをスタートする時や、物事がうまくいかないときにどう考えるかというのは、マインドセットの典型的な事象です。 「時間がないからあきらめよう」「失敗をしたら迷惑をかけるのでやめておこう」と、ネガティブに考えてやめてしまっては成功できないのは当然です。成功をつかむためには「うまくいくためにどうしたらできるか」「どうしたら前進できるか」と前向きに考えるべきです。 失敗を恐れずに取り組む 失敗を恐れるあまり、行動を抑制してしまうとうまくいかないものです。失敗を恐れず行動を続けるためには、思考を変えるコツがあります。 それは「成功とはなかなか手に入らないもの」だと認識し、「今うまくいかない結果は、成功の途中経過であり、成功につながるヒントだ」と思うことです。また、他人の評価は気にせず、自分の中でぶれずに行動を起こし続けることで成功につながります。 「すぐにやる」習慣をつける 「すぐにやる」というのは、どの成功者も口にします。「とっととやる」ことで機会損失を減らし、解決でき得る問題点を早く片付けることができますので、成功までの間にある障壁を一つでも少なくすることができます。考える前に行動を起こすことを嫌う人もいますが、考えてしまうとリスクばかり気になってやめていがちなので、すぐにやる人の方が、結局何もしない人よりも確実に成功に近いと言えます。 学びと成長に貪欲になろう 近年のビジネスシーンの変化の速さに対応するには、この「常に学びや成長を求める」という姿勢が不可欠です。そして、その姿勢を貫くためにも、楽しみながら試行錯誤を繰り返し学び続けることが大切です。この学び続け、成長を実感しながら積み重ねることが、他の人との「差」となり、成功へ近づくのです。そのためにも、必要な新たな学びのための時間やお金の投資も惜しむべきではありません。 「やる」だけではだめ、「やり抜く」ことが大切 「継続は力なり」という言葉が示す通り、一度始めたことをやり抜くことができる人はあまり多くなく、そこに成功者との「差」が生じています。④「すぐにやる」というマインドセットと同様に、「やり抜く」というのもセットで身に付けましょう。 その為には、⑤の成長に貪欲になるということと、③の失敗恐れないというマインドセットが大切です。 また、やり抜くには情熱も大切な要素です。情熱が持てることでなければやり抜くことは難しいでしょう。 自分の人生に責任を持とう 成功するためには、自分の中に「軸」を作り、責任を持って判断し、行動することが非常に大切です。周りの人の評価や批判的な意見は大切にすべきことですが、あまりにとらわれ過ぎて、二の足を踏んだり、続けられなかったりすると大きなマイナスです。成功をしたいのは自分自身ですし、行動をするのも自分なので、すべての責任は自分に返ってきます。そのうえで、自分を信じて行動することが成功には大切な要素なのです。 “(参考)ヒンズー教の教えに見るマインドセット” ヒンズー教の教えにある下記の一文は、まさにマインドセットの大切さを表現していると言えます。 心が変われば、態度が変わる。 態度が変われば、行動が変わる。 行動が変われば、習慣が変わる。 習慣が変われば、人格が変わる。 人格が変われば、運命が変わる。 運命が変われば、人生が変わる。 この「心」を「マインドセット」として言い換えればいいわけです。マインドセットが変われば、思考と感情のパターンが変わり「態度」として現れ、そこから生じる「行動」が変わるのだと。「行動」が変わり続ければそれは「習慣」であり、様々な変化を生み出して、最終的には「人生」が変わっていくのだということですね。 最後に 意識高い感じのするマインドセットという言葉は、人によっては「なんか胡散臭い話」のように感じるかもしれません。しかし、マインドセットを「思考と感情のパターン」と理解し、自力で変えるのだという強い気持ちを持って取り組めば、その努力は最終的に「人生そのもの」を変える可能性もあるのだという事ではないでしょうか。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • ラテラルシンキングとは

    ビジネスの世界では、論理に沿う筋道をしっかり立て、ものごとを深く掘り下げる「ロジカルシンキング(論理的思考)」がもっともスタンダードな思考法として、長い間求められてました。そのため、弊社の教材ラインナップでも、ロジカルシンキング関連の教材は豊富です。ロジカルシンキング以外にも「クリティカルシンキング」なども教材化されています。 しかし最近では、これらの思考法よりも、「ラテラルシンキング」が「新たな発想やイノベーションを生み出す」と話題になっています。 今回は、このちょっと風変わりな「ラテラルシンキング」についてまとめてみたいと思います。 目次 ラテラルシンキングとは ロジカルシンキングとの違い ラテラルシンキングを組み合わせることによりメリットが生まれる ラテラルシンキングの例題 ビジネスでの事例 最後に ラテラルシンキングとは 英語「ラテラルシンキング(Lateral thinking)」は「水平思考」と訳されます。 1967年にイギリス人の医師エドワード・デボノが提唱した思考法で、彼の定義によれば、ラテラルシンキングは「どんな前提条件にも支配されない自由な思考法」であり、「思考の制約となる既成概念や固定観念を取り払い、水平方向に発想を広げる」という意味合いからラテラル(水平)という言葉が使われたようです。 ラテラルシンキングの定義を簡潔に言えば、「前提を無くして、水平方向に発想を広げる思考法」です。その自由な発想が斬新で、ユニークなアイデアや発想を思い浮かぶのに向いていると言われています。この斬新でユニークな発想でイノベーションを起こしたり、すでにあるものを組み合わせて新しいアイデアを生み出すといった発想が生まれやすくなるのでしょう。 ロジカルシンキングとの違い ラテラルシンキングとロジカルシンキングは相互補完の関係にあり、組み合わせることで思考の幅も広がると言われています。 では、ロジカルシンキング(論理的思考)との違いは何なのでしょうか?簡単にロジカルシンキングのおさらいをして見たいと思います。 ロジカルシンキング(論理的思考) ロジカルシンキングは「論理的思考(logical thinking)」ともいわれ、理論的に決められた枠組みに当てはめて、筋道立てて問題の解決策を生み出す技法のことです。 ラテラルシンキングとの違いは、キモである思考の前提と、考えを進める過程にあります。 ロジカルシンキングは、別名「垂直思考」とも呼ばれるように、既成の概念をもとに、論理に沿う筋道をしっかり立て、垂直に深く掘り下げるので、論理的に正しい結論は1つになるようになっています。 具体的には、思考プロセスが「前提」→「推論」→「結論」という筋道を辿ります。 まずは「A」という前提を置き、その後「AだからB」「BだからC」という推論を辿った結果「結論はCである」という答えに辿り着くのです。 したがって、ロジカルシンキングは前提(=A)の置き方次第で結論が変わってしまいます。そしてロジカルシンキングはA(=前提)そのものの置き方を教えてくれるわけではなく、思考するものが自分で設定しなくてはいけません。 一方、ラテラルシンキングは既成概念をいったん捨てて、多角的な視点と自由な発想で創造的な問題解決を図るので、結論は1つではなく、いろいろ出てきます。つまり「前提(=A)の置き方」に着目し、前提そのものを覆す発想をすることで、これまでにない新しいアイデアを生み出そうとする思考法なのです。 クリティカルシンキング(批判的思考) 「クリティカルシンキング(critical thinking)」は、別名「批判的思考」と言われるように、まず「本当にそうなのか?」と疑ってかかるところから始まる思考法です。思考する前提や過程、論理に渡って真偽を問い続けながら思考していくのです。 クリティカルシンキングではものごとの対し、常識や倫理に従い「これでいいのか」「本当にそうなのか」と問いかけながら思考を進めていくので、固定観念にとらわれた思考プロセスを踏むのが特徴です。 対してラテラルシンキングは、既成概念や常識の枠を外して、「なんでもあり」で多角的にとらえて自由に思考します。 ラテラルシンキングを組み合わせることによりメリットが生まれる ロジカルとラテラルは相互補完の関係、クリティカルで精度を高めると言われています。両者は特徴が異なる思考法であり、それぞれ強みを発揮できる分野が異なるからです。 既に説明した通り、ロジカルシンキングは筋道のある現実に即した問題解決に強みを発揮する思考法、ラテラルシンキングは「今までにない新しい発想や問題解決」に向いています。 そのため、まずはラテラルシンキングで幅広く思考し、次にその中からロジカルシンキングで正しい1つの結論に導く形で活用することで、思考法として相互補完することができると奨められます。そして最後の確認に、クリティカルシンキングで今一度疑って考える事で、精度の高い結論に導くことができるのです。 ラテラルシンキングの例題 では簡単な例題を用いて、ラテラルシンキングの思考を体験してみたいと思います。 まず、ラテラルシンキングの説明で定番で使われる「オレンジの分け方」という例題をご紹介します。注目して欲しいのは、使う思考法によって解答例が異なっていることです。 クイズのようなものなので、ご自身でも考えてみてください。 例題1「オレンジの分け方」 “3人の子供に13個のオレンジを公平に分けるにはどうしたらいいでしょうか?” いかがでしょうか?ご自身の考えはまとまりましたか? この例題を「ロジカルシンキング」で考えた場合、こんな感じの解答例が出るかと思います。 ロジカルシンキングでの解答例 解答例1:オレンジを1人4個ずつと残りの1個を、3等分に切り分けて与える 解答例2:1人4個のオレンジの重量を計り、残りの1個を1人当たりの総重量が同じになるように切り分けて与える これらの解答例は、「今すぐ分け与えなければいけない」、「公平に分けなければいけない」といった常識を前提に論理的に考えられた結論です。 前提としての常識や枠組みは「数や重さで均等に分けなければいけない」という点になります。 それでは、ラテラルシンキングで考えた場合の解答例をご紹介します。 ラテラルシンキングでの解答例 解答例3:オレンジをジュースにして3等分する 解答例4:オレンジを1人4個ずつ分け、残り1つの種を植えて実ったオレンジを同じ数ずつ分ける 何ともユニークな解答ですね。「そんなのありかよ!」と言いたくなります。 これらには、先の2点の解答にあったような「前提」がなく、「オレンジをミキサーでジュースにする」という新しい方法と、時間的制限をなくして「将来的に」という自由な発想から結論を導いています。 こうしたラテラルシンキングの特徴として、以下が挙げられます。 ラテラルシンキングの特徴 思考するときに既成概念や常識、固定観念といった前提を意識的に排除してから進める 結論を導く過程は問題にしないため、ひらめきのような一気に結論に辿り着く場合もある 問題解決になれば、どれも正解として複数の結論があっても良しとする(最終的にその中からベストを選べば良い) 既成の枠を取り外して思考するため、今まで思いつかなかったような結論を導くことができる 実行した結果、大きな成果が出る場合と出ない場合がある もう1問、有名な問題があります 例題2「アイスクリームとゴミの問題」 “あるテーマパークでは、アイスクリームを販売しています。 アイスクリームはよく売れていますが、食べた後のカップやスプーンが付近の芝生に捨てられることが多く、テーマパークは頭を悩ませていました。 良い解決策を考えてください。” ロジカルシンキングであれば、「ゴミ箱をたくさん設置する」などの解決策をイメージしたかもしれません。 しかしこの例題で用意されているラテラルシンキング的な解答は、まさに目からうろこです。 ラテラルシンキング的な解答例 「カップ自体も食べられるようにする(またはソフトクリームにする)」 実は、これはソフトクリームの誕生秘話としてよく語られるエピソードなんです。 実話ながら、ラテラルシンキングの「問題設定を疑う」を実行しています。 事実として、売上が上がれば上がるほどカップとスプーンは多くなり、ゴミ箱はあふれ、問題の規模が大きくなってしまいます。つまり、通常の「ゴミ箱を設置する」という解答は、根本的な解決にいたりません。 であれば、問題設定そのものを疑い「そもそもゴミが出ない売り方をするには?」という「問題設定の転換」が思考の過程でできれば、「ゴミの出ないソフトクリームを売る」という発想が出てきやすくなると思います。 現実問題として、コストの面でも、ソフトクリームを開発できればそもそもゴミがでないで、ゴミを回収するコストやゴミ箱設置のコストも不要になります。さらにソフトクリームの売上がどれだけ上げっても、そもそもゴミが出ない以上、ゴミに関するコストは考えなくてよくなります。つまり「ソフトクリームを売る」という発想は「ゴミ問題」の根本解決になったのです。 ビジネスでの事例 ソフトクリームの例の他にも有名な話があります。例えば、任天堂の「ゲームウォッチ」は「ラテラル・シンキングの産物」と言われています。 「ゲームウォッチ」は私の子供時代の人気商品でした。私も「パラシュート」「ドンキーコング」などを持っていて、近所の子供と貸し借りして遊んだものです。また子供だけでなく、サラリーマンにもよく売れた商品です。その後「ゲームボーイ」や「ニンテンドーDS」などの「携帯(ポータブル)ゲーム機」に進化して、任天堂に多大な利益をもたらしたのはご存知の通りです。 ゲームウォッチ開発の、どこがラテラルシンキングポイントかというと、「液晶を利用したこと」です。 当時は液晶の利用先は主に電卓くらいでした。液晶を生産していたシャープ社内では「液晶の新たな転用先」を探していました。 一方、のちに任天堂のレジェントと言われる、横井軍平氏(当時は開発第一部部長)は、新幹線の車内で電卓を叩いて暇つぶしをしている人を見て「暇つぶし用の小さなゲーム機が作れないものか」と思いついたそうです。当時のゲーム機は「テレビにつないで使うもの」というイメージもありました。 その「液晶の新たな転用先」と「ゲーム機の小型化」というテーマが出会うことによって、後に1000万台以上売れることになる小型携帯ゲーム機が生まれました。 また、ゲームウォッチの大ヒットに伴い、横井氏の哲学である「枯れた技術の水平思考」という言葉も、ラテラル・シンキングの特徴を表す言葉として有名なものとなりました。 最後に これまで主流だったロジカルシンキングの発想だけでは、他社との差別化が難しくなってきました。今後は、ラテラルシンキングによる斬新な発想で、競争に勝ち残るイノベーションを起こす必要性がますます高まっています。 企業戦略として、新たな方向性を見出してイノベーションを起こしたい場合だけでなく、これ以上の成長が見込めないような飽和した成熟市場においても、水平思考によるあらたな活路が見いだせるかもしれません。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • リカレント教育とは

    今回のコラムのテーマは「リカレント教育」です。キャリアアップに必要なスキルを身につける方法として、「リカレント教育」が非常に注目されています。企業にとって、社会人経験を経てからの「リカレント教育」は、学習効果による自己成長が仕事に直結するというメリットがある反面、制度的な調整が難しく、実施に踏み切れていない企業も多いようです。 今回は、「リカレント教育」の概念の説明と、その具体的事例をご紹介します。 目次 リカレント教育とは リカレント教育のメリット 欧米のリカレント教育 日本のリカレント教育の課題 日本のリカレント教育の施策 最後に リカレント教育とは 教育は人生の初期(義務教育)だけで終わるのではなく、生涯に渡って続けていくことが大切で、必要に応じて個人が就労と学習を交互に行うことが望ましいと言われています。「リカレント教育」とは、広義で言えば、「社会人になってからも、学校などの教育機関に戻り、学習し、また社会へ出ていくということを生涯続けることができる教育システム」のことを指します。 もともとは、スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンが初めに提唱し、1973年に経済協力開発機構(OECD)の教育政策会議で取り上げられ、国際的に知られるようになりました。 「リカレント教育」についてOECDでは、すべての人に対して、「義務教育や基礎教育終了後のフォーマルな学校教育を終えて、社会の諸活動に従事してからも、個人の必要に応じて教育機関に戻り、繰り返し再教育を受けられる、循環・反復型の教育システム」が提唱されました。また、「教育に関する総合的戦略であり、その本質的特徴は、個人の生涯にわたって教育を交互に行うというやり方、すなわち他の諸活動と交互に、特に労働と、しかしまたレジャーおよび隠退生活とも交互に教育を行うことにある」とも説明されています。 ちなみに日本の文部科学省によると、「リカレント教育」以下のように説明されています。 “「リカレント教育」とは、「学校教育」を、人々の生涯にわたって、分散させようとする理念であり、その本来の意味は、「職業上必要な知識・技術」を修得するために、フルタイムの就学と、フルタイムの就職を繰り返すことである。 我が国では、一般的に、「リカレント教育」を諸外国より広くとらえ、働きながら学ぶ場合、心の豊かさや生きがいのために学ぶ場合、学校以外の場で学ぶ場合もこれに含めている。” では、就労と学習を繰り返すリカレント教育には、どのようなメリットがあるかを考えて見たいと思います。 リカレント教育のメリット 「リカレント(recurrent)」という単語自体はあまり聞きなれている言葉ではありませんが、日本語では「反復、循環、回帰」を意味する言葉です。したがって日本では、「回帰教育」とか「循環教育」、「学び直し」と訳されることもあります。 OECDの提言は、働き方が多様化し続ける社会に適応するためには、生涯を通じての教育が必須であり、これまで人生の初期にのみ集中していた教育へのアクセスを「血液が人体を循環するように、個人の全生涯にわたって循環させよう」と言っています。そういった意味では「循環教育」というのが、しっくりくるかもしれません。 現実の問題として、急速に進化し、あっという間に陳腐化する既存の職業技術や知識を仕事をしながらキャッチしていくのは大変です。であれば、従業員がフルタイムの就学とフルタイムの就職を交互に繰り返すことによって、アップデートしていくリカレント教育のスタイルが、企業内教育の穴を埋め、学習ニーズを満たすシステムとして必要になってきます。 文部科学省は、「特に職業人を対象として高等教育機関が実施する職業指向の教育(リフレッシュ教育とも呼ばれる)の拡充について、大学等に寄せられる期待は大きい。」と、積極的にバックアップする姿勢を見せています。 社会人経験を経てからの「リカレント教育」は、学習効果による自己成長が仕事に直結します。 具体的なメリットとしては、 最新のスキルのアップデート、専門的なスキルを身につけることが出来る 新規分野への挑戦や、人材が不足している分野など、新たなキャリアに挑戦するきっかけになる 学習中に得た新たな人脈による刺激や意欲が、仕事でのモチベーションやイノベーションに活かされる 就労の経験を踏まえて学習するので、専門知識・技術の習得のペースはゼロから学習するよりも抵抗なく、要領良くできる スキルが上がり、労働者の生産性が上昇することで、賃金が上昇する効果がある 経営環境やビジネスモデルの変化に伴い、企業が従業員に求めるスキル・知識も変化すると思います。それらの変化に対応する人材を確保する手法として、企業はリカレント教育を推奨するのも有効です。 何よりも、パーソナリティを知っている既存社員がスキルをアップデートして戻ってきてくれる方が、不確定な採用を行うよりリスクは低いかもしれません。 欧米のリカレント教育 労働市場の流動性が高く、キャリアアップのために学習機関で教育を受ける習慣の強い欧米では、本来のリカレント教育の概念に近い取り組みが進んでいます。 企業側も、就労中に学習機会が必要となった場合は、比較的長期間にわたって正規の学生として就学することを推奨する風土ができつつあります。日本のビジネスマンの自己啓発とは違い、フルタイムの就学とフルタイムの就労を交互に繰り返すことができるのです。これこそ「リカレント教育」の概念にマッチした循環スタイルです。 具体例としては、スウェーデン、フランス、イタリア、ベルギーなどでは有給教育制度があり、アメリカではコミュニティカレッジが盛んです。 スウェーデンのリカレント教育 スウェーデンのリカレント教育に関わる成人教育機関・制度は多岐にわたります。運営は、国や自治体行っているケースが多く、EU加盟国らしく、移民向けのスウェーデン語教育や高度職業教育なども用意されています。自治体に資金を割り当てて、Komvuxという成年教育学校のシステムもあります。 推進するための法制度も以下のように整備されています。 教育休暇法 在職者が2年以上、教育訓練のための就学休暇を取れる権利と、その後の復職の権利を保障する法律。 成人教育義務資金法 労働市場訓練を受けている者に支給する「労働市場訓練手当」と初・中等教育レベルの学習を希望する低学歴の成人に支給する「成人学生手当」。 高等学校教育の実質的義務教育化 行政が義務教育が終わった人に高等学校教育を提供する義務付けと、20歳6か月までにKomvux(公立成人学校・成年教育学校)での高等学校教育を受ける権利を保障。 スウェーデン政府は、議案「成人の学習と成人教育の発展」を国会で承認しました。そこには「全ての成人は、人格の成長、民主主義と平等の実現、経済成長、雇用、正当な再配分を促進するという目的で、知識を広げ能力を発展させる可能性を与えられるべきである」ことが示されています。 日本のリカレント教育の課題 日本は、昔から続く長期雇用の慣行があるため、社会人になってから正規の学生として学校へもう一度戻って学習するという、「本来の意味でのリカレント教育」は馴染みにくい状況です。 仕事に必要な技術や知識は、キャリアを中断して外部で学ぶのではなく、就職した企業内で業務と並行して習得していくという状態が多いようです。そのため、日本のリカレント教育の概念は、海外より広く解釈し、企業などで働きながら学ぶ場合や、職業志向よりも心の豊かさや生きがいのための生涯学習などを含んで「リカレント教育」としているようです。 また、社会人が受講できる教育機関や生涯学習関連機関、カリキュラムも未だ不十分と言えます。また、公的な補助や支援制度、関係機関の連携は未発達な部分が多く、労働を中断して教育に参加することが難しい現状があります。 そもそも欧米のような有給教育制度がある企業は、日本ではほとんどありません。企業からリカレント教育の機会が得られたとしても、教育費用が増大した場合の行政からの支援や給付金が少ないと、学習者の負担が大きくなるリスクも懸念されます。この状態では学習者も仕事を中断して、学生に戻ることはできません。 現在、文部科学省や地方自治体では、生涯学習審議会や生涯学習センターなどを設置し、「生涯学習社会」の実現に向けて動いている流れがあり、今後この流れの延長で、社会人が学びやすい環境が整備されていくのか注目されます。 日本のリカレント教育の施策 2017年11月、安倍首相は第3回「人生100年時代構想会議」の席上で「リカレント教育」の拡充と財源の投入を宣言しました。 平成30年度の文部科学関係予算のうち、リカレント教育向けの予算は総額で106億円で、前年より6億円増加しました。使い道としては、教育訓練給付金制度を設けたり、介護や育児など様々なライフステージでも社会人として活躍できるための支援として、リカレント教育に関する予算を増やすなどの施策を行っています。 他にも、専修学校による地域産業中核的人材養成や男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援などがあります。ただ環境的に、まだまだ欧米のように「循環教育」としてのリカレント教育は少ないです。 現時点でもリカレント教育が受けられる教育機関としては、大学の社会人入学制度の多様化が挙げられます。社会人特別枠入試、社会人特別選抜制度、科目等履修生制度、夜間部・昼夜開講制度、通信教育、公開講座、専門職大学院、サテライトキャンパスなどです。 社会人特別枠入試は多くの大学で実施されており、政府の進める専門実践教育訓練給付金の支給対象のものもすでにあります。 筑波大学東京キャンパス社会人大学院のビジネス科学研究科などは、日中働いている人が通うことを前提にした夜間講座です。 大学以外にも、高等学校や専門学校、高等専門学校でも、公開講座という形でリカレント教育の取り組みを行なっている学校もあります。 地方で働いている人など、近場で学べないない人には、通信という手もあります。放送大学では、オンラインやビデオ受講がメインで300科目を開講しており、臨床心理士、司書、学芸員、社会福祉主事などの資格も狙えます。 日本女子大学では、再就職支援に特化したシステムの開講もあります。 リカレント教育に対応した教育機関とプログラム こうした政府主導の環境の整備の効果もあり、徐々に企業側にもリカレント教育の重要性を認識し始めたようです。 背景としては、転職でのキャリアアップや女性の社会進出の増加によって、職業技術や知識を外部の教育機関で学習したいという人材側のニーズが出てきたことが考えられます。 特に女性は、産休育休を挟んでもキャリアを積みたいというのであれば、企業内教育で継続的に仕事上必要な技術や知識を身につけることは難しいので、自らのキャリアパスに合わせて、自ら学習機会を作ることが求められてきます。 こうしたニーズに企業側が答えられなければ、自己研鑽意識の高い人材の流出というリスクを抱えなくてはいけません。今後は官民一体となって、リカレント教育のフレームを作っていく必要があります。 “「人生100年時代」 「人生100年時代」という言葉は、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏の両氏が、著書「LIFE SHIFT(ライフシフト)100年時代の人生戦略」の中で提唱しました。 この本の中で、過去200年間の統計を分析すると、人類の平均寿命は確実に延びていくと予測し、寿命が100年の時代(=人生100年時代)になることから、これまで寿命を80年として考えてきた人生設計を、抜本的に考え直す必要があると訴えています。 これを受け厚生労働省は、人生100年時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインを検討する会議として、2018年9月以降「人生100年時代構想会議」を行っています。” 最後に 教育は人生の初期だけで終わりではなく、生涯にわたり続けていくことが重要であり、必要に応じて個人が就労と交互に行うことが望ましいとOECDは提言していました。 しかしながら日本では、仕事に必要な知識・技術の習得は、長期雇用を前提とする企業内教育に大きく依存してきました。しかし近年は非正規雇用の増加など、従来の雇用形態が揺らぎ始めており、いつでも誰でも、主体的に学び直せるリカレント教育の機会がより必要になっています。関連施策や受け入れ機関のさらなる整備が求められます。 今後、急速な少子化高齢化により、労働力人口の減少が懸念される一方で、健康寿命が延び、100歳まで生きることが普通になる「人生100年時代」がやってきます。 2017年に首相官邸で開催された「人生100年時代構想会議」では、すべての人に開かれた教育機会を確保し、何歳になっても学び直しができるリカレント教育の重要性が確認されました。 今後政府は、経済的な事情などで進学できなかった人や、出産、育児で退職した女性、または定年退職した高齢者などが「いつでも学び直し・やり直しができる社会」を目指すとして、文部科学省は18年度の予算において、リカレント教育や職業教育の充実に取り組む大学および専修学校等への支援にあてる予算を増額するなど、具体的な対応を進めています。 個人的には、リカレント教育や職業教育の充実は、日本のビジネスシーン全体のスキルアップに必須であり、人間が充実した人生を送れるためにももっと重視してもらいたいと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • モチベーション3.0とは(Part1)

    「モチベーション3.0」という言葉を耳にされたことがありますでしょうか? 2010年くらいからアメリカのIT関連企業を中心に、注目、導入されている人材マネジメントに関するキーワードです。 「モチベーション3.0」とはダニエル・ピンク氏の著書「モチベーション3.0 持続する『やる気!』をいかに引き出すか」で定義されている言葉です。 Web2.0など「言葉の意味の変化をバージョンで表す」のが流行っていますが、「モチベーション3.0」もその類です。 今回はこの「モチベーション3.0」というキーワードについて、簡単にご紹介してみたいと思います。 ※ちょっと長くなってしまったので、3回に分けて掲載させていただきます。 目次 ダニエル・ピンク氏について モチベーションの分類 モチベーション2.0の盛衰~新しいオペレーティングシステムの誕生 アメとムチが(たいてい)うまくいかない7つの理由 最後に ダニエル・ピンク氏について 「モチベーション3.0」の説明の前に、まず著者のダニエル・ピンク氏についてどんな人物かをご紹介したいと思います。 ダニエル・ピンク氏は、クリントン元大統領など著名人が卒業したエール大学ロースクールで、法学を勉強し、ゴア元副大統領のスピーチライターとして活躍した人物です。 今ではベストセラー作家として活躍しており、「ハイコンセプト、新しいことを考え出す人の時代(三笠書房)」を書店で目にした方は多いのではないでしょうか。 「ハイコンセプト~」では、世界20か国語に翻訳され、日本語訳は大前研一氏です。 わかりやすくウィットにとんだ文章で、日本でも人気が高い作家です。また、日本のサブカルチャー、特に漫画については来日して研究し、本を出版するほど詳しい人であります。 2010年発売の「モチベーション3.0 持続する『やる気!』をいかに引き出すか」は同じく大前研一氏が翻訳してますが、原題は「Drive:The Surprising Truth About What Motivates Us」となってます(※アメリカでは2009年発売)。この本では、従来のモチベーションの定義やインセンティブの手法によるやる気喚起が果たして良かったのかを検証し、その間違いを立証する内容となってます。単純に給与を上げれば、問題が解決するというわけもなく、「アメとムチ」を基本にした従来の外発的動機づけ(モチベーション2.0)では、効果を期待できないばかりか、7つの致命的な欠陥があると指摘しています。 本の宣伝用コピーにはこのように書かれています。 “モチベーションについて信じられていることの大半が、とてもではないが真実とは言えない……これを本書で示したい。厄介なのは、動機づけについて、多くの企業が新しい知識に追いついていないという点だ。今なお、きわめて多くの組織が、人間の可能性や個人の成果について、時代遅れで検証されていない、科学というよりほとんど俗信に根ざした仮定に基づき運営されている。目先の報奨プランや成果主義に基づく給与体系がその例だ。” 人材育成や企業内教育に携わる者にとってはかなり興味をそそるコピーですが、仕事や自己啓発などに積極に取り組む自律した人材を育てたい方にぜひ読んでいただきたいと思います。 では、まずは「モチベーションの分類」について考えるところからスタートです。 モチベーションの分類 モチベーション3.0が注目される背景には、現代の社会状況や会社組織の変化があります。現代は以前より従業員がモチベーションを維持することが難しくなった、モチベーションは湧きにくいと訴える経営者が増えているようです。 半面、企業が求めるモチベーションの高い人材へのニーズは高まりを見せています。激しく変動する環境に適応し、指示されたことをただこなすだけでなく、自分でモチベーション高く自律的に行動ができる人材を育成すべく、企業はさまざまな施策を行っています。 こうした変化から、メンバーのモチベーションを維持管理”する・させる”ための方法として、やる気を引き出す動機付け「モチベーション3.0」に注目が集まりました。 「モチベーションx.x」とは、「モチベーション」という言葉を、その動機別に数字を使って分かりやすく分類したものです。 人類には「モチベーションが3つある」と、ダニエル・ピンク氏はそれにそれぞれのバージョンを付けて説明しています。 ※説明に「OS」という表現がありますが、詳しくは後述しますので、とりあえず「行動原理」という感じで読んでいただければと思います。 1. モチベーション1.0:飢餓動因・渇動因・性的要因などの生物学的な動機づけ もっとも原始的な「モチベーション1.0」は、生存を目的としていた人類最初のOSです 。 2. モチベーション2.0:周囲からの報酬や罰に対しての反応するもう一つの動機づけ「外発的動機づけ」 アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOSです。報酬をもらいたい、もしくは罰を逃れたいというモチベーションですね。 ルーチンワーク中心の時代には有効だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥ると説明されてます。 3. モチベーション3.0:内発的動機づけ 3つ目は20世紀半ばに、ハリー・ハーロウ、エドワード・デシなどが主張した「内発的動機づけ」です。 自分の内面から湧き出る「やる気!=ドライブ※」に基づくOSです。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気」の基本形となります。 今後の時代を生きていくには、自律性・成長性・目的性を伴うモチベーションである「モチベーション3.0」が必要になると述べられています。 しかし、ビジネスの世界にはこの新たな認識は十分に活かしきれていないので、ギャップを埋める必要があるとダニエル・ピンク氏は主張します。 ※「Drive」は、訳者の大前氏が日本語にちょうどいいものがなかったので、「やる気」に「!」を付けたそうです。 参考:ハリー・ハーロウとエドワード・デシによる内発的動機付けの概念 心理学者のハリー・ハーロウは、リーザスザルの檻の中に、掛け金や留め金、蝶番などの仕掛けによって構成されたパズルを置いて、そこにサルを一匹ずつ入れてどのような行動をするか観察した。するとサル達はパズルに大きな関心を示したのである。そして、彼らはそのパズルの解き方を発見し、一度解いたパズルを元に戻す方法まで見出した。しかも、彼らは何度もこの一連の行為を繰り返し行うのだ。パズルを解くことにたいするエサの報酬が存在したわけではないのに、この好奇心旺盛なサルたちは熱心にパズルに取り組んだ。 ハーロウはこの状況について「さらには、それを楽しんでいるようだった。パズルを解くために彼らは何時間も費やし、まるでその活動をすること自体が報酬であるかのようだった。」と述べている。そこで、ハーロウは、このような現象に対して「内発的動機付け」という名前をつけたのである。 また、ロチェスター大学のエドワード・デシ教授は、パズルを解かせる実験で、報酬を与えた場合、与えなかった場合、また途中与えたがやめてしまった場合などのケースを検証し、「報酬によって、人のやる気を短期間起こさせることは可能だが、報酬の効果は弱まる」として、アメとムチによる外発的動機づけが長期的なプロジェクトを続けるために必要な長期的なモチベーションにつながらない、むしろ悪影響があると発表した。 これは当時の学界から「邪説だ!」とずいぶん反対を受けた。また、人間には「新しいことややりがいを求める傾向や、自分の能力を広げ、発揮し、探求し、学ぶというい傾向が本来備わっている」として、1975年に「内発的動機付けとは、活動することそれ自体がその活動の目的であるような行為の過程、つまり、活動それ自体に内在する報酬のために行う行為の過程を意味する」と定義している。 モチベーション2.0の盛衰~新しいオペレーティングシステムの誕生 ダニエル・ピンク氏は著書の最初で、モチベーションに関して行き渡っている見解が、いかにビジネスや現代生活を相容れないか検証・説明しています。 その中で、コンピュータと同様に社会にも「人を動かすための基本ソフト(OS)」があると述べています。人間を動かす「やる気の素(DRIVE)」をコンピューターのOSに例え、このOSは人間の心理の奥にあり、ほとんど表面には現れないが、行動のすべてを司どっていると説明しています。 このOS論で言えば、人間の最初のOS「モチベーション1.0」は、生存を目的としていました。「生理的動機付け」と呼ばれることもあります。人間は生きるために、食料を探したり作ったり、野生動物と戦ったりしました。モチベーション1.0が一般的だった時代は、生きるか死ぬかのサバイバルの時代なんですね。 戦後の日本や後進国では「生きるため、社会や組織を継続させるために頑張るという動機付け」で働いている人は数多くいました。しかし、今の日本のように発展し、高い生活水準を持っている先進国では、今日の食事を心配する人はあまりいません。モチベーション1.0は、自身と社会の生存を維持するための動機付けなので、会社で働くときのやる気としては、現在ほとんど機能しないのです。 次のOSである「モチベーション2.0」は、社会の発達に応じて進化したものです。つまり、外的な報酬と罰というシステムに対応します。 モチベーション2.0、つまり「アメとムチ」の外的動機付けが主流となり始めたのは、産業革命が始まった19世紀後半からです。農林漁業と製造業が職業の大半を占めていた当時は、モチベーション2.0による動機付けが、単純作業をする労働者にとって最適な動機付け方法でした。 「シャツをたくさん縫えば、それに応じて報酬が払われる」 「リンゴをたくさん収穫すれば賃金がそれに応じてもらえる」 という答えや手法が決まっていて、あとはどれだけ早く、どれだけ多くこなせるかが課題となる仕事は、インセンティブによるやる気が労働者の成果を高めます。 しかしながら、これら外的なインセンティブが人間にとって必ず合理的に反応する、という前提に基づいて説明されてきた考えが、近年の行動経済学では必ずしもそうでないことが証明されてきました。むしろモチベーションに対して不合理的に反応することもです。 例えば、収入が少なくても、明確な目的意識が得られる仕事のために、実入りの良い仕事をやめてしまう人がいるのは、モチベーション2.0の動機とは一致しません。つまり、人間の経済行動を十分に理解するためには「モチベーション2.0」と一致しない考え方も受け入れる必要があるということです。 ダニエル・ピンク氏は、「モチベーション2.0は20世紀のルーチンワークには有効だったが、21世紀に私達の組織、仕事に対する考え方やその手法とは、互換性がないことが明らかになってきた」とし、OSのアップグレードが必要であると説明しています。 つまり、現代の仕事には単純作業はもっぱら機械・ロボットにまかせ、クリエイティブとイノベーションのために想像力を働かせることが仕事となっています。このような社会では、インセンティブのような動機付けはあまり有効ではないということです。有効でないどころか、様々なデメリットを発生させると氏は警告しています。 例えば下記のようなデメリットです。 モチベーション2.0によるデメリット 成果を出すことへの必死さが視野を狭め、創造性を失わせる。 ホスピタリティなど、成果につながらないことへの意欲が失われる。 目先の成果を追い求めるあまりに、不正を働く、仲間と協力しなくなる。 成果が出ないと罰せられるため、成功への自信を失ってしまう。 そして次に出てくるのが「モチベーション3.0」:内発的動機づけです。 核心のモチベーション3.0の説明の前にちょっと脱線して、次章ではモチベーション2.0で行われた「アメとムチ」つまり、「外発的動機づけ」がうまくいかなくなった理由の話をしてみたいと思います。 アメとムチが(たいてい)うまくいかない7つの理由 「モチベーション2.0」つまり「外発的動機づけ」が、本来の意図とは反対の影響を生み出すのはなぜかの理由を7つの問題点で説明してます。 外発的動機づけのデメリット 内発的動機づけを失わせる かえって成果が上がらなくなる 創造性を蝕む 好ましい言動への意欲を失わせる ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する 依存性がある 短絡的思考を助長する アメとムチマネジメントでは、ありきたりすぎて、喜ばないばかりか、逆に反作用があることが実証実験にて報告されています。 例えば、生活に必要な最低限のものが満たされてない人や、仕事の目的や意義が十分に理解できない人にとっては、ある程度の動機づけにはなりますが、ある程度満たされた職場にいて、自律して物事が考えられる人材に対してこの手法を続けると、創造的な発想をむしばみ、短絡的なものの見方を助長し、悪影響をあたえることになります。そして意欲の減退につながりやすく、しだいに成果が上がらなくなることが多数報告されてます。 そこで、内発的動機づけとして、モチベーション3.0が必要になってきます。これは、金銭で報いるのではなく、興味、好奇心、才能の開花、自己の成長、キャリア意識、達成感、顧客や他のメンバー、更には地域社会への貢献意識を中心にした動機づけになります。これは、メンタリングやコーチングによる動機づけ法と同じです。 誤解があるといけないのですが、アメとムチが常に悪影響を及ぼす訳ではありません。 くどいようですが、規則的なルーチンワークならアメとムチマネジメントは効果を発揮します。内発的動機づけも、破壊される創造性も、この種の仕事にはほとんど存在していないから悪影響を受けません。 さらに、仕事の必要性の根拠を説明し、退屈な仕事だと認めつつ、望む方法でその仕事を完成させる自由を相手に与えた場合には、このアメとムチが一層効果を発揮する場合もあるようです。 しかし、残念ながらモチベーション2.0で対応できるルーチンワークは、今後ロボットなどに置き換わり、仕事として少なくなっていくことは確実な未来です。 したがって、逆ビジネスを考えるのであれば、よりモチベーション3.0に対応したマネジメントを真剣に考えなければならないタイミングに来ています。 あなたはどちら?タイプ I と タイプ X モチベーション3.0の説明の前に、「タイプI」と「タイプX」について少し説明しておきます。 「タイプ」とは、モチベーション(動機づけ)に対する行動原理みたいなものと考えてます。 「I」は「内発的(intrinsic)」から、「X」は「外発的(extrinisic)」からと言えば何となく想像がつくと思います。 例えば、「タイプ I」は、モチベーションとして、第三の内発的動機づけを活力の源とする思考を持つ人物です。このタイプの人は、「自分で人生を管理したい」「新しいことを学び想像したい」、そして「成長して世界に貢献したい」という感じに、人間に内在する欲求を元に行動するタイプです。モチベーション3.0は、21世紀のビジネスを円滑に機能させるために必要なアップグレード版で、「タイプ I」に適しています。 「タイプ X」は逆で、内部からの欲求と言うより、外部からの欲求によって動く、つまり外的報酬でマネジメントすると良いタイプです。活動から自然と生じる満足感ではなく、むしろ、その活動から得られる外的な報酬と結びついてます。したがってモチベーション2.0は「タイプ X」に効果があります。 もちろんタイプXの人が活動により生じる喜びをいつも無視しているというわけではないし、タイプIに人が外部からの報酬に全く効果がないというわけではありません。あくまで、その人の主な動機づけがどちらに重きがあるかという話です。 「タイプ I」 は生まれながらの資質ではなく、後天的に培うことができ、その行動は、フォーマンスの向上、健康の増進、全般的な幸福度の上昇に繋がります。 最後に モチベーション2.0の話しが少し長くなってしまったので、続きは次回に回したいと思います。 次回は、核心であるモチベーション3.0の「3つの要素」について、企業における事例などを交えてご説明します。 最後までお読みいただきありがとうございました。

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